56 迎えにきたぞ!
あの高さから落ちると、ものすごい速さで地上へと向かうことになる。
大風が下から吹いてくるような感覚の後、背中と膝の後ろに衝撃を感じ、風が止まった。
落下するあたしの身体を、マックスが両腕で抱き留めてくれたのだ。
その勢いで、少しバランスを崩したものの、どうにか飛行を続けている。
「おおっとっと」
「マックス!」
森の奥にある温泉のお湯が湧き出るように、あたしの胸の奥から温かい思いが次から次へとあふれ出した。
なんて言ったらいいのか、わからない。言葉が出ない。
うれしくて、うれしくて、あたしはマックスの首に抱きついた。
「うわ!」
「あ、ごめん。バランス崩した?」
初めて会った日も、あたしが暴れたせいで、木の上辺りから落ちたことを思い出す。
「それは、大丈夫。……しかし、無茶をするな」
「だって、マックスが見えたから。絶対、あたしを受け止めてくれるって、信じてたもの」
あたしはマックスの目を見つめる。
マックスも、あたしの目を見る。
「本当は、あたしが助けに行こうとしていたのに」
「マグヌス氏から連絡を受けた。私のために、ありがとう」
「あんたのためじゃないわ。あたしが、マックスに会いたかったの。マックスを助けに行きたかったの」
マックスは笑っているような、困っているような、変な表情をしている。
ああもう! あたしの気持ち、わかっていないのかなあ?
勢いに任せて、あたしはマックスの首に腕を絡める。
目を閉じて……えーっと、顔は傾けた方がいいんだろうか。
「ん!」
そのまま、彼の唇にあたしの唇を重ねた。
それは、ものすごく長い時間だったような気もするし、一瞬だったような気もする。
唇を離し、恐る恐る目を開けると、さっきよりも困ったような顔のマックスと目が合った。
「なによ、その表情!」
「いや、その……」
しどろもどろで、顔を背ける。
なんなの、それ!
「あたしに、キ……キスされたのが、嫌だったっていうの?」
「そんなわけがない!」
逸らしていた目を、あたしに向けて叫ぶ。
「むしろ、うれしくて、走り出したくて、でもここで走ったら、たぶん落っこちてしまうから、我慢していたんだっ!」
「確かに!」
あたしは笑って、またマックスの首に抱きつく。
あったかい。
耳元に、マックスの呼吸の音が聞こえる。
そうだ。一番近くに居たい人の、一番近くに、今いるんだ。
王子様と魔女なんて、住む世界が違うって思っていたけど、ラタトスクに攫われたとき、首を絞められて死ぬかと思ったとき、すごく後悔した。
自分に素直になっておけばよかったって。
だからもう、迷わない。
「マックス、あたし、あんたが好きだよ」
「私もだ」
「世界中の皆がマックスの敵になっても、あたしはマックスの味方になる」
すると、急に怪訝そうな顔になる。
「まさか私を、この国の王にするつもりじゃないよね?」
まだわかってない。
マックスが望んでいないものに、あたしがさせるわけない!
「あたしの王冠は、ダイヤモンドの代わりに星の光が飾ってあるの。それからドングリのネックレスをつけて、マックスの花嫁になるわ!」
「それがいい」
あたしたちは軽やかに笑い声をあげ、もう一度キスをした。
まさしく、空のランデブーだ。




