お茶会への招待
エルフのスザンヌに案内されたところは、明らかに激しい戦いが繰り広げられたことがわかる痕が残っていた。
周囲の木々は消え失せ、切り株だけが点在している。他の地は魔力で満ちているのに、ここだけカラカラに乾いていた。
草花も見当たらず、私が住んでいる山を思い出させる光景だ。そんな殺風景な地帯の中心に、墓と思われる石碑と棺桶があった。
「葬儀屋様、よろしくお願いします」
「あぁ」
巻き込むといけないのでスザンヌには後方で待機してもらい、私は棺桶の側に跪いた。
そっと蓋をずらすと、胸に大きな穴が空いた女と大量の花が入っている。恐らく剣で胸を貫かれたのだろうが、安らかな笑みを浮かべているのが不思議で仕方がない。
生きている間、苦しい思いをしたのだろうか。
死んだ方がましと考えてしまうような人生だったのだろうか。
魔女の葬儀屋の噂が広まり、葬儀の依頼を受けたのも一度や二度ではない。
それでも私にはわからなかった、死を望む魔女の心情が。
人間の何倍も生きるというのは、それほど苦痛が伴うことなのだろうか。
「……そんなことはどうでもいいか」
死んだ魔女に私ができることは、人間に実験の道具として利用されないよう燃やし尽くすことだけだ。
私は目を閉じて、青い炎で山の魔女を見送った。
「ふぅ」
私が立ち上がって後ろを振り返ると、スザンヌが一歩後退った。緑色の目には恐怖の色が浮かんでいる。
それは辺境の村にいたときに向けられたものと同じで、ああまたかと肩を落とした。
森の魔女に仕えるスザンヌにとっても、私の魔法は異質のようだ。魔境にすら私の居場所がないのなら、どこに行けばいいのだろうか。
とりあえずこの地からは離れようと思ったものの、スザンヌの転移魔法で来たから帰り道がわからない。せめて方角さえわかればと空を見上げるも、分厚い雲に覆われて太陽が見えない。
適当に歩くしかないとスザンヌに背を向けると、何故か声をかけられた。
「どちらへ向かうおつもりですか、葬儀屋様」
「とりあえず森から離れる」
「わたくしがお送りします」
「無理はするな。私が怖いなら近寄らなければいい」
「葬儀屋様が怖いなど、わたくしがいつ申しましたか?」
「言ってなくても怯えてただろ、あの目は」
スザンヌがどんな表情をしているのか見ることができず、彼女に背を向けたまま話す。
「こちらをしっかり見てくださいませ」
「……」
「他者を圧倒する魔法を見せて、距離を取られるのが嫌なのですか? これではどちらが怖がりなのかわかりませんね」
「別に怖がってなど……」
挑発に乗って振り返ると、緑色の目には恐怖も怯えも浮かんでいなかった。
「先ほどは失礼いたしました。過去に故郷をドラゴンの炎で焼かれたことがありましたので、それを思い出してしまったようです」
「……それは悪かったな」
「葬儀屋様が謝る必要はございません。ドラゴンの炎と葬儀屋様の青炎は別物ですから。それに、常識を逸した魔法にも見慣れております。主の魔法をご覧になったら驚くと思いますよ」
どうやら森の魔女も規格外な魔法を使うようだ。私は一人ではないと言われたような気がして、自然と笑みが溢れた。
「どんな魔法を使うのか、会うのが楽しみだな」
「今は面会謝絶中ですが、いつか葬儀のお礼をさせてください。お茶とお菓子を用意してお待ちしております」
何故森の魔女と会えないのか気になったが、そういう気分の日もあるだろう、と特に気にすることなくスザンヌに送ってもらった。
「またお会いしましょう」
そう言って、彼女は忽然と姿を消した。
数日後。今日も湯沸かしに挑戦しようと洞穴を出たところ、エルフの女ことスザンヌに鉢合わせた。
「お久し振りです、葬儀屋様。先日のお礼を兼ねたお茶会の招待に参りました。魔の森まで転移魔法でお送りしてもよろしいでしょうか?」
「礼を言いたいのならそっちが足を運べ……と言いたいところだが、こんなとこで茶を飲んでも風情がないな。いいだろう、案内してくれ」
「承知しました」
二度目の転移で思わず目を開けてしまったのは、前回来たときは感じなかった膨大な魔力を感知したからだ。
思わず魔力を感知した方を見ると、木々の隙間から建物らしきものが見えた。
「魔女の館にご案内しますね」
「館?」
こんな森の奥深くに館なんて存在するのだろうか。住むのは森の魔女とスザンヌ、それから弟子が数人いるかどうかだろうに。
スザンヌの主とやらは見栄っ張りなのだろうか。
「森の魔女の弟子になりたい人が多くて、最初に建てた小屋では収まりきらなくなりました。近くに家を建てて増築を繰り返した結果、館と呼べる大きさになったのです」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。森の魔女に敵わない要素に人望が増えたが、まだ会ったこともない彼女に勝てるものはあるのだろうか。
「葬儀屋様、魔女の館へようこそお越しくださいました」
スザンヌが手の平を上に向けて道を開ける。
館は色んな家が繋ぎ合わされたようなちぐはぐさがありながらも、庭がついた立派な建物だった。




