76 次期国王の選定
「ああもう、面倒だね。とりあえずあの二人にかき回される前に、一旦この栗鼠を適当なモノに封印しておくよ。話がこじれそうだ」
「や、止めろォ……」
ラタトスクの抗議も虚しく、アルフヒルドさんはそこらへんに落ちている小石に、容赦なく封印してしまう。
「ひとまずラタトスクについては、後で考えるとして……」
マックスが振り向くと、ダーヴィド第一王子とニクラス第二王子があたしたちのいる場所にたどり着いたところだった。
「おい、マクシミリアン! 『森の女王』だかなんだか知らんが、田舎娘を騙して次期国王の座を奪おうとしたって、そうはいかんぞ」
「左様。公明正大に我々にも機会が与えられてしかるべきだ」
あの飛行船からどうやって降りてきたのやら。
正直、根性なんて全然なさそうなお坊ちゃまたちだと思っていたけど、次期国王の座がかかっているとなると、なけなしの意気地が出るらしい。
「この、王座に対する執念だけは褒めてもいいわ。執念だけね……」
溜め息をつくあたしに、二人して畳みかける。
「さあ、我々のうち、どちらが次期国王にふさわしいか、言ってみよ」
「兄、ダーヴィドか、それとも私ニクラスか」
「……さらっと選択肢を二人だけに絞っているし」
呆れて半目になっているあたしの肩に、マックスがそっと手を乗せる。
「でも、私は別に王座は望んでいないよ」
「うん、わかってる」
「ええー? いい男……じゃなかった、マックスさんを王様にしたら、ライラが王妃様になれるじゃない! なりなさいよ!」
アンネリが驚いて声をあげるけど、あたしはそれを軽くいなす。
「やなこった」
あたしの言葉を聞いて、自分たちが選ばれる確率が高くなったと知った第一王子と第二王子。
顔を見合わせてニッと笑ったあと、「自分こそ国王に相応しい!」と、醜くあたしに迫ってくる。
「私こそ、国王の器だ。見よ、この上腕二頭筋!」
「国王として国を統べるのは、体力ではなく頭脳ですよ、兄上」
「止めて! あたしを追いかけて来ないで。鬱陶しい!」
第一王子と第二王子を初めて見たエドラ姉さんとアンネリもすっかり呆れていた。
「うわぁ……、これがうちの国の王子様だって?」
「どっちが王様になっても、なんだかやな感じ……」
二人の言葉を受けて、アルフヒルドさんが口を挟んでくる。
「だろう? やっぱりマクシミリアンが適任だと思わないかい?」
アンネリたちは、その言葉に丸め込まれそうになっている。
でもこのとき、あたしは蛇の言葉を思い出していた。
――今の『森の女王』は、お前であることを忘れてはいけない。この国のこと、未来のこと、他の誰でもないお前が決めるのだ
「大丈夫、もう一人相応しい人がいるから」
あたしはマックスと一緒に、離れた場所で休んでいたエスビョルンさんを手招きした。
「え? 僕がどうかしたかい?」
穏やかに微笑むエスビョルンさん。
「次の王様は、エスビョルンさんよ」
エスビョルンさんの私欲のない姿に、第一、第二王子とアルフヒルドさん以外の全員があたしの言葉に頷いた。
「「なにーーーー?」」
第一王子と第二王子ときたら仲は悪そうなのに、実に気の合う叫び声を上げる。
「そんなひ弱な体で、王が務まるか!」
「そうだ、肝心なときに倒れたりしたら、我が国の恥であるぞ」
二人のイチャモンで、あたしは完全に頭に来た。
「あんたらさあ! 兄弟が倒れたら、助けようとは思わないの?」
「ねえー、がっかり。第一王子様はたくましい体つきで、第二王子様は知的なハンサムで、お二人とも見た目は魅力的なのに中身がこれじゃあね」
見目のいい男に目がないアンネリに、ここまで言われるのは相当なものだぞ、二人とも。
「その点、第三王子殿下はマックスのお墨付きよ。誰にでも親切で優しくて、頭もいいって言ってたわ」
「それに健康のことなら、ラタトスクが離れた今、きっと快方に向かうはずだ」
あたしの言葉をマックスが補って、すっかり「次期国王は第三王子」の空気が固まりつつある。
唾を飛ばして猛抗議する第一王子、第二王子の口を塞ぎたいところだが、我慢我慢。
「じゃ、決まりね! 次期国王は第三王子殿下のエスビョルン様、ということで!」
「そんな……。僕に務まるだろうか。なにかあれば、苦しむのは国民なのに」
兄王子たちの猛攻を横目で見て、申し訳なさそうにエスビョルンさんが困ったような表情になる。
むしろその姿が、あたしの決定の後押しになった。
「……うん、確かにこの王子さんが一番いい気がしてきた」
「でしょう? エドラ姉さん」
義父さんも、他の魔女仲間も皆頷いている。
フレドホルム司令官が一歩前に出て、あたしに丁寧な礼を取ってくれた。
「『森の女王』たるライラ・ライル・アルテアン殿が、エスビョルン第三王子を王太子に任命されたこと、私が証人となりましょう」
「え? ライラ・ライル・アルテアンって、どういうこと? アルテアン? もしかしてもう、あんたたち結婚したの?」
アンネリが素っ頓狂な声を出して驚いたせいで、義父さんが勘違いしてしまった。
「なんだと? ライラや、本当か? マックス殿下、いつの間に!」
「なに言ってるのよ、義父さん。まだ結婚なんてしてないわ」
「まだ」とエドラ姉さん。
「まだ?」とエスビョルンさん。
「……まだ!」と義父さん。
「まだってことは、予定はあるのね! ライラ!」
これは再びアンネリ。
「いや、別に予定はないけど」
あたしが否定すると、マックスが不思議そうな顔をする。
「でも、プロポーズしてくれただろう? ライラ」
「え、いつ?」
プロポーズ? したっけ? そんなこと!
「ドングリのネックレスをつけて、私の花嫁になると言ってくれたじゃないか」
……ああーあ、あのときか。
「うん、言った。確かに言ったわ」
気持ちが高揚して、思わず言っちゃった言葉だったけど、マックスはちゃんと覚えててくれた。
あたしの言葉を大事にしてくれていたんだ。
「あたしは、あんたの花嫁になるわ。……いい?」
「勿論だよ、ライラ」
微笑み合うあたしたちの後ろで、アンネリが「ドングリのネックレスってなに? もっとましなものをプレゼントしてよね、王子様!」と騒いでいた。




