64 エスビョルン、飛ぶ
あたしたちがラタトスクと対峙していたころ、エドラ姉さんの元には間者として入った魔女から、王室直属軍の飛行船の中の様子が知らされていた。
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「そろそろ南の森だな」
フレドホルム司令官が兵士たちに命令を下す。
「降下準備、始めい!」
後で聞いたことだけど、フレドホルム司令官は色々な情報をマックスに流しながら、魔法道具を作る義父さんと接触できるよう働きかけていたそうだ。
意外にちゃっかりした人だ。
「本当にこの小さい箱を背負っただけで、飛び降りるんですか?」
「この羽だけで? うひゃあ」
非常用の出入り口を開いて下を覗き込んだ兵士たちが、怯えて足を竦ませている。
背中に背負うのは、義父さんが作ったあの羽だ。
「マクシミリアン殿下は、試作品で飛び降りたそうだぞ。お前たちは兵士のくせに、殿下より肝が小さいようだな」
そう言って司令官は部下に発破をかけていたそうだ。
いいこと言うな、司令官。
最後にフレドホルム司令官が降りようとすると、エスビョルン第三王子が「自分も降りたい」と訴え出る。
「あなたの身体では、落下のショックに耐えられないかも知れません」
「耐えてみせます。僕には、あの邪霊におめおめ身体を乗っ取られてしまった責任があります。この国の王子として、けじめをつけたいのです」
その言葉を聞くと、司令官はほぅ、と息を吐いた。
「やはり、ご兄弟ですね」
「え?」
「なんでもありません。マクシミリアン殿下によると、この羽は二、三人分くらいなら持ちこたえられるそうです。……行きますよ!」
「はい!」
ちなみに間者の魔女は飛び降りなかったそうだ。
魔女から見ても、下を覗き込んだとき足が震える高さだった、と後で聞いた。




