第17話 あなたの言葉が欲しくて
入浴後、アルカとヒオリはヒナを家に帰し、町の宿に戻っていた。
もともとアルカたちは、町の到着初日にエンゲツ家の侍従から空き部屋に泊まることを提案されていた。だが、ヒオリが断ったため、近くの宿に泊まっていた。
しかし、ヒナが来た今、彼女の面倒を見るなら近くにいたほうが良いだろうということで、ヒオリは荷物を取りに一旦宿に戻っていた。
アルカは明朝ここを発つため、装備点検や携帯食料の準備をしていた。そしてそれが終わり、馬の様子を見に外に出ていた。
時刻は二十一時。辺りは暗い。コオロギの声と静寂が行ったり来たりしている。
「ヒオリ?」
アルカは宿の出入り口付近に立つヒオリを見つけた。ヒオリは荷物を担いでいる。これからエンゲツの家に戻るのだろう。
「今日は楽しかったよ。ヒナには色々驚かされたけど、穏やかな日常っていうのかな? とにかく久しぶりに安心できたよ」
「私もあんなに楽しそうにするヒナが見れてよかった」
まずヒナが楽しんだことに注目する辺り、ヒオリらしいなと感じる。アルカはまた明日と言い、馬小屋のほうへと向かった。
「……」
ヒオリは返答せず、黙って家の方向へと歩く。
『ヒオリは今回の任務から外す。それで、いいな?』
ふと、脳裏にルードの言葉が浮かぶ。
「ヒオリ!」
なぜそうしようと思ったのか、アルカは無意識にヒオリのもとへ向かう。それほど距離は離れておらず、すぐに着く。
「………」
しかし、なんとなく駆け寄っただけのため、アルカは何を話そうかと言葉に詰まる。
「すまない、ちゃんと言うべきだな」
そんな様子を見かねたのか、ヒオリから先に話し始める。その眼差しはどこか寂しそうに見えた。
「私は今回の任務に参加する資格がない」
ルードと同じ言葉が、ヒオリ本人から聞かされる。アルカは思わず拳を握りしめた。
「アガッシアとの戦闘で明らかになった。私の実力不足は…看過できるものでない。もし私がリーダーであれば、切り捨てるだろう」
その発言に、アルカはなかなか着火しない火打ち石を打っているような苛立ちを覚える。
――ヒオリ…、なんでお前も……!
「だからこの任務を辞退する。安心してくれ、代理の者が来るまではちゃんといるから」
「そう言うことじゃないだろ……」
自分に言い聞かせるような、卑下の言葉。それが最善だと見透かしたような、引き攣った笑顔。そして、自分を守るように掴んだ片腕。
アルカは、耐え切れなかった。
「もういいよ」
瞳を伏せ、ヒオリにそう言う。そして、ヒオリの腕を握った。
今、彼女に必要なことはなんだろうか?
「もし、ヒオリ自身が辞退したいっていうのなら、止めない。この任務には命の危険が伴う。それはアガッシアとの戦いでヒオリも感じたと思う」
誰も、彼女の凄さを理解していない。ある一面でしか物事を見ようとしない。
「けど、実力不足とか、足手纏いになるとか、そんな理由なら絶対に反対だ」
彼女自身も、自分の凄さを理解していない。
「確かに単純な戦術面では、俺に劣るよ。でも、ヒオリは証明したじゃないか。戦術以外の強さを。それは誰にもできることじゃない」
つい、ヒオリの腕を握る力が強くなる。
「この任務にはヒオリの力が不可欠なんだ」
「で、でも……」
ヒオリは逃れるように手を振り払おうとする。しかし、決して離さない。
「誰も、ヒオリ自身も、その強さを否定するなら――俺がいつまでも言うよ。ヒオリはすごいんだって、絶対に必要な存在なんだって」
ヒオリの真紅の瞳と、目が合う。
「だから…いなくならないでくれ……」
ヒオリは目を伏せ、握りしめられた腕を力無く落とす。まるで、好きにしろと言ってくれたように。
アルカはほっと笑みをこぼすのだった。




