66 夜明けを告げる声
「やあ、どうにか追いついたね」
そのフレドホルム司令官に背負われた人が、弱弱しく笑う。
第三王子のエスビョルンさんだ。
夜の森で見ると一段と顔色が悪く見えるけど、トールビョルンだったときに比べると、ずっと優しそう。
「エシィ! 飛行船から、どうやってここに?」
慌てたのはマックスだ。
エスビョルンさんが飛行船に乗ったところまでは聞いていたものの、まさか羽で飛び降りるとは思っていたかったのだ。
「あ、言うの忘れてたわ。第三王子さんも飛行船から飛び降りたんだった」
「なぜ、そんな無茶を!」
さらっと事後報告するエドラ姉さんに、マックスは頭を抱える。
でもエスビョルンさん本人は、生半可な覚悟でここに来たわけではなかったみたいだ。
「長い間、身の内に邪霊を飼ってしまっていた、その償いをしにきたんだ」
「償いだなんて。むしろエシィこそずっとラタトスクに健康を損なわされてきた被害者じゃないか。エシィ、ケガはない? 苦しいところはありませんか?」
「そこは極力お体に無理をさせないよう、気をつけました。ご安心を」
フレドホルム司令官が、エスビョルンさんを背中から優しく降ろし、少しふらついている身体をそっと支える。
「マクシミリアン、ありがとう。……でも、僕はこの国の王子だ。王族は他の人たちよりも重い責任を負っている」
ああ、エスビョルンさんはマックスと同じように考える人なんだ。
そんな優しい人相手に、ラタトスクは敵意を向けた。
「お前のような弱っちい体は、返してやるよ! もう必要ないからな!」
「本当に、そうできるかな?」
エスビョルンさんがニッと笑みを浮かべる。
そのとき、遠くの農家で鶏が鳴く声が聞こえてきた。
「ほら、一番鶏の声だ。夜明けが近い。お前が僕の体に縛られる時間が、近づいている」
ラタトスクが、今まで以上に剣呑な目でエスビョルンさんをを睨む。
でも、いつもの憎まれ口は出てこない。
なるほど、これはエスビョルンさんの言うことが正しいようだ。
「ふーん。だんまりを決め込んでいるところを見ると、図星みたいね」
「……黙れ!」
「ライラ。そんな暢気に構えていると、危険だよ。あいつが狙っているのは、あんたの身体だ」
「なにっ? ライラの、か、身体?」
マックスがなにか勘違いしたみたい。
アルフヒルドさんが溜め息をついて気を取り直した後、説明を続けた。
「ラタトスクの本当の狙いは、ライラの身体を乗っ取ることだよ。ニーズヘッグの力を、自分のものにしようとしているんだ」
「そんなこと、させないから!」




