青い炎で弔いを
私の提案に男は瞬きを繰り返した。
「そんなことが可能なんですか? あなたの実力を疑っているわけではないのですが、骨も灰も残らないというのが想像できなくて……」
「私の火魔法は何でも燃やせるからな。逆に何かを残す方が難しい」
骨も灰も残らないなんて、火葬と呼んでいいのかわからない。だが、私にできるのは全てを跡形もなく燃やすことだけだ。
亡くなった魔女を傷つけないためと言いながら、結局は火魔法で攻撃するに等しい行為。自分で提案しておきながら、断られると思っていた。
だが、男は麻袋に入った魔女の遺体を私に差し出す。
「お願いします。どれだけ深く掘っても、きっといつかは見つかってしまう。それなら火魔法で弔った方がいいです」
「……本当に私がやってもいいのか?」
「はい」
彼は私から目を逸らすことなく頷いた。揺らぐことのないその眼差しを見れば、私も真剣に向き合わなければならない。
棺桶に回収した身体の一部を収め、私はその場に跪いて右手をかざす。魔力を込めた手から出てきたのは青い色をした炎だ。
「名も知らぬ魔女よ――安らかに眠ってくれ」
そっと目を閉じて棺桶を青炎で包んだ。何かが燃える音がしたが、それも一瞬のこと。私が目を開けたときには棺桶も遺体も青炎も消え去っていた。
「すごい……」
後ろにいる男がぽつりと呟く。
「素晴らしいです、青い炎なんて初めて見ました」
「私もだ」
「……え?」
「ほとんど無意識のうちにやったらあの色になった。何故こうなったんだろうな」
憎しみや怒りなどの負の感情が強いときは黒炎に変わることがよくあるが、青く染まるのは初めてだ。
もう一度あの炎を見ようと魔力を込めるも、いつもと同じ赤い炎しか出ない。
「でも、神聖さというか、神秘的というか、悪を浄化する炎に感じました。お師匠様も地獄ではなく天国に行けたと思います」
「そんな大げさな。私の炎で何かが変わるわけがない」
男は青炎をいたく気に入ったようだが、私がやったのはいつも通り燃やすだけだ。だが、男の興奮は収まらない。
「あなたのことを他の人に伝えてももいいですか? 魔女を火葬する人……『魔女の葬儀屋』として」
「……好きにしろ」
自分にできることはやったので拠点探しを再開した私は知らなかった、男の発言が後に私の二つ名であり生き方になることを。
休憩を挟みながら歩き続けてどれだけの日数が経ったのだろう。山の半分以上が雲に覆われた山脈の手前に、低くて近くに川が流れている山を見つけた。
草木が一本も生えていない、殺風景な山だ。
普通の魔女ならもっと自然豊かな地を好むだろうが、私は火魔法の使い手。緑はない方が過ごしやすい。制御に失敗しても森林火災が起きないのは素晴らしいことだ。
獣道を登っていくと、洞穴がいくつか密集している場所があった。
どの穴を覗いても誰かが使っている痕跡はない。
魔女がいる気配もない。
「ここにするか」
過ごしやすそうな広さの洞穴を選び、そこを住処にすることにした。
こうして私の魔境での暮らしが幕を開けたのだ。
魔境に追放されてから五十年近く経った。
あの頃と変わらない容姿を見れば、自分が魔女であることを認めざるを得ない。
いつの間にか祖国が私の首に懸賞金をかけたらしく、数年に一度襲ってくる者がいる。それを除けば比較的平和な暮らしと言えるだろう。
他の魔女との交流はあまりうまくいってない。「魔女の葬儀屋」の噂が広がると同時に、私の火魔法がいかに優れているかも知れ渡ったらしい。この力を恐れられるのはどこへ行っても同じのようだ。
「火力を抑える方法を身につけないと」
一人でも生きていけるが、国外追放された私の居場所はここしかない。だから、ここ数十年は魔法の制御に力を入れている。
何も考えずに全てを燃やすのは容易いが、一部だけ燃やして他を残すというのが難しい。それでも練習を重ねれば少しずつ火力は控えめになっていき、日常生活で火魔法を使っても制御を誤ることはなくなった。
今も制御特訓の最中だ。暖炉に薪を焚べて魔法で火をつける。水を入れた鉄鍋を溶かさないよう、細心の注意を払いながら沸騰するのを待つのだ。
最初は散々だった。水が干上がるのはよくあることで、鉄鍋が溶けて原形を留めなくなったり、鍋そのものが燃えてなくなったときもある。
だが、それは昔のこと。今は一定の温度を保つことができるようになり、鍋が犠牲になることも減った。二日連続で湯を沸かすことに成功しているから、今日も成功したら別の特訓に挑んでもいいだろう。
そう考えたのが悪かったのだろうか。
「おはようございます、こちらに魔女の葬儀屋様がいらっしゃると伺ったのですが……」
「わっ!?」
不意に背後から声をかけられた私は、一瞬火から目を離してしまう。
ボウッと勢いを増す火。慌てて視線を戻したときには鍋は溶けて元がどんな形をしていたのかわからない有り様になっていた。
「え? ……え?」
「くそっ、今日も行けると思ったのに」
「えっと、魔女の葬儀屋様ですか?」
その声かけに来訪者の存在を思い出した。魔女ではなさそうだが、私の邪魔をしたのは事実。
「誰だか知らないが、お前のせいで……」
八つ当たり気味に言いながら振り返り、途中で言葉が途切れた。
長い金髪に長身。
緑色の瞳に整った若々しい顔。
そして尖った耳。
訪問者はエルフの女だった。
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