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青い炎の生み方

「魔女なのに軟弱な考えだな! お前も国外追放された魔女じゃないのかよ! 多くの人に裏切られたんだろ!?」


 黒い炎がごうごうと燃える。だが、森の魔女の生み出した蔦が消えることはない。

 森の魔女は顔色を一切変えずに頷いた。


「うん、そうだね」

「じゃあ、何で他の誰かを守ろうとするんだ? 裏切り、見捨てた奴らなどほっとけばいい!」

「……それでもわたしを信じて付いてきてくれる人がいるから。わたしはその人達を守るために力を振るい続けるよ」


 あぁ、こいつとは生きてきた世界が違うんだな。

 周囲に誰かがいることが当たり前で、今も信頼できる従者や弟子がいる森の魔女。

 親しかった人にも裏切られ、一人で命がけの日々を過ごす私。


 わかり合えるはずがない。


「君はどんな魔法(生き方)を選ぶ?」

「……お前のように選択肢がいくらでもあると思うな。私にできるのは何かを燃やすことだけだ」

「それで十分だよ。少なくともわたしには選べない道だからね」

「……本当に火魔法が使えないのか?」


 大抵の人は燃えろと念じれば火をつけれるものだと思っていた。魔力の少ない者には難しいだろうが、森の魔女は魔力が豊富な上に器用だ。できない理由がわからない。


「うん、見ててね。……火よ灯れ」


 森の魔女が自分の左人差し指に火を灯す。


「なんだ、できるじゃな……いや、待て。それは何だ?」


 火の揺らめき、色合い、熱。

 どれをとっても火魔法と相違ないが、長年火魔法を扱ってきた私は違和感を覚えた。

 具体的に何が変とは言えない。だが、私の目には偽物のように映った。


「火の幻だけど?」

「まぼろし……?」


 森の魔女が何事もなかったかのように言う。

 言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。


「闇魔法じゃないか!」

「うん、そうだね」

「明らかに火魔法より高度な奴だろ。それができて何故火魔法はできない?」

「わたしの体質に合ってないのかな。わたし達魔女の祖先は闇魔法の使い手だったんだから、子孫のわたしが使えても不思議じゃないよ。光じゃないんだから」

「まぁ、光よりかは可能性がある……のか?」


 闇と対極をなす光魔法を扱える魔女は、歴史を振り返っても一人だけと言われている。災厄の魔女を打ち破り、世界に光を取り戻した英雄だ。


 魔女の始祖が闇魔法に適性を持つからといって、遠く離れた血筋と思われる私達が気軽に使えるものではないだろう。少なくとも私には使えない。

 それを特に疑問も抱かずに操る森の魔女は……やはり次元が違うのだろう。


 こいつに魔法対決で勝たなければ自分の信念さえ示せないとは、本当に厄介だ。


「今日は私の負けだ。だが、必ずあんたの魔法を燃やし尽くして私の魔法の強さを証明してやる」

「そっか……戦いの場を用意して待ってるよ」


 転移魔法で洞穴まで送り届けてもらい、その日から特訓を始めた。

 だが、ただ何かを燃やすだけでは森の魔女には勝てない。何のために魔法を使うのか、魔法で何がしたいのか、考え直す必要がある。


 自分の身を守るため、不埒な輩を消し去るため、この化け物揃いの魔境を生き抜くため。


 それは魔法でなくてもできることだが、私の武器は火魔法だけだ。

 私にしかできないこととは……。


「魔女の葬儀屋殿のお宅はこちらか?」


 思考の海に沈みそうになったところを、誰かの声が拾い上げる。顔を上げると、見知らぬ男が洞穴の前に立っていた。


「そうだが今は休業中だ。どうしてもやるべきことがあってな」

「ふむ、それは困りますな。骨も灰も残さず還すことができるのは貴女(あなた)以外にいないのだが」

「私以外にいない……?」


 火力が強いことは事実だが、この程度他の魔法使いにもできるだろうとどこかで思っていた。でも、私だけの特権なのだろうか。


「骨も灰も燃やせるものだろ?」

「いやいや、火葬がどういうものかご存じです? 遺骨と遺灰を埋めるものである」

「……そういえばそうだったな」

「魔女の場合、それらを残すと不届き者に利用される恐れがあるから、貴女に燃やし尽くしてほしいのだ」


 圧倒的火力で亡くなった魔女を弔い、天に還す。それができるのは私だけのようだが、それが自分の生き方と言えるのだろうか。

 その火力をもってしても、森の魔女の守りを破ることはできなかったし。


 だが、青い炎ならば。


「そういえば、亡くなった魔女の火葬依頼か?」

「あぁ。引き受けてくださるのか?」

「火が青く染まる理由は解明できていないが、初めて火葬したときも青炎だった。葬儀屋を続ければ、何か見える景色があるかもしれない」


 青い炎を魔女の葬儀で使い、どういう原理や心理で生まれたのかを追求する。葬儀以外の場面で使えるかどうかを試す。

 黒い炎は悪感情の表れだから、喜びや楽しさで色が変わるかもしれないと思ったが、赤い炎が勢いを増すだけたった。


「静の状態……喜びも怒りも悲しみも抱かず、凪いだ水のように心穏やかに、頭を空っぽにする……とか?」


 魔法を安定して使うのに目を閉じて深呼吸するのが良いと、知り合いの魔女が言っていた。魔法のこととか全て忘れて、自然と一体になると。

 瞑想を続けていると、地中深くに熱があるのを感じた。草木の生えないはげ山と思っていたが、火山だったのだろうか。


「この熱を魔法で操ることができれば……いや、今は集中しないと」


 森の魔女のこと、青い炎のこと、決して燃やせぬ蔦のこと、そして谷の魔女のこと。

 雑念は排除し、呼吸と体内の魔力の流れに意識を向ける。そして、目を開けて一言。


「燃えろ」


 人差し指に灯った火は青い色をしていた。

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