77 ラタトスクの封印
「さあ、こいつの処遇をどうするか、さっさと決めないといけないよ」
すっかり幸せな気分になっていたあたしとマックスは、アルフヒルドさんの言葉で、現実に帰った。
一旦、小石に封じていたラタトスクの封印が解かれる。
ラタトスクは、まだあたしに気を吸い取られた影響なのか、弱っていた。
いや、なんだかさっきより弱弱しくなってない?
「力を少しずつ吸い取る封印を使ったのさ。さっきライラの目覚めが中途半端に終わっちまったから、ラタトスクの力はまだ残ってる。解いた途端に暴れられたら面倒だからね」
アルフヒルドさん、おっかない……。
そこにエドラ姉さんまで容赦ない言葉を吐いた。
「で、どうする? 殺すの?」
「さすがにそれは、可哀想かな」
ちょっとだけあたしは同情したけど、珍しくマックスがそれに反対した。
彼にしてみれば、吸血樹に殺された子供のことが頭にあるんだろう。
「生きていると、なにかと障りになると私も思う」
「確かにそうかも知れないけど、うーん……」
「神話時代のように、また私とライラの仲を裂こうとするかも……」
「殺そう」
即決したあたしに、ラタトスクが力を振り絞るように叫んだ。
「止めてくれー! なさけだ。お願いだから、殺さないでくれ」
「世界樹じゃなくて、他の何かのモノの中に封印するっていう手があるけど、どう?」
アルフヒルドさんの提案に、エドラ姉さんが異議を申し立てる。
「封印先によっては、いつかまたフラフラ出てきて悪さをするんじゃないかい?」
これまでのことを踏まえると、頷かざるを得ない。
「何がいいかな?」
皆でいくつか候補になりそうなものをあげていく。
「新しい世界樹」
それで今回失敗しているので、却下。
「城壁」
お城の魔除けにという意味で候補に出たけど、いつか戦争が起きて壊されないとも限らないということで、却下。
「城の地下牢の床石」
これも城壁と同じ理由で却下。
「城や王都にあるものだと、目立つ分、非常時に危険にさらされる可能性がありますからね」
フレドホルム司令官の言葉に、頭をひねって他の候補を考える。
結局、義父さんが提案した、森の奥にある大きな石に封印することで落ち着いた。
その石は、大昔大地が割れて地中から姿を現した熱竜が、冷えて固まってできたという伝説がある。
その石がいつか風雨ですり減って、消えてなくなるまで、ラタトスクは封印されることになった。
「それって、どのくらいの時間が必要なの?」
「わからない。精霊が教えてくれる話では、ラグナロクが起きてから今までにかかった年月の、何倍もの長さらしい」
とは、アルフヒルドさんの答えだ。
「とりあえず私たちの一生の、何千倍もの時間が必要らしいってことさ」
途方もない時間の長さに、なんだか頭がクラクラする。
いよいよ、ラタトスクが石の中に封印される。
最初は抵抗し、キイキイと鳴き声をあげていたものの、次第に落ち着いて穏やかな様子になって、石の中に吸い込まれた。
「なんだかラタトスクは、石と相性がよさそうだな」
罰として閉じ込めたはずなのに、安住の地を与えてしまったような気分になり、マックスが複雑な表情になった。
「本当。なんだか癪ね」
「でも、これでよかったのかも知れない。……そして今度はなにが起きても、僕たち人間の責任だ。神話時代の生き残りのせいには、もうできないということだ」
一連の流れの中で、黙ってなりゆきを見守っていたエスビョルンさんが、静かに話をまとめた。




