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エルフの依頼人

「初めまして、スザンヌと申します。あなた様が魔女の葬儀屋で相違ないでしょうか」

「確かに魔女の葬儀屋と呼ばれたことはあるが、エルフがこんなところに来るとは珍しいな」


 私が住む山には緑が一切ない。自然をこよなく愛し、自然と共に生きるエルフには合わない空気だろう。


「どうしても葬儀屋様に弔っていただきたい魔女がいて参りました」

「依頼の方か。それと、様付けも丁寧な口調もやめてくれ。私も合わせなければいけなくなるじゃないか」


 依頼人には懇切丁寧に接するべきかもしれないが、あいにく私は敬語とやらを勉強したことがない。仮に話せたとしても、相手にへりくだることはしないだろうが。


「これは癖のようなものですから、合わせる必要はございません」

「……はぁ。それで、弔ってほしい魔女とは? 私がどんな魔法を得意とするか理解した上で依頼したんだろうな?」

「はい。骨も灰も残さず燃やし、全てを天に還す青炎魔法の使い手と」


 全てを天に還す? 青炎魔法?

 こいつは私の魔法にどんな幻想を抱いているのだろうか。ただ色が違うだけで特別なものではないというのに。


「今回弔っていただきたいのは、我が主――『森の魔女』の師匠だった山の魔女です」

「……自称森の魔女も山の魔女もいくらでもいるが、誰が亡くなったんだ?」

「恐らく、賢者より二つ名を授かった山の魔女かと」


 賢者こと孤島の賢者は大陸から少し離れた孤島に一人住む魔法使いで、魔女を監視し影響力のある魔女には二つ名を与えるらしい。その賢者に二つ名を貰って、魔女はやっと一人前になれるそうだ。

 私はまだ会ったことがない。だから「魔女の葬儀屋」という呼び名も正式な二つ名ではないのだ。


「山の魔女を殺した人間はメディウム王国の命令で動いたそうです」

「メディウム王国?」

「大陸の中心に位置する大国です。葬儀屋様の祖国でもあると伺ったことがありますが」

「……あぁ、そんな名前だったのか」


 辺境でどこの国とも接していない小さな村で生まれ育ったし、故郷に思い入れなどないので、名前すら知らなかった。


「山の魔女の討伐に成功したことは王国の者も知ることになるでしょう。実験のために遺体を持ち去られる可能性があります」

「そうなる前に私に火葬してほしいということか」


 私が確認すると、スザンヌは「はい、そうです」と頷いた。


「だが、山の魔女はあんたの主である森の魔女の師匠であって、あんたとは直接的な関わりはないんだよな? どうしてあんたが私に依頼する? 森の魔女が直接出向けばいいじゃないか」

「……それは諸事情によりできません。ですが、わたくしは主の指示であなた様を訪ねました。わたくしのことは森の魔女の代理人と思ってください」


 森の魔女の事情なんてどうでもいいが、スザンヌの独断で行動したわけではなさそうだ。


「つまり、弔いを私に任せるということだな?」

「はい」

「なら引き受けよう。墓はどこに建てるんだ?」

「ご案内します。ここからは距離がありますので、転移魔法を使ってもよろしいでしょうか?」


 転移魔法? ずいぶんと高度で難解な魔法だ。当然、燃やすことしかできない私に使えるものではない。

 というか、使える者がいることに驚きだ。空想上の魔法という認識なのだが。エルフは下手すると魔女より長生きだから、今となっては廃れた魔法も使えるのだろうか。


「いや、帰り道がわからないのは困る」

「では、魔の森まで徒歩で移動しますか?」

「……転移魔法とやらで帰りも送ってくれ」

「かしこまりました」


 魔の森は森の魔女が住み着くずっと前から魔女が住む森と言われていて、王国の東に広がっている。

 私がいる山からは歩いて十日程度だろうか。王国からここまで来るのに苦労したから、その工程を端折ることができるならそれに越したことはない。


「それでは腕に掴まって目を閉じてください。途中で手を放すと転移に失敗しますし、慣れていないと景色の変化に酔う方もいますから」

「これでいいか?」

「はい。――転移」


 スザンヌがそう唱えると少しの浮遊感の後、周りの空気が一変した。

 風で木の葉が掠れる音、小鳥の鳴き声、ほどよく差し込む日の温もり、生き物の息遣い。生命が活気に満ち溢れていて、土地の魔力も豊富だ。目を開けなくても別の地にいることがわかる。


「目を開けても大丈夫ですよ」


 目を開ければそこは森の中だった。葉が豊かに生い茂り、だが地面に生えた草花の成長を阻害することなく伸びている。

 魔力感知が苦手な私でも、森の隅から隅まで魔力が生き渡っているのがわかる。この地の支配者の管理が行き届いている証だ。


 支配者である森の魔女は、まだ正式な二つ名を貰ったわけではないらしい。それでも、魔力の扱いに関しては私より格上であることは確実だ。


 だが、何だろう。どこかから視線を感じる。常に見張られているような気がするが、周りを見渡してもスザンヌしかいない。


「こちらが魔の森ですが、どうかされましたか?」

「誰かに見られているような感じがするのだが」

「あぁ、精霊様かもしれませんね」

「精霊?」


 それこそ空想上の生き物だ。だが、スザンヌの表情は冗談を言っているようには見えなかった。まるで精霊の存在が当たり前であるかのような話し方だ。


「わたくしにはそのお姿を視ることはできませんが、主である森の魔女はご覧になれます。母君もそうでしたから、遺伝かもしれません」

「……本当にいるんだな」

「はい。視える方は数を減らしていますが」


 転移魔法に精霊の実在、まるでここは別世界のようだ。そんな世界を統べる魔女には会わない方がいいかもしれない。世の中、知らない方がいいこともあるのだ。


「山の魔女が亡くなった地にご案内します」


 スザンヌが木々の隙間を縫うように歩き出したので、私はその後を追う。

 道らしきものは見当たらないし、太陽がどこにあるかもわかりづらい。目印も何一つないのに、彼女は迷いのない足取りで進んでいく。


 不意に木々が途切れ、開けた場所に出た。


「こちらが戦いの跡地です」

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