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Arca  作者: あばんじゅ


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35/63

第35話 せめて、人間らしく

 兜鎧加装《とうがいかそう》。ミラを包む鎧は、そう呼称される。


 無から物体を作り出す創生の、進化系とも考えられている。特徴は二つ。創生をモチーフとした兜と鎧を生成すること。そして、創生に宿る特殊な能力――顕現が非常に強力な傾向にあること。


 歴史上の特級顕現使いのほとんどが兜鎧加装《とうがいかそう》を使えたという記録があり、特級顕現使い=兜鎧加装《とうがいかそう》と認識される場合もある。


 そのため、兜鎧加装《とうがいかそう》の使い手と相対した場合、逃げるのが得策である。


 ◇


「っ………かはっ……、私を…置いていけ…」


 ヒオリが、止血を施すアルカの手を握る。その力は恐ろしいほどひ弱だった。


「いやだ! こんなの…!」


 アルカはヒオリのそばを離れない。それでもと止血を続ける。理性では無駄だとわかっている。それでも一秒でも命を繋ぎ止めなければと、身体が動くのだ。


 そのとき、小さな足音が近づく。


「約束通り――お兄さんが最後です」


 兜鎧加装に包まれたミラが、アルカの前に現れる。


「ミラ――――!」


 アルカは怨嗟のごとく、その名を叫んだ。


 ミラの大鎌が迫る。アルカの両腕が斬り落とされた。膝から崩れ落ちる。倒れ込むアルカの顎に刃先が食い込み、そのままミラは大鎌を持ち上げ、アルカを宙吊りにする。


 ミラは勢いよく、両腕のないアルカを宙に投げ飛ばす。そして、両脚を切断した。四肢を失ったアルカは地面に転がり落ち、仰向けになる。


 その目はヒオリのほうを向こうと動くが、結局その前に息絶えるのだった。


 ◇


 四人を始末したミラは、ヘリクへ歩み寄る。ヘリクは未だ頭を抑えて、うずくまっていた。


「ヘリク様……」


 苦しむ姿に、ミラは期待を寄せる。今は自分の正体を思い出している途中なのだと。あと少しで、あのときのヘリクと再び会えると。


「…、…な……!」


 ヘリクがなにか呟く声が聞こえた。ミラはそれが気になり、うずくまるヘリクのそばで膝をつく。ミラはその言葉を聞きたくて、さらに顔を近づける。


「――ふざ……けるな!」

「うぁ…――!」


 が――ミラはヘリクに殴り飛ばされた。小さく悲鳴を上げ、ミラは地面に叩きつけられる。


 顔面を殴られたミラは、兜鎧加装のおかげで無傷だった。しかし、唐突なことにミラは思わず、殴られた兜に手を当てていた。


「……え? へ、ヘリク様……」


 困惑。ミラは呆然とヘリクを見上げる。そんなミラなど無視して、ヘリクはアルカとヒオリに近づく。


 ヘリクはアルカの口に手を当てる。だが、息を感じなかったのか、静かに離れる。そして、次はヒオリの口に手を当てた。ヘリクの手がぴくりと反応したのが見えた。


 ヘリクは背中からぶら下がったままの触手を切り離し、それをヒオリの胸に当てた。それは形を変え、ヒオリの傷を塞ぐように広がる。そして、ヒオリから溢れ出していた血が止まった。


 ミラは顔をしかめた。それは、死にゆくミラを救った奇跡と同じものだった。


「それは! わたしだけのものなのに!」


 ミラは怒りを露わにし、ヒオリに大鎌を振るう。だが、それより疾《はや》くヘリクが再びミラの顔を殴りつける。猛烈な威力にミラは踏ん張ることもできず、投げ出される。


「お前の言うように、私は化け物なんだろう」


 倒れ、絶望するように顔を抑えるミラに、ヘリクの冷徹な声が響く。その声はミラが初めて出会ったときのものとは違う。暴虐非道を感じさせない、真っ直ぐな声。


「じゃあ、お前に対して湧くこの怒りはなんだ? 盲信で人を殺すお前を、私は理解できない……!」


 ミラは神と崇める存在から、明確な怒りを向けられていた。ミラはまるで説教される子供のように慌てだす。


「ど、どうしてですか…? 私は神であるあなたの天啓に感化されて――」

「俺は神じゃない! 人間だ!」


 ミラの言葉を遮り、ヘリクは叫ぶ。


「そうだ…! 私は神でもなんでもない! 人だ! お前たちと同じ人間なんだ! だから償うんだ! 人として! 自分の過去に決着を付ける! それが――私の使命だ!」


 ◇


 真っ暗闇の中、脳裏にあったのは二撃同致《にげきどうち》の技を持つ、影の剣士だった。


 その瞬間、寸断されたはずの四肢が蘇る。四肢は影のような見た目をしており、あの剣士を彷彿とさせた。そして、五感を失っていた身体から意識が始動するのを感じる。


 偽物の身体。しかし、もとの肉体と遜色ないほど馴染む。アルカは強い感情に背を押され、立ち上がる。痛みはない。苦しみもない。


 無我、ひとえに刀を握る。切っ先が捉えるのは、真紅の剣士を手にかけた鎌の少女。


 黒の剣士はその背後に迫り、刀を振りかざすのだった。

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