第36話 合致する思い
倒れるミラの頭上に、一刀が瞬く。
死んだはずのアルカは、黒に染まる両腕で刀を振り下ろし、ミラの脳天を真っ二つにしようとする。が、刀は兜鎧加装に弾かれ、ミラに到達することはない。
「アルカさん…!?」
ヘリクはアルカが今も動けることに、驚愕の声を上げた。四肢を切断されたアルカに息はなかった。そして、斬られたはずの四肢は影のようなものに変貌している。
「四肢の創生……? こんなタイミングで……?」
ミラはアルカの奇襲から逃れ、訝しむようにその姿を見つめた。
おそらく、アルカは死の直前に創生を発現させ、死を回避した。それはミラと同様、ヘリクも考えついたことだった。
「アルカさん……」
ヘリクはアルカの背を見つめ、力なくその名を呼ぶ。
『ヘリク様が殺したのです。お兄さんの親を』
ヘリクにそのときの記憶はない。しかし、きっとそれをしたのだろうという確信があった。育ての親――水を求める盲信者を見殺しにした自分ならば、と。
だから、アルカの仇である自分は今、どうすべきかと立ち尽くす。
「…………」
しかし、アルカはその場に立ったまま、動く気配がない。どうしたのかとヘリクは手を伸ばすが、唐突に刀を差し向けられる。
アルカは無言だった。鈍色に光る刀身と、全ての光を吸い込むような黒き腕。ヘリクは明確な殺意を感じた。
遅れて気づく。アルカの目の焦点が合わないことに。そして、口の端から涎を垂らしていることに。
「意識が…ない?」
おそらく、ヘリクに刃を向ける動作は無意識によるものだった。今まで抑え込んできた憎悪に突き動かされるように、アルカは本能的に動いている。
ごくりと、ヘリクは固唾を飲む。覚悟はできていた。アルカに殺されることを。それほどのことをしたのだから、当然の報いだと。
しかし、今はそんなことをしている場合ではない。目の前の脅威であるミラをどうにかしなければならない。ヘリクはそう思い、口を開こうとした。
そのとき――
「………」
アルカは切っ先を、ヘリクからミラへと向けた。親の仇よりもミラを優先した。
「最悪な気分ですよ、本当に……」
ミラは対峙する二人に、そんな言葉を落とすのだった。
◇
アルカとヘリクが、ミラと対峙したそのとき、シアハがぱちりと目を覚ます。
シアハは頭の血を拭い、状況を確認する。アルカとヘリクが、ミラと戦っている。そして、離れた場所にヒオリとグリードが倒れている。
シアハは、ヒオリとグリードのところへ向かう。グリードは死んでいる。ヒオリは息がある。ヒオリを横抱きにし、安全な場所へと向かう。
ふと、シアハは振り返り、虚ろな瞳のグリードを見た。そこに在りし日を見た。
『仲間のために死ねるんなら、本望だな』
「そう、だったな…お前は…」
シアハはヒオリを連れ出す。グリードが護った命、無駄にするわけにはいかない。
町へ向かう道中、騒ぎを聞きつけてやってきた騎士と出くわし、ヒオリを預ける。そして、特級級顕現使いである《《ツアー》》の出動を要請する。
ミラが特級顕現使いなのは明らかだ。生半可な援軍は焼け石に水だ。王国が擁する最強の特級顕現使い――ツアーに任せるほかない。シアハは騎士にそう言い、町の避難誘導をするようにと告げる。
シアハはそのまま、来た道を戻ろうする。援軍が来るまでの足止めを果たさなければならない。そのとき、後ろから服の裾を掴まれた気がした。
それはヒオリだった。掴まれた力はとても弱々しく、最初掴まれたとわからなかった。
「………彼女の、顕現について……です」
シアハは、ヒオリの消え入りそうな言の葉を聞く。それはミラの顕現の正体についてだった。
「………アルカを…お願いします」
「ああ」
シアハは力強く頷き、来た道を駆ける。道中、シアハは強く拳を握り、心臓に押し当てる。
「俺も…覚悟を決めよう」
遠くに響く轟音に、シアハは静かな決意を示すのだった。




