第23話 ワガママ
「なぜ…大勢殺したヘリクに協力するような真似をするんですか? 記憶喪失になったとしても、奴のやってきたことは変わらない」
アルカは低く、押し出すような声で話す。そこに怒気が含まれているのは確かで、リズリアの感情検知に頼るまでもなく、シアハたちにも感じ取れた。
「先ほども言ったように、ヘリクの探し人を見つけるのが主目的ではありません。あくまでそれを条件に肉片の採取をしようとしているのです」
リズリアは普段通りの調子でそう言う。まるでアルカを諭すように。
「だとしても、奴には一片の慈悲も与えちゃいけない」
「これは感情的に進めていい話ではないのですよ」
一転して、リズリアの声は脅すようなものに変わる。
「ヘリクは不死の顕現を用いて、我が王国の民の命を大勢奪いました。悲劇はここで食い止めなければならない。確実に、迅速に、犠牲の少ない方法で。それをさきほど話したのですが――それとも代案があるのですか?」
「…」
もちろんアルカに代案などない。なぜなら、アルカの具申はただのわがままなのだから。
「それでもダメだ! ヘリクに…あんな奴に嘘でも協力するなんて…! じゃあシュドーや殺された人たちはどうなるんだ! 絶対納得しない!」
育ての親の仇の願望を叶える手助けなんてしたくない。それは当然湧き出る感情だろう。しかし、今この場ではヘリクという災害を最も確実に滅殺する方法を話している。そこに私情や感情を持ち込むのは、国を守る騎士として然るべき態度とは言えない。
「探し人なんてどうでもいい! 裁きを受けなければならない。たとえ殺すためだとしても…!」
「アルカ、あなたはこの任務から降りて下さい」
崖の上から突き放されるような感覚。突然のことに、アルカは二の句を継げない。
「それがあなたの《《底》》であれば、以降は不要です。ヘリクとの接触を一切禁じます。シアハ、連れて行きなさい」
「はい」
アルカは、シアハに腕を掴まれる。無理やり引っ張られ、退室させられる。扉が閉まる直前、ヒオリと目が合う。
ヒオリは一瞬、憂いを帯びた表情を見せたが、すぐに顔を伏せる。――が、再びこちらのほうを力強く見つめてきた。その感情がなんなのか、アルカは知る暇もなく、扉が閉まる。
「頭を冷やせよ」
シアハにそう言われ、廊下にいる衛兵に引き渡される。そして、外まで連れ出され、宿舎で待機するよう言い渡されるのだった。
◇
アルカが退室させられた直後の執務室では、重たい沈黙が流れていた。
「そういえば、アルカはまだ十四歳でしたね…」
リズリアは少しだけ俯き、呟く。
しかし、今はヘリクの対処に専念しなければならない。リズリアはそのまま今後のことについてシアハ、グリード、ヒオリに話すのだった。




