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Arca  作者: あばんじゅ


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第20話 変化の風

「見つけた」


 鬱蒼とする森の中、草木を掻き分け、アガッシアの隠れ家を捜索するアルカの耳に木の上に登っているシアハの声が届く。


「本当か?」


 アルカも木に登り、シアハと同じくらいの高さの枝木に到達する。そして、シアハが指差す方向を望むが、アルカにはそれらしきものは見えない。


「ん? どれだ?」

「あれだ。あそこに不自然に枝葉が集まっているところがある」

「え? どこ…?」


 シアハが指差す方向――おおよそ二百メートル先だろうか、目を凝らして見るが、それが隠れ家かどうかなんて判別がつかない。


「あそこだけ塊になっている。枝葉も不自然に切り揃えられているし、あまり風に靡《なび》かない。人為的に作られた特徴がある」


 アルカはその指摘を考慮しながら再び見るが、わからなかった。そもそも視力の限界なのか、そんな細部まで見れなかった。


 シアハとアルカは木から下り、ヒオリとグリードを呼ぶ。隠れ家らしき場所を見つけたことを伝え、シアハが単独でヘリクが潜んでいないか確認することに決まる。


 シアハが一人で向かうのは危険だと思ったが、大人数でいけばバレやすくなる。それに、シアハほど感覚に優れる者は他にいない。


 シアハは目もいいのだが、それ以外の感覚も鋭い。聴覚、嗅覚、感覚など、野外任務に適した長所を兼ね備えている。だからこそ、シアハに任せると、みんなの意見は一致した。


 ◇


 シアハが偵察に行ってから数分――アルカ、ヒオリ、グリードの三人は、もしものときのために待機していた。有事の際はシアハが信号弾を打つ手筈となっている。それまでやれることはない。


「手慣れてたな…シアハ」


 アルカは森に入ったときから感じていたことを口に出す。

 

「まぁ、シアハは単独任務が多いからな。こういう場所も慣れてるのかもな」


 グリードがアルカの独り言に答えてくれる。それはアルカには初耳で、気になるものだった。


「へー、単独任務ってあんまり聞いたことないけど、どんなのがあるんだ?」

「例えば、追跡、潜入、護衛、そして暗殺。基本的に、騎士団の任務は複数人で遂行するんだが、シアハに関しては例外だな。あいつの能力や創生は、単独行動や隠密行動に向いてるからな」

「そもそもシアハってなんで騎士団に入ったんだろうな」


 アルカは次にそんなことを疑問に思った。シアハは自分のことについてあまり話さない。基本的に寡黙で、質問しない限りはプライベートについて話す印象はない。アルカから見れば、身近で謎の多い人物だった。


「さぁ、俺も知らんな。聞いたことがない。ヒオリは?」

「いや私も」


 意外とみんなも知らないんだな、と思っていると、いきなり後ろの草木から、シアハが現れた。


「雑談なんて、随分余裕があるな」


 足音も気配もなく、声を掛けられるまで気づかなかった。これは確かに潜入に向いてそうだ、とアルカは思う。


「もう戻ってきたのか? ヘリクは?」

「いなかった。ついてこい」


 脇目も振らず、シアハは先に進んでいく。アルカたちも遅れてそれについていく。


 恐らく、雑談の内容は聞かれていたのだろう。流れでそのまま聞こうとも思ったが、シアハは行く手を阻む草木をものともせず、どんどんと先を進んでしまう。アルカはついていくのに必死で、言葉を出す暇もなかった。


 ◇


 アルカたちは、アガッシアの隠れ家の前に立つ。それが本当に隠れ家だとわかったのは、十メートルほど近づいたときだった。


 隠れ家は若干荒らされており、枝葉を重ねて作られた屋根や壁は、所々穴が空いたり、崩れたりしている。


 そしてなにより――


「ヘリクの肉片だ」


 地面にはヘリクの肉片があり、今も蠢いていた。


 アルカは周辺をよく見渡す。木陰になってわかりづらいが、周りには血が散乱していた。そして、近くの樹には刀で切りつけられた跡もある。アガッシアとヘリクの戦闘の様子がありありと浮かぶ。


 ヘリクの肉片は、対ヘリクの毒の開発に必要なため、見つけ次第全て回収する。そして、シアハの言う通り、ヘリクはいなかった。引き続き、ヘリクを追跡するため、肉片は近くの街の騎士団の詰め所に預け、王宮に届けてもらうことにする。


 肉片を回収し終えたアルカたちは森を抜け、近くの街へ向かう。道中、次にヘリクが向かった先がどこだろうかと話し合っていた。


「やはりヘリクは西へ移動している。このまま大陸を横断するつもりか?」


 シアハは地図にヘリクの出現位置をマークしていく。もしそのまま西に向かえば、国境を跨ぐため、それ以上追跡できなくなってしまう。


「あいつならありえるかもしれない。あいつは強者との戦いを望んでいる。だから大陸中を渡り歩いて、猛者を探しているのかもしれない」

「だが、ここ最近はヘリクによる被害はないと、報せの折り鶴に書かれている」


 アルカはヘリクの特性を鑑みて意見を述べるが、ヒオリからは目撃情報すらないと言われる。


「どこかで棲家《すみか》を見つけたか、それとも誰にも見つからずに移動しているか……」


 シアハの地図を眺め、思案する。そのとき、空からパタパタと音を立て、報せの折り鶴がやってきた。


「これを見て判断しよう」


 ヒオリがそれを手に取り、紙を開く。


「!?」


 文字を追っていたヒオリの目が見開かれる。


「何が書いてあった?」


 その豹変ぶりに釣られ、アルカは急かすように聞く。


「『王都にヘリクが出現。直ちに帰還せよ』――だそうだ」


 ヒオリが、紙をこちらに見えるように掲げる。予想外の事態に固まるアルカたちに、一陣の風が吹きつけるのだった。

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