第11話 焦がれた才能 見上げた壁 早すぎた限界
エンゲツ・ヒオリ、十六歳。
最近の私は、才能について考えることが増えた。それは間違いなく、アルカとの出会いによって。
才能。壁。限界。この言葉が、頭の中を容赦なく埋め尽くす。
剣術以外なら大体できた。時間をかければすぐにできた。だから剣術だって時間をかければ、すぐに習得できる。今はまだその時ではないと、そう思い込んでいた。
だがようやくわかった。本物の才能を。才能を持つ者はもちろん努力する。土台が揃っているのだから、追いつけるはずがない。
純然たる才能には、努力では敵わない。ましてや《《義務感》》などでは――
私は母の才能を引き継げなかった。母は優しく、そして戦場では語り継がれる伝説を作り上げるほどの騎士だった。強く、優しい母を愛していた。そんな人間になりたかった。このときはまだそんな幻想を抱いていた。
当時の王国は、他国との戦争が頻発していた。それにより、母と会えない日が続いていた。でも会えない分、母は私との時間を確保してくれていたから気にも留めなかった。
騎士には、戦争に赴く前に遺書を書き残す義務がある。母もそうだった。でも母はいつものように帰って来る。だから遺書は貯まるばかりだった。
だから――あの日もいつものように帰ってくると、そう思っていた。
母は帰ってこなかった。葬儀では、父は毅然としていた。私はただ泣き崩れた。まだ三歳だった妹はそもそも死という概念を理解していなかった。
父は婿だったため、エンゲツ家の代理当主となった。だがいずれにしても正統な血を継ぐ当主が必要だった。
その候補は私か、妹か。エンゲツ家の当主には、武人としての才覚が求められる。ただの世襲ではない。純粋な実力で選ばれる。
それから私は修行の日々に追われることになった。だが――
『ヒオリ様、あなたに剣術は向いていない。別の道に進むというのも手です』
私の師範は――アルカの育ての親であるシュドーだった。当時、エンゲツ家の筆頭騎士だった。シュドーはエンゲツ家を除いた中で最も優れた剣士だった。また、師範としても優秀だった。エンゲツ家はその実力を買い、師範として招致した。そして、修行の最後の日に言われた言葉がそれだった。
――《《私に才能がない》》
そうだとして――次に当主に選ばれるのは妹のヒナになる。当主は戦場に駆り出され、いつ死ぬとも知れない地獄へ投じられる。
ヒナは体が弱い。ヒナにそんな重荷を背負わせるわけには行かない。だから、私は見放されないよう、この努力がいつか花開くことを信じて、必死に鍛錬を続けた。
これより――母のような強く優しい騎士になるという《《夢》》は、いつしか《《義務》》へと変わった。
ある日、母のこれまで貯めてきた遺書を見る機会があった。そこには、家族や王国のこと以外にも、敵対する者、これから殺す者たちへの哀悼の意が書き記されていた。
母は戦争を憎んでいた。それは私も同じだった。戦争がなければ母は死ぬことも、私が才能という言葉に苦しまなくてもよかったのかもしれない。
才能。壁。限界。
――やっとわかった。私には才能がない。持たざる側の人間なんだ
だから、目の前で繰り広げられているアルカとアガッシアの死闘に割って入っても、足手まといになるだけだ。
私とは対極にいる人間――アルカ。ありがとう。お前のおかげで、自分を知ることができた。
私は才能という言葉が嫌いだということがよくわかった。身勝手だけど、その塊であるアルカも嫌いだ。お前の才能が私のものになれば、なんてわがまま言いたくなるけど、そうはなってくれない。
だから私は………




