81 星の光を冠に
ラタトスクを封じてから数ヶ月後――
あたしとマックスはささやかな結婚式を挙げた。
出席したのは、ごく身近な人たちだけ。
マックス側の参列者に至っては、国王夫妻とお兄さんたちの代理として、フレドホルム司令官が一人来ただけという寂しさだ。
王妃様とエスビョルンさんは、最後まで参列したいと言ってくれていたそうだが、さすがにこの南の森に王族を招くのは無理がある。
……といっても、お兄さんたちは一度ここまで来てるんだけどね。
次期国王になりたい一心でね。
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結婚式は、あたしたち魔法の民の流儀でおこなった。
アルフヒルドさんが言うには、「もしいれば『真実の瞳』の持ち主か、『森の女王』の立ち合いでするのが正式」なのだそうだ。
「花婿と花嫁がその『真実の瞳』と『森の女王』なんだから、立ち合いは無理だね」
と笑う。
アルフヒルドさんの笑顔は、前に見たときより優しそうで穏やかなものに変わっていた。
王都では最近、花嫁と花婿が白い衣装を着るのが流行っているそうだが、魔法の民は昔ながらの伝統衣装だ。
あたしが着るのは白いリネンのブラウスと、紐結びのベストとスカート。たっぷりの刺繡が施されている。
この刺繍は、アンネリやエドラ姉さんたちが刺してくれたものだ。
マックスはスーツ姿。
こちらはアルフヒルドさんがずっと、マックスの「晴れの日」のために用意していたものだと聞く。
王都の一流のテーラーであつらえたスーツの上下に、アルフヒルドさんが自分で刺した刺繍が施されていた。
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聖なる輪のもとで誓いの言葉を唱える。
アンネリが、王都の結婚式みたいにここでキスをしろ! と騒いでいたけど、絶対皆の前でなんかしない。
イチャイチャは、二人っきりのときにするものだ。
……と思っていたのに、マックスがすごーくキスしたそうな顔をしていたので、一回だけ許した。
皆大盛り上がりしてたけど、義父さんは一人だけ複雑そうな顔をしてたっけ。
式が終わった後、あたしたちは新居に移る。
義父さんの家から少し離れた、森の中の小さい家だ。
式を挙げるまで、この家を建てるのに何ヶ月もかかったのだ。
途中で冬になっちゃったしね。
お城の塔のマックスの部屋と比べても、小さい質素な家だけど「これで十分」とマックスは言った。
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さて、この先何をして食べて行こうかと思っていたが、義父さんが作った羽に意外な使い道ができた。
あの騒動のとき、フレドホルムさんたちが羽を使ったことで、王室直属軍での使用が正式に採用されたのだそうだ。
その飛び方の指南役として、マックスが招かれて、時々実習なんかに駆り出されたりしている。
「あんたが軍の兵士になるのは、ちょっと複雑だな」
あたしの言葉に、マックスが苦笑した。
「大丈夫。今のところ我が国は戦争の予定はないからね。よく事故や災害のときに、逃げ遅れた人を助けに行ってるよ」
嬉しそうにマックスが笑う。
ああ、そうだね。
あんたは誰かを助けに行くのが、性に合っているんだ。
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ちなみに例の吸血樹は、全部切り倒された後、炭に加工されて汽車の燃料の足しになった。
その後も、石炭は相変わらず蒸気機関車の燃料として掘り出されていた。
ただ、魔法を使えば、より効率のいい……なんて言ったかな、そうそう、燃費のいいものに加工できることがわかって、魔法の民はあちこちの炭鉱で引っ張りだこになっている。
でも反対に、炭鉱で働いていた、魔法の民じゃない人たちはどうなるのかな?
「そこをこれから、エシィたちにがんばってもらうし、私も手伝えることがあればそうするつもりだ」
そうか、それが王様たちの仕事なんだね。
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ある日の夕方のこと。
夕飯の準備の最中に、マックスが庭からあたしを呼ぶ。
「なによ。今鍋を火にかけているから、手が離せないのよ」
「ちょっとだけだから」
そう言って、あたしに樫の葉っぱで作った王冠を被せた。
「そこに立って」
少し離れた場所からあたしを見て、満足げに頷く。
「王冠のてっぺんに、星が光ってるよ。私の女王様」
「うん」
そして、少し照れたように微笑みかけた。
「きれいだよ。私のライラ」
「うん」
あたしも照れながら答える。
互いに近寄り、抱き合ってキスをした。
あの日、汽車から飛び降りた「空のランデブー」は、こんなところに落ち着いた。
あのときには、思ってもみなかった未来だ。
樫の王冠に光る星よりもキラキラした日々が、あたしたちを待っていた。
……うっかり鍋を焦がしてしまったことは、ちょっとしたおまけである。
【 End 】




