80 古き世界の終わり
改めて世界樹の切り株を見ながら、溜め息をついた。
「世界樹ってこれからどうなるの?」
さっき途中まで成長した後、あたしに生気を吸い取られて、立ち枯れている。
義父さんが、あたしに負けないくらい溜め息をついて言った。
「今はもう、世界樹を必要としない世界になってしまったのかも知れんな……」
「義父さんがそんなことを言うなんて!」
さらにアルフヒルドさんが、あたしにも義父さんにも負けないくらい、盛大な溜め息をついた。
「でも確かに古老の言う通りだね。今回のことでつくづく思い知らされた」
「あなたまで!」
古い時代に人一倍執念を持ち続けていた二人が、新しい世界の到来を受け入れる瞬間に、あたしたちは立ち会ったのだった。
「世界樹が復活すれば、また大昔そこにいた旧世界の生き物を寄せつけてしまうだろう。それらは、今の世界とは相容れない」
そう言うアルフヒルドさんの目は遠く、ここにはない知らない世界を見ているよう。
見かねたのか、マックスが少し明るい声で提案した。
「でも、世界樹はともかく、森は復活した方がいいんじゃないかな」
「それは賛成だ! やはりわしら魔法の民は、森に生きるべきなのだ!」
すぐに義父さんが飛びつく。
世界樹に魅せられたラタトスクみたいだ。
「でも、新聞は読むんでしょ?」
「それは勿論。時勢を読まねば、生き残れない世の中だからの」
じゃあ、あたしもなにか希望になるようなことを、ひとつ言ってみようかな。
「あたし、世界樹は枯らしちゃったけど、この国にはいい種を播いたと思うわ!」
皆、エスビョルンさんを思い浮かべて、頷いた。
でも一人だけ納得できない顔をしている人がいる。
マックスがその人に声を掛けた。
「母上」
「私はまだ、未練があるよ。マクシミリアンだって、この国の王に相応しいと思うのに。相応しくあるように育てたつもりなんだよ……」
「でも、私は王にはなりたくない。エシィの方が国王に相応しいとは思っているけど、彼に責任を押しつけてしまったようで、申し訳ないと思っている」
次期国王という権力者の座を、厄介な荷物のように、マックスは言いきった。
「お前は王家との縁が切れたわけじゃない。今だって、国王の血を引く、れっきとしたこの国の王子なんだよ」
「つまり、責任が消えたわけではないんだよね。……だから、エシィに助けて欲しいと言われたら、すぐに飛んでいくつもりだ」
「羽があるから、文字通り飛んで行けるしね!」
そう言いながら、いつかアルフヒルドさんみたいに穴を使って、森とお城を行き来できるようになろうと、あたしは密かに決心したのだった。




