60 魔女たち、動く
義父さんの家に向かっているうちに、夜がきた。
王都では、軍が処理しきれずに残った吸血樹が、再びうねうねと不気味に動き出している。
ほとんどの吸血樹は大通り沿いに生えていたので、その近くの住民は、離れた場所に既に避難していると聞いた。
でも魔女たちにとっては、全然安心できる状況ではない。
残っている吸血樹が魔力に反応して、エドラ姉さんの部屋に窓を割って侵入してしまったのだ。
その当時エドラ姉さんの部屋には、姉さんの家族の他、アンネリたち若い魔女が何人か集まっていたらしい。
侵入してきた枝は、皆で協力して撃退したけれど、また襲ってくるかも知れない、とアンネリが泣きながら知らせてきた。
『ああん、もうやだ! どうすればいいの? ライラ知ってる?』
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「あの、あたし、それどころじゃなくて……」
義父さんが殺されたって知らせてきたのはアンネリなのに、その状況を忘れちゃったんだろうか。
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そのとき、エドラ姉さんの声が聞こえてきた。
『ここにいても仕方がない。あたしたちも王都を出て、マグヌス古老の家に向かうよ!』
『マグヌス古老? ライラのお義父さんのこと? 古老っていうには、若いんじゃない?』
『あの御仁は、ああ見えて年齢は百を優に超えてる。魔術師の中の魔術師、マグヌス古老だ』
『ええーっ?』
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「ええーっ?」
通話の向こうでアンネリと同時に、あたしも声を上げた。
確かにラタトスクが、義父さんを古老と呼んでいたのは聞いた覚えはある。だけど!
義父さんが百歳を過ぎてるって?
初耳だ!
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『ライラ? 聞いてる?』
「あ、うん」
驚いている場合じゃなかった。
アンネリの方はとっとと気を取り直したらしい。
『今、ライラたちはどこにいるの?』
「今は義父さんの家まであと二駅くらいの位置にきてる。アルフヒルドさんの魔法で、途中まで穴を使って来てたんだけど、さすがに魔力切れを起こしちゃって、足で移動してるところ」
「魔力切れで悪かったね!」
アルフヒルドさんが不貞腐れたように叫ぶが、むしろアンネリは驚いている。
『一人で穴を通したんですか? すごい!』
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アンネリたちも義父さんの家に行くために、いったん駅に向かったのだそうだ。
「でも最終が出ちゃった後だったし、列車から乗客が飛び降りたせいで、明日は朝から運休するって聞いたの」
「ゴメン。それ、あたしだ」
『もおーう、なにやってるのよ。……というか、それでなんで無事なの?』
「その話は、また後で」
アンネリの後ろでは、エドラ姉さんの声がする。
『仕方がない。マグヌス古老が生き残りの動物たちに声を掛けてくれているから、私たちもそれを使おう』
吸血樹が王都まで生えてきたことが幸いして、その森を通り動物たちがやってきているんだそう。
アンネリの話で、オオカミの群れが王都に姿を見せたことを知る。
『ほら、さっさとオオカミに乗りな!』
『そんな無茶な!』
アンネリの泣き声が響いた。
『古い魔女なら、誰でもできたことだよ。グズグズ言わずに乗るんだよ! でなきゃ置いてくからね』
オオカミがグルル……と唸っているのが聞こえる。
『え? 今、オオカミが〈乗れ〉って言った……?』
『なんだ、言葉がわかるじゃないか。やっぱりあんたも魔女だね』
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『そそんなわけで、私たちももも今南に向かってるのの』
オオカミに乗りながら、アンネリが連絡を寄越してきた。
揺られているせいか、その声も揺れ揺れだったが、なんとか聞き取れる。
「わかった!」
少し元気が出てきたあたしは、足を速めた。




