51 先代「森の女王」
王妃様は最初、ご自分の部屋へはアルフヒルドさんとあたしだけを招くつもりだったらしい。
でも、マックスがあたしのことを心配し、それを聞いた王様も「心配だ」(誰を?)と言い出して、王妃様の部屋へ四人でお邪魔することになる。
ちなみに第一王子と第二王子も来たいと言ったけど、王妃様が断った。
申し訳ないけど(なんて本当は全然思ってないけど)、彼らが来なくてホッとした。
+
「では、先ほどの話の続きをいたします」
王妃様が静かに口を開いた。
「先ほどお話した通り、神話の時代が終わり、アルテアンの血が分かたれたときの約束で、ニーズヘッグ……『森の女王』が選んだ者が、この国の王となると決められたのです」
そして、その「森の女王」があたし……
突然突き付けられた責任の重さに、身震いする。
「待ってください。ライラの意思はどうなるのですか? 彼女が王妃になどなりたくないと言ったら、許されるのですか?」
「許されるわけがありません」
マックスの問いを、アルフヒルドさんが鋭く遮った。
その声は、ひどく冷たい。
「そんな……」
人によってはもしかしたら、あたしの立場を羨ましく思うのだろう。
でも、あたしにとってはこんなの死刑宣告みたいなものだ。
その空気を一旦変えようとするかのように、王妃様が矛先を変える。
「国王陛下は、城内に潜入していたアルフヒルド様が『森の女王』だと気づいて、お手をつけたのでしたわよね?」
王妃様が非難の目を向けるのに対し、王様はその視線を逸らしながら小声で叱った。
「昔のことを、蒸し返すでない」
「もしかしてさっき、トールビョルン、いえ……エスビョルンがライラに掴みかかったのも?」
「ええ、彼女を自分のものにして、王位に就こうと考えたと思われます」
マックスの疑問に王妃様がそう答えたけど、あたしにはそうは思えなかった。
だって、あんな体で襲い掛かってもすぐ止められるって、わかっていたはずじゃない?
それに彼の本性は神話時代の邪霊。王位なんて欲しがるかな。
「そういえば、マクシミリアン。あなたはエスビョルンをトールビョルンと呼んでいたようですね? そして自分のことを第五王子だと、ライラ殿に伝えていたと」
「はい、母上……ああ、いや、紛らわしいので、ここは王妃様と呼ばせていただきます。私はエスビョルンとトールビョルンという双子の兄がいると聞かされていたのです。実際私が見る限り、エスビョルンとトールビョルンではまったく性格が違いました」
「誰がそのようなことを……」
王妃様の疑問にマックスが答えようとするのを、アルフヒルドさんが遮る。
「勿論、本人ですよ。自ら『第四王子のトールビョルン』と名乗ったのです。そうでしたね? マクシミリアン」
「……はい……」
アルフヒルドさんは俯くマックスに満足したように頷くと、今度は王様や王妃様に冷たい視線を流し、そのまなざしよりも冷たい声で言い放った。
「そんなことより、わが息子を王子として扱わず、教育の機会も与えず、侍従や侍女、果ては門番までが彼を軽んじていても見て見ぬふり。あなたがたはこれまでのことを、どのように償うおつもりか、聞かせていただきたい」
その言葉に、あたしはちょっと納得できなかった。
だって、おかしくない?
マックスがあの塔の上の部屋に追いやられていたときだって、アルフヒルドさんはウリカさんとして一緒にいたんだよね?
見て見ぬ振りをしたのは、アルフヒルドさんも同じじゃないの?
「今、ここにきてそんな要求を突きつけるとは、なんのつもりだ?」
さすがにあたしも、この王様の言葉には頷いてしまった。
マックスの境遇をよくしたいなら、もっと前に言うべきじゃないだろうか。
「『森の女王』たる私の子供ですよ? 彼が受けるべき正当な権利を、あなたがたが取り上げてきたくせに」
「その件は幾重にもお詫び申し上げます。そして古き契約にも関わらず、長い間『森の女王』が王を選定してこなかったことにも」
その言葉に、マックスがゆるゆると頭を上げる。
「では必ずしも、ライラを次期国王と結婚させる必要はないではありませんか」
「これまでは、何世代にもわたって『森の女王』が姿を現しませんでした。現国王陛下の婚約者選定の際にも、誰が『森の女王』なのかはわからず、父ハルヴァラ公の薦めもあって、わたくしが陛下に嫁ぐことになったのです」
王妃様が言葉を選ぶように弁明した。
「ということは、母上が義務を放棄したということではないですか? それが今になって名乗り出てきたのは、どういうことでしょう?」
心なしか、マックスの語気が鋭い。
「今になって、というわけではありません。以前侍女としてこの城に潜伏したときには、既に『森の女王』として次代の王を産もうと決心し、あなたをもうけました」
「潜伏? そうだ、私は母上について、身分を偽って侍女になった女だと聞かされていました。詳しい事情を教えてください」
マックスの言葉は、アルフヒルドさんを問い詰めるような口調へと変わっていった。




