78 お義姉さん
蒸気機関車の運行が再開したところで、フレドホルム司令官がエスビョルンさんを護衛し、あと第一王子と第二王子をまとめて引き上げていってくれた。
「エシィをお願いします」
マックスが司令官に礼を取る。
隣であたしも、頭をさげた。
「かしこまりました。無事に王都へお送りいたします。次期国王の件も、確かに国王陛下、王妃陛下にお伝えいたします」
+ + +
彼らを見送った後、アルフヒルドさんがマックスに話がしたいと持ち掛けてきた。
「私も、あなたとちゃんと話をしたいと思っていました」
「そうね。ちょうどよかった」
あの二人は互いに向き合って話をした方がいいと思っていたから、あたしは遠慮しておいた。
……のに、なぜかエドラ姉さんがアルフヒルドさんに、話しかけに行ってしまう。
離れたところからソワソワしながら見ていたけど、しばらく話をした後、エドラ姉さんはすっきりした顔で戻ってきた。
「姉さん、なにを話してきたの?」
アンネリの問いに、エドラ姉さんは少し苦笑いで答える。
「ま、昔のことを色々とね。今更と言えば今更だけど、喉に魚の骨がささったまんまじゃ、なにを食べても旨くないだろ?」
そうしてエドラ姉さんは話してくれた。
アルフヒルドさんとの昔話を――
「といっても、本当のところはっきり『なにがあった』っていうことじゃないんだよね。口に出せなかった、出さなくてもわかってくれていると甘えていた、そういうことが溜まって関係がこじれちまったのさ」
うん確かに、口に出せないことが、心の奥に積もり積もるって、あるよね。
あたしはアンネリを横目で見た。
アンネリも、チラリとこちらを見る。
「どうする? 私たちも、今から腹を割って話す?」
「そうだね、でもそれはまた今度」
「アルフヒルドって、子供の頃から私らの中じゃ、確かに浮いてたんだよね」
どこか懐かしそうに、エドラ姉さんが訥々と語り出す。
銀色の髪と緑色の瞳のアルフヒルドさん。
茶色い髪とハシバミ色の瞳が多い魔法の民の中では、確かに見た目からして浮いていただろう。
黒髪のあたし同様。
「それにあの美貌だろう? まあ、彼女の言う通り、やっかむ奴も、確かにいたのはいたんだよね」
もし身近にアルフヒルドさんがいたら、あたしはどう思っただろう。
もしかしたら、やっかんだ口だったかも知れない。
「とはいえ、いなくなったら厄介払いできるとか、そんな考えで城に間者として入ってもらったわけじゃない、とだけは言っておくよ」
魔法の民は、子供に短い名前をつけることが多い。
あたしの「ライラ」、姉さんの「エドラ」なんかもそうだ。
その中で「アルフヒルド」という名前は、確かにちょっと珍しい。
「あの子の両親も、ちょっと変わった人たちだった。魔法の民って、基本的に自分たちが住んでいる森のことくらいしか、考えないだろ?」
そう言いながら、エドラ姉さんは地面に木の枝で小さい丸を描く。
「でもあの人たちは森のことだけでなく、この国との関わりについても意識していて、もっと積極的に政治のことも気にした方がいいって主張してた。……それを他の魔女や魔術師は笑って無視して、そしていつか仲間外れのような扱いをするようになった」
小さい丸の外側を、大きい丸で囲んだ。
小さい丸の中は、居心地がいい。
そこに溶け込める人にとっては。
だから余計に、その外が見える人のことを疎ましく感じるのかも知れない。
それが間違っていたことは、今の状況を見ればわかる。
アルフヒルドさんの両親はたぶん、「視野が広い」だっけ? そういう人たちだったんだろう。
今になって義父さんが新聞を読むようになったけど、その何十年も前に危機感を持って、警告し続けていたんだ。
なのに仲間に受け入れられず、疲れて森を捨ててしまったのだそうだ。
「でも娘のアルフヒルドは魔力が人一倍強かったから、森に残すよう強く言われて、それでマグヌス古老の元で育てられたんだ」
「じゃあ、あたしの義理の姉さんみたいなものじゃない!」
「その通りだよ」
あたしはマックスとアルフヒルドさん(義姉さんって呼んでもいいのかな?)の方を見た。
まだ二人とも、難しい顔をしている。
「彼女に間者として城に行くようお願いしたときにはもう、あの子の両親の方が正しくて、あたしたちの方が間違っていたって、わかってた。でも、皆素直にあの子に謝れなくて……。あのときちゃんとアルフヒルドに頭を下げられていたら、もう少しくらいは誤解させずにいたかも知れないねえ」




