第35話 せめて、人間らしく
兜鎧加装。ミラを包む鎧は、そう呼称される。
無から物体を作り出す創生の、進化系とも考えられている。特徴は二つ。創生をモチーフとした兜と鎧を生成すること。そして、創生に宿る特殊な能力――顕現が非常に強力な傾向にあること。
歴史上の特級顕現使いのほとんどが兜鎧加装を使えたという記録があり、特級顕現使い=兜鎧加装と認識される場合もある。
そのため、兜鎧加装の使い手と相対した場合、逃げるのが得策である。
◇
「っ………かはっ……、私を…置いていけ…」
ヒオリが、止血を施すアルカの手を握る。その力は恐ろしいほどひ弱だった。
「いやだ! こんなの…!」
アルカはヒオリのそばを離れない。それでもと止血を続ける。理性では無駄だとわかっている。それでも一秒でも命を繋ぎ止めなければと、身体が動くのだ。
そのとき、小さな足音が近づく。
「約束通り――お兄さんが最後です」
兜鎧加装に包まれたミラが、アルカの前に現れる。
「ミラ――――!」
アルカは怨嗟のごとく、その名を叫んだ。
ミラの大鎌が迫る。アルカの両腕が斬り落とされた。膝から崩れ落ちる。倒れ込むアルカの顎に刃先が食い込み、そのままミラは大鎌を持ち上げ、アルカを宙吊りにする。
ミラは勢いよく、両腕のないアルカを宙に投げ飛ばす。そして、両脚を切断した。四肢を失ったアルカは地面に転がり落ち、仰向けになる。
その目はヒオリのほうを向こうと動くが、結局その前に息絶えるのだった。
◇
四人を始末したミラは、ヘリクへ歩み寄る。ヘリクは未だ頭を抑えて、うずくまっていた。
「ヘリク様……」
苦しむ姿に、ミラは期待を寄せる。今は自分の正体を思い出している途中なのだと。あと少しで、あのときのヘリクと再び会えると。
「…、…な……!」
ヘリクがなにか呟く声が聞こえた。ミラはそれが気になり、うずくまるヘリクのそばで膝をつく。ミラはその言葉を聞きたくて、さらに顔を近づける。
「――ふざ……けるな!」
「うぁ…――!」
が――ミラはヘリクに殴り飛ばされた。小さく悲鳴を上げ、ミラは地面に叩きつけられる。
顔面を殴られたミラは、兜鎧加装のおかげで無傷だった。しかし、唐突なことにミラは思わず、殴られた兜に手を当てていた。
「……え? へ、ヘリク様……」
困惑。ミラは呆然とヘリクを見上げる。そんなミラなど無視して、ヘリクはアルカとヒオリに近づく。
ヘリクはアルカの口に手を当てる。だが、息を感じなかったのか、静かに離れる。そして、次はヒオリの口に手を当てた。ヘリクの手がぴくりと反応したのが見えた。
ヘリクは背中からぶら下がったままの触手を切り離し、それをヒオリの胸に当てた。それは形を変え、ヒオリの傷を塞ぐように広がる。そして、ヒオリから溢れ出していた血が止まった。
ミラは顔をしかめた。それは、死にゆくミラを救った奇跡と同じものだった。
「それは! わたしだけのものなのに!」
ミラは怒りを露わにし、ヒオリに大鎌を振るう。だが、それより疾くヘリクが再びミラの顔を殴りつける。猛烈な威力にミラは踏ん張ることもできず、投げ出される。
「お前の言うように、私は化け物なんだろう」
倒れ、絶望するように顔を抑えるミラに、ヘリクの冷徹な声が響く。その声はミラが初めて出会ったときのものとは違う。暴虐非道を感じさせない、真っ直ぐな声。
「じゃあ、お前に対して湧くこの怒りはなんだ? 盲信で人を殺すお前を、私は理解できない……!」
ミラは神と崇める存在から、明確な怒りを向けられていた。ミラはまるで説教される子供のように慌てだす。
「ど、どうしてですか…? 私は神であるあなたの天啓に感化されて――」
「俺は神じゃない! 人間だ!」
ミラの言葉を遮り、ヘリクは叫ぶ。
「そうだ…! 私は神でもなんでもない! 人だ! お前たちと同じ人間なんだ! だから償うんだ! 人として! 自分の過去に決着を付ける! それが――私の使命だ!」
◇
真っ暗闇の中、脳裏にあったのは二撃同致の技を持つ、影の剣士だった。
その瞬間、寸断されたはずの四肢が蘇る。四肢は影のような見た目をしており、あの剣士を彷彿とさせた。そして、五感を失っていた身体から意識が始動するのを感じる。
偽物の身体。しかし、もとの肉体と遜色ないほど馴染む。アルカは強い感情に背を押され、立ち上がる。痛みはない。苦しみもない。
無我、ひとえに刀を握る。切っ先が捉えるのは、真紅の剣士を手にかけた鎌の少女。
黒の剣士はその背後に迫り、刀を振りかざすのだった。




