72 やなこった!
「おじさん! こうなること、知っていたの?」
「古老!」
義父さんが、アンネリとエドラ姉さんに問い詰められてる。
「知らなかった……わしは、知らなかったんだ……」
すすり泣きが混じっている、義父さんの声。
ごめん。
ほんっと、ごめん。
親不孝な娘で、あと忘れかけてて、ごめんなさい。
「森の古老たる者が、なにをうろたえているんだい? 世界樹の再生は私たち魔法の民の悲願じゃないか」
「もう、助けられないのか? だめだ! だめだ! ライラを犠牲になんか、させない!」
「マクシミリアン、どうしたの。以前のあなたは、なにものにも執着を持たなかったでしょう。王子としての権利にも、王太子になれる可能性にも」
執着がなかった?
そうなのかも。
でも、それっていいことなんだろうか……?
「こんなこと、認められない! 認めるものか! ライラ、ライラ、返事をしろ!」
返事をしたいよ、マックス。
でも声が出ないんだ。
「落ち着きなさい。愛は執着。執着は歪みを生じます。あなたは平らかな心でこの国の王となり、人々を治めなければならないのですよ」
「勝手なことを言うな!」
マックスが泣いている。
あたし、あたしがマックスを泣かせているのかな。
抱きしめに行きたいけど、力が入らない。
もう、だめなのかな。
「私があなたを産んだのは、そのためなのですよ、マクシミリアン。魔女の血と王家の血、その二つを引いた者を王座に据えるのは、我ら魔女の悲願!」
ああ、アルフヒルドさんは、そんなことを考えていたんだ。
マックスが望んでもいないことを。
「そう、マックス殿は魔法の民の、森の希望。我らの悲願。……しかし、ライラはわしの娘だ。血こそ繋がっておらんが、わしの娘だ。わしが育て、魔法を教え、一緒に暮らしてきたんだ。わしは娘を犠牲にしとうない」
「森の古老たるあなたが、なんということを」
「森の古老である前に、ライラの父親なんだ……!」
義父さんが泣いてる。
マックスが泣いてる。
アンネリや、エドラ姉さんも泣いてる。
皆が泣いてる。
あたしのために、泣いてる。
あたしが泣かせてる……?
「ライラ、待ってろ。今助けてやる!」
マックスがナイフで世界樹を切ろうとしていた。
でも、世界樹の成長の方が早くて、どんどん幹同士がくっついて閉じられてしまう。
もう世界樹があたしの一部になってしまったのか、いや、あたしが世界樹の一部になってしまったのか、ナイフで切られる痛みが、あたしにも感じられる。
痛みのせいで少し意識がはっきりしてきたとき、ラタトスクが歓喜の声を上げるのが聞こえた。
「セカイジュ! セカイジュ!」
「そろそろだね」
アルフヒルドさんが、ラタトスクを封印していた魔法を解いた気配がした。
エスビョルンさんを包んでいた光の膜が消えて、彼の中から、塞がりかけた世界樹の幹の中に、なにがが入り込む。
ラタトスクが世界樹の中に入ってきた。
アルフヒルドさんが、今度は世界樹に封印の魔法を掛ける。
「世界樹の虚で再び眠れ、ラタトスク」
「まってくれ。母上、ライラほどうなる?」
「言ったでしょう? 世界樹と一体となって、生き続けるの。もう、忘れなさい」
「忘れるなんて、できない! できるものか!」
マックス、泣かないで。
あんたにはずっと、笑っていて欲しいよ。
大好きだ。
大好きなんだ。
このまま、あたしが世界樹になってしまったら、マックスが王様にさせられてしまうの?
王様になりたくないって言っていたマックスを?
……待って。
だめだ!
こんなのは、いやだ!
世界樹の栄養になって朽ち果てて、その上マックスのことを泣かせるなんて。
そんなの……
「やなこった!」




