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75 兄王子到着、または飛んで火に入る夏の虫

「神話時代の生き残りとなると、我々では手に負えません。ラタトスクの対処については、魔法の民のお力をお願いすることになります」


 フレドホルム司令官の態度は、いつも丁寧だ。

 ややもすると偏見の目で見られやすい、あたしたち魔法の民に対しても。

 きっとマックスに協力的だったのも、ちゃんとマックスの為人(ひととなり)を見て判断してくれていたんだろうな。


「前にニーズヘッグが言ってたんだけど、『ラタトスクは半分人間になってるから人間が裁け』って……」


「うん。確かに、彼が害したのは人の世に属するものだった。では人間の流儀で裁くことにしよう」


「あ、でも待って! 神話の時代にフレースヴェルグとニーズヘッグを仲違いさせようとしてこともあるわ」


 せっかくマックスが同意してくれていたのに、あたしは妙なことを思い出してしまった。

 それを聞いて慌てたのは、ラタトスクだ。


「そ、そんな……昔のことを……」


 抗議するものの、その声は弱弱しい。

 ふふん、ザマミロ。


「昔のことにこだわって、神話時代の世界を求め、そのために人間を害してきたお前が言えることかね?」


「そうだ。お前は世界樹を歪め、吸血樹に仕立て上げ、その力で何人もの命を奪った。罪のない幼い子供の命が奪われるのを、私も目の前で見た」


 義父(とう)さんとマックスに詰め寄られたものの、ラタトスクも負けてはいなかった。


「犠牲になりやすい場所に、力を持たない人間を追いやったのは、お前たち人間だろうが! 吸血樹に襲われなくとも、ああいった場所で何人もの人間が(たお)れていくのを、俺は見ていたぞ」


「……そこを突かれるのは、辛いな」


 真面目なマックスが頷けば、エスビョルンさんも同意する。


「確かに、僕たちが負わねばならない罪だ」


 エスビョルンさんは、心なしかさっきより元気になっているみたいだ。


 こんな調子でラタトスクの処遇について決めかねているうちに、あたしたちの上に何か大きな影が落ちる。

 空を見上げて、一同驚きの声を上げた。

 飛行船が、南の森の上空を通過していたのだ。


「あれは……我が軍の飛行船です」


 目をすがめながら、フレドホルム司令官が呟くと、兵士の一人も頷く。


「先ほど我々がここに降りたあと、王都に戻したものですね」


「再びここに戻ってくるとは……果たして誰を乗せてきたのやら」


 苦笑いで溜め息をつくフレドホルム司令官に、マックスも微妙な笑顔で肩をすくめた。


 そこに声が聞こえてくる。

 やっぱり第一王子と第二王子だった。


「おい! 南の森で次期国王の選定を行うと聞いたぞ」


「そんな大事な場から、私たちを外そうとしても、そうはいかないからな」


 こっちだってまだ大事なことが決まっていないのに、なに言ってるのよ、もう。

 闖入してきたお邪魔虫二匹に、地団太を踏みたい気分だ。


「誰よ、間抜けな伝言ゲームしたのは!」

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