第13話 剣士ではなく
アルカ、ヒオリ、グリード、シアハ 対 アガッシア。
四対一の戦場は言うまでもなく、アルカたちが優勢だった。
グリードはその巨躯を覆うほどの盾の創生を構え、アガッシアの前に立ち塞がる。盾の創生と刀が衝突するたび、重い金属音が鳴る。アガッシアは、グリードの堅い守りを突破しようと何度も攻勢を掛けるが、どれも成功していない。
「防御するだけかっ! お前は……!」
「それが仕事なんだよ、こっちは」
アガッシアが舌打ちした一瞬――。グリードの背後に潜んでいたアルカは、グリードの横に立つように踏み込み、刀を振るう。だが、アガッシアは即座に体を捻り、紙一重で躱す。
同時に、矢が飛ぶ。アルカとグリードの、二人の間隙を縫うように音もなく放たれた一矢。それは、確実にアガッシアの動きを縛っていた。
「ちィ……!」
アガッシアは舌打ちし、後退する。盾、刀、矢――その三重苦に、アガッシアは苛立ちを隠せなくなっている。
「こんな……こんな闘い、望んでないぞ! 俺は!」
上段に構えたアガッシアの像が、ぼやける
――一双火灼!?
アルカは一双火灼をグリードとともに防ぐために、再び並び立つように前に出た。だが、アガッシアの像は分岐することなく、結ばれていく。
「ぅぐっ……!」
アガッシアの腕が痙攣するように止まる。
――今だ!
迷わず、アルカはさらに踏み込み、アガッシアの片腕へ刃を通す。片腕は宙を舞い、地面に落ちる。
「がァッ――!」
アガッシアはくぐもった声を上げ、後ろへ飛び退く。
「やっぱり連発は無理だよな」
あんな負担の大きい技を連発できるわけが無かった。
アルカとグリードは追撃しようとする。だが、アガッシアは即座に後退し、斬り落とされた腕を掴み取り、こちらへ投げ付けてきた。グリードが盾で防いでくれたが、その隙にアガッシアは廃屋の裏手へ回り込んでしまう。
アルカとグリードは互いに顔を見合わせ、アガッシアを追跡する。廃屋の裏手へ回った直後、強烈な光を感じた。西日であった。
ぼやける視界の中、影の如しアガッシアが、逆光を背に纏うのが見えた。
「ッ…、光を使ったか」
一方、遠くの木の上から狙撃していたシアハは、アガッシアの企みに歯噛みする。アルカとグリードだけでなく、シアハの視界もまとめて潰されたのだった。
一瞬の綻びが生じたアルカたちに、アガッシアが迫る――!
アガッシアはグリードに向け、地面を蹴り上げた。砂が舞い、グリードの視界を覆う。
「くっ……!」
グリードは咄嗟に盾を構えたが、間に合わず、モロに受けていた。
「俺もまだまだ学ぶことがあるようだ!」
アガッシアは嘲弄するように、アルカに言葉を投げ付けた。アルカがアガッシアの追撃から逃れる際に行った、泥での目潰しの意趣返しのつもりか。アガッシアが視界を失ったグリードへ一気に距離を詰める。
――炎月流剣術 基単の長 逆火
アガッシアの侵攻を止めるため、アルカは突き技を放つ。
しかし、それは誘い込まれたものだった。
「それを待っていた」
アガッシアは、アルカが突き技でグリードを庇うことを読んでいたのだろう。流麗と、アルカへ構える。その動きはまるで決まりきった型を作るようだった。
「終わりだ」
冷たく、アガッシアが勝利宣言を放つ。
構えでわかる。アルカの突きは受け流され、すれ違いざまにカウンターを喰らう。突き技はすでに放っているため、止めることも、軌道を逸らすこともできない。
グリードはまだ視界が戻っていない。シアハも射線上にいない。誰も援護できない。
――そう、アガッシアは思っているだろう。
そのとき――アルカが持つ刀が霧散し、消える。
「!?」
瞬間、決着が着く。
ずるり、とアガッシアの残った腕が寸断され、刀ごと地面に落ちる。それは――いつの間にか迫っていたヒオリの手によって。
ヒオリの手には――アルカが持っていたはずの刀の創生が握られていた。
「創生の再生成か……」
両腕を失ったアガッシアが力なく倒れる。
創生は使い手の意思で自由に消却、再生成できる。ヒオリはその特性を利用し、アガッシアの意表を突いた。ヒオリの創生は一つしか現存できないため、アルカが持つ創生を消却し、再生成を行った。
うつ伏せに倒れるアガッシアは、背後に立つヒオリを尻目に問いかける。
「お前の存在なんて…頭からすっぽり抜けていたな………。それで? どうせこの謀略もお前のものなんだろう?」
「そうだ」
ヒオリは、淡々と告げる。
「お前は突き技の対処が上手すぎる。力の入れ具合も刀の角度も、全て完璧だった。きっとお前の体が覚え込んでいるからだろう。それゆえ、定型化されすぎていた。突き技に対して、お前の体は勝手に動くようになっていた。もはや無意識の領域だ。そしてその瞬間こそ、最も隙が大きい。その隙を突くよう誘導したまでだ」
「潔いな…。そうか……お前はもう、諦めたんだな?」
アガッシアはため息を吐きながら、ヒオリへ問いかける。対するヒオリはそれに堂々と答える。
「自分を知ったまでだ。私は自分にできることを尽くすだけだ」
「剣士の名折れ、だな……。その道は、エンゲツの者には相応しくは――いや、俺は敗者だ。これ以上、お前にどうこう言う権利もない」
アガッシアの創生の体が、徐々に霧散にしてゆく。もうじき彼は死ぬ。
「結局、そんなお前に負けたんだ、俺は。敗者らしく従おう」
アガッシアは力なく笑い、身を委ねるのだった。




