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面会謝絶の理由

「来てくれてありがとう。わたしはこの森の主だよ」

「……魔女の葬儀屋と最近呼ばれている」


 館の一室で待っていたのは、黒くて真っ直ぐな長髪に深い森をそのまま映したかのような緑色の瞳をした魔女だった。

 他者を圧倒する魔力を持っているのに、浮かべる笑顔はあどけなさが残る。見た目より長く生きているはずなのに。


「……何年前からこの森に住み着いているんだ?」

「五十年近く前かな?」


 私と同じか少し年下くらいか。


「入り口で突っ立ってないで座ったらどうかな。とびきり美味しいのを用意したんだ、お口に合うといいんだけど」


 二人分のカップと見たことのないお菓子らしきもの。意識するとお菓子の甘い匂いが漂ってきて、抗うことができず椅子に座った。

 森の魔女が両方のカップにお茶を注いで、一口飲んだ。お菓子も一枚食べて、毒がないことを示したいのだろうか。


 私もカップを手に取る。中身は一見どこにでもあるハーブティーだ。辺境の村で飲んだことがあるが、苦くて青臭かった記憶がある。

 恐る恐る嗅いでみるが、草の匂いはそこまで強くない。試しに一口飲んでみると、色々な香りが口いっぱいに広がった。


「……美味しい」


 思わず感想を口にすると、森の魔女がぱぁっと笑顔になった。


「それは良かった。庭で育ててるのとか森に自生しているのを合わせたんだ。魔力をたくさん吸ったから疲労回復とかの効能も高めだよ。クッキーも食べてみて、わたしが焼いたんだ」


 その紹介で薄い板のようなお菓子がクッキーであることを知った。

 赤色のジャムが乗っているのを少し食べる。甘酸っぱいジャムの香りと甘みのあるクッキーのサクサクした食感が合わさっている。あまりの美味しさに気がついたら二枚目を食べていた。


「葬儀屋さん、わたしの師匠……山の魔女を弔ってくれてありがとう」

「私は自分にできることをしただけだ。それより、スザンヌからあんたが面会謝絶と聞いたが、何かあったのか?」


 私の元に山の魔女とは関係のないスザンヌが来たのも、今日こうしてお茶会が開かれたのも、森の魔女が誰とも会えない状態だったからとスザンヌは言っていた。

 やっと会えたのだから理由を聞いてみたら、森の魔女の顔から笑みが消えた。やや俯いたまま彼女は口を開く。


「実は……初めて人を殺したんだ」

「は?」


 私が驚いたのは殺人の罪を打ち明けられたからではない。

 その程度の出来事で面会謝絶になったこと、そして人殺しが初めてということに衝撃を隠せなかったのだ。


「殺るか殺られるかの世界だろ、魔女(わたしたち)が生きるのは。たった一人や二人殺しただけで気落ちしすぎだろ」

「でも、魔女を悪と信じて疑わない正義の目をしていた。確かに“ちょっかい”で街を襲うことがあったお師匠様は、殺されても仕方のない悪かもしれないけど」

「つまり、正義面した奴らに師匠である山の魔女を殺されて、怒りか復讐かは知らないがそいつらを殺してしまった。それが自分の罪だと言いたいのか?」

「うん、そうだよ」

「どこまでも甘い奴だな」


 口の中に残るクッキーの甘みが不快に感じて、私はハーブティーを流し込んだ。


「自慢じゃないが、私はもっと多くの人を殺めてきた。その中には正義を掲げる奴もいたし、救いようのない馬鹿もいた。だが、殺らなければ殺られてしまうから、人を殺したのを後悔したことはない」

「……葬儀屋さんがあの人達を弔うことはしないの?」

「しない。私は魔女専門だからな」


 魔女殺しの奴らを哀悼の祈りを込めて送るなど絶対に無理だ。やりたくない。


「だが、黒炎で燃やし尽くすのならやってもいい」


 地獄の劫火(ごうか)を味あわせてやろうかと提案してみたが、「いや、そこまでしなくていいよ」と断られた。


「自分の罪にはちゃんと向き合うから、葬儀屋さんの手は借りないことにするよ」

「……つまらん」

「つまらんって……そういえば、スザンヌからは青い炎でお師匠様を火葬したと聞いたけど、他の色の炎も出せるの?」


 森の魔女の話題転換は悪くない。未だに炎が青く染まる理由がわかっていないから、この魔女に聞けば何かひらめくかもしれない。


「あぁ、普段は赤色だな。怒りとか憎しみとか悪感情が高まると黒色に変化する。青色は魔女を弔うときに勝手に出るが、何故その色になるかは不明だ」

「へぇ、どんな色か見てみたいな」


 森の魔女の興味を引くことには成功したが、ここで火魔法を使うわけにはいかないだろう。


「魔法は室内で使うものじゃないし、燃え移るといけないから機会があればな」

「……外で燃え移る危険がなければ見せてくれるの?」

「まぁ、困ることは何もないし、見せてやってもいいが」

「それなら任せて」


 森の魔女が腰を浮かせて私の手首を掴んできた。


「何を……」

「――転移」


 手を振り払って森の魔女から距離を置いて気づく。テーブルや椅子などはどこにもなく、そもそも建物の中ですらないことに。


「ここなら問題ないよね?」


 笑顔を見せる森の魔女が転移先に選んだのは、山の魔女の墓がある開けた場所だった。

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