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67 エスビョルンの決意

「そうだ、お前を引き受けるのは僕だ!」


 エスビョルンさんの声は震えていたけど、その言葉は力強かった。


 遠くから再び鶏の声が聞こえる。

 山の稜線が、ほんのり薄い赤に色づき始めていた。


 ラタトスクが、じりじりとエスビョルンさんに引きつけられていく。


「や、止めろ。もうそんな不自由な体に、入りたくない」


 ラタトスクの言葉にカッとなったマックスが、怒鳴りつけた。


「勝手なことを! エシィの身体が弱ったのは、お前のせいじゃないか!」


 兵士たちは、これまでマックスのこんな声を聞いたことがなかったらしく、驚いて彼を見る。


「来い、ラタトスク。 今日こそ決着を着ける」


 たぶんエスビョルンさんのこんな姿も、見たことがなかったんだろう。

 兵士たちはただ、オロオロと見ているだけだった。


「いけない! ライラや、あの王子さんを止めろ!」


 突然、義父(とう)さんが叫んだ。


「なんで?」


「今までラタトスクは昼の間、あの王子さんの身体に入りこんで、体を操っていたのだ。今度はそれを逆手にとって、ラタトスクを体の中に取り込んで、諸共に死ぬ気だ」


 それを聞いて、あたしも息を飲んだけど、それ以上にマックスが慌てる。

 エスビョルンさんは、もうほとんどフレドホルム司令官に寄りかかっているような状態だったけど、その目の光だけは強く、誰も寄せ付けない意思の力があった。


「だめだ、エスビョルン! そんなことは認めない」


 そのとき、三度目の鶏の声が聞こえる。

 同時にラタトスクが叫んだ。


「しまった!」


 ラタトスクが、エスビョルンさんの中に吸い込まれる。


 今まではラタトスクを身の内に取り込むと、人格が変わっていたのだろうけど、今日のエスビョルンさんは元の人格のままだ。

 その分、身体がむしばまれるらしく、身悶えて地面に転がる。


「僕はもう二度と、お前に心を乗っ取られはしない!」


 苦しみながらも、ラタトスクを離すまいとするエスビョルンさんの姿は、土にまみれていても、どこか神々しいものがあった。


「マクシミリアンの……お母上……」


「……え?」


 エスビョルンさんから名指しで話しかけられ、アルフヒルドさんが驚いている。

 こんなときでも、エスビョルンさんの言葉遣いや態度は、礼儀正しくて丁寧だった。


「このまま、私ごと封印してください。あなたになら、できるのでしょう?」


「なぜ、それをご存じで……?」


「私の内のラタトスクが、封印(それ)を恐れている。ははは……、この身体に収まったことで、弱点を知られてしまったな、ラタトスク」


「だめだ! そんなことをしたら、エシィが!」


 マックスの悲痛な叫びに重なるように、一瞬エスビョルンさんの顔が変わり、掠れた声で「ヤメロ!」と叫んだ。

 その変化に皆、息を飲む。

 フレドホルム司令官や部下の兵士たちの間に流れていた、「第三王子を邪霊ごと封じるなど承知できない」という空気が一変してしまった。


 その様子を確認したアルフヒルドさんが呪文を唱えると、エスビョルンさんの足下から上へと光が包み込んでいく。


「……封印の魔法!」


「止めてくれ!」


 マックスがアルフヒルドさんを止めようとしたときには、光が完全にエスビョルンさんを包み込んでしまっていた。

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