第10話 守りたい傷と…
「待て! ヒオリ!」
アルカの制止も聞かず、ヒオリは吶喊を上げながらアガッシアへ刀の創生を突き刺す。
だが――それは、アガッシアが構える刀で逸らされ、軽くあしらわれる。
攻守交代とばかりに、アガッシアがヒオリの懐に入り込む。その刃はヒオリの首筋を捉えている。防御は間に合わない。
「させるか――!」
――炎月流剣術 練理の極 紫炎潜り
ヒオリとアガッシアの間に、アルカが割って入る。そして、アガッシアの刀を受け止め、胴へ蹴りを入れる。
距離を取ったアルカは、ヒオリを抱えてさらに一歩下がる。
――やっぱりこの狭さじゃ打ち合いづらいぞ
本来、アルカは最後に蹴りではなく、そのまま斬りかかろうとしていた。だが、狭いため、蹴りに切り替えた。突き技を放っても良かったが、ヒオリの突き技への対処が上手すぎたため、意表を突くためにも蹴りを選択したのだった。
「離せ! こいつは……! こいつだけは絶対に殺す!」
「落ち着け、ヒオリ」
アルカはヒオリを背後に庇いながら、諭す。頭に血が昇っては勝てるものも勝てない。
「………ヒオリ、そのザマは一体なんだ?」
アガッシアはなにやら頭痛がするかのように頭を抱え始めた。
「俺はな、こうしてお前と会えたことに運命を感じていたんだぞ。期待していたんだ。あのアカリの娘ならば、才能を引き継いだ強者だと。真理の技を掴むきっかけをくれたアカリの娘にこそ、真理の技を使うにふさわしいと」
「なのにお前と来たら――とんだなまくら刀ではないか! 感情的になっていたとはいえこれとは……ほとほと呆れる。真理の技を使う価値もない!」
瞬間――アガッシアが視界から消えた。いや、そう錯覚させられた。アガッシアは屈んで体勢を低くし、目にも止まらぬ速度で突きを繰り出す。
その標的は、ヒオリ。アルカが庇っているというのに無視して迫り来る。
アルカはヒオリへと向けた攻撃を、全て受け切る。早さは互角。だが力では負けているのか、アルカの手は少しだけ痺れていた。
「ほう…、その若さでここまで打ち合えるとは――お前、何者だ?」
アガッシアと初めて目が合った気がした。影に包まれて表情もわからないというのに。
「ヒオリには失望させられたが、お前のような逸材と出会えるとは、僥倖!」
互いの刀身が十字に交差しながら、鍔迫り合う。
「どうした!? 俺を楽しませろ!」
膂力で劣るため、アルカはそのままズルズルと後退してしまう。そのとき――アルカの視界の端に、ヒオリの成長を記録した柱があった。この鍔迫り合いで、アルカがさらに後退すれば、刀が当たって柱を傷つけてしまう。
「後ろの雑魚のせいで白けた興奮を、もう一度沸かせてくれよ!」
その言葉はアルカに、怒りという燃料が投下した。
「これ以上、ヒオリを傷つけるな!」
アルカは、逆にアガッシアの方へと踏み込み、足を踏み潰す。そして、そのまま逃さぬよう、接近し連撃を見舞う。
まずいと思ったのか、アガッシアは一気に守りに入った。しかし、油断ならない男だ。守りの一手の直後に起死回生の一手を仕掛ける。アルカの踏みつけにしたままの足にアガッシアの一振りが来る。アルカは冷静にそれを見切って回避し、再び距離を取る。
束の間、アガッシアは自らの首に触れる。そこにはアルカがつけた傷があった。しかし、かすり傷程度で致命傷ではない。
「いいぞ……もっとだ」
先程まで落胆していたアガッシアは、打って変わって歓喜する。すでにヒオリに興味はないのか、アルカしか目に入っていないようだった。
「ああ…懐かしいな…! まるでシュドーと戦っているようだ!」
アガッシアは上機嫌に喋りながら刀を振るう。アルカもそれに応戦する。交差する剣は火花を散らし、互いにその生命を断とうと苛烈さを増す。
「このままエンゲツ流を極めれば、四、五年もすれば最強の剣士になれるだろうな! それなのにどうして焦る?」
アガッシアの動きはそれまでと打って変わる。フェイントや緩急をつけ、動きが読みづらくなる。アルカは次の一手を必死に考えながら、慎重に対応する。
「そのまま地盤を固めつつ、一歩一歩確実に成長すればいい。それだけでいいんだ。それとも早く強くならないといけないのか?」
「ああそうだよ!」
アルカは額から伝う汗に苛立ちながら、応える。
「お前を殺した、不死身の男について教えろ!」
「あれと因縁があるのか。お前も大変だな。ただ…簡単には教えない。俺を倒せば教えてやる。当たり前だろう? 俺達は剣士。阻むもの全てを斬り伏せ、望みを叶える、俺達はそういう種族に生まれたんだから――な!」
上段から叩きつけられた刀を、辛うじて刃で受け止める。衝撃に刀は軋みを上げる。
「俺を、お前たちと一緒にするな…! 人の命を奪って嬉々とする奴らなんて、反吐が出るんだよ!」
アルカは受け止める刀の角度を変え、受け流そうとする――
「意趣返しだ」
ところが、先に胴に蹴りを叩き込まれ、ヒオリも巻き添えにして後方へ弾き飛ばされる。二人の身体は壁に突っ込み、それを突き破って外へと転がり出る。
久方ぶりに陽の光を目にしたため、一瞬視界が真っ白になる。
アルカがアガッシアの立場ならその隙を見逃さない。まだ曖昧な視界のまま、アルカはヒオリを伴って、直感的に退く。
予想通り、アガッシアは目の前まで迫ってきていた。アルカは牽制するように刀を振り、接近を阻止する。
「いい勝負だ。心躍る。そう思わんか?」
「思わない。それよりも、楽しむ余裕なんて持ってて良いのか?」
「?」
立ち上がり、再び構える。呼吸を整える。アルカの頭の中では、アガッシアを殺す方法が何十も浮かんでいた。
「情報を吐く前に、死ぬなよって言ってるんだ」
「かかっ! いいねいいよ! 大好きだよ!! そういうの! やはりお前と出会えてよかった!」
斬りかかるアガッシアに、アルカは果敢に挑むのだった。




