50 母のおもかげ
ウリカさんからアルフヒルドさんへと姿が変わったら、中身もまったく変わってしまったようだ。
「なんだか別人みたい……」
思わず口をついて出てしまった言葉に、マックスが反応する。
「ウリカのこと?」
「う、うん……」
マックスが一番戸惑っているだろうと思っていたけど、案外落ち着いているようだ。
「私も驚いたよ。長年侍女として仕えてくれていたウリカが、実は母だったなんて……」
「うん」
「でも、腑に落ちることがいくつかあって、『ああ、そういうことか』と思っている自分もいるのだ」
「そうなの?」
なんだかマックスを見ていると、お母さんが「ウリカさん」だったときの方が、よほど親子みたいだったと思う。
今はなんだか、二人ともよそよそしい。
心配になってマックスを見上げた瞬間、視界の端でなにかが動いた。
「来い! ニーズヘッグ!」
「きゃっ!」
いつのまにか近づいてきていた第三王子に、腕を掴まれる。
あたしがもがいたのと同時に、マックスが強く抱き寄せてくれたので、どうにか逃れることができた。
第三王子の動きにフレドホルム司令官が素早く対応し、あっという間に兵士たちに押さえつけられている。
「エスビョルン第三王子殿下、王家の方に対し礼を失する行為をお許し願います。しかし国王陛下の御前でこのような狼藉は、例え王子殿下とはいえ見逃すことはできません」
そう言いながら王様の顔を見た。
王様に、第三王子を捕まえてよかったのかどうか、お伺いをたてているのかな。
王様は眉間にしわを寄せて、王妃様の方をちらりと見る。
王妃様が頷いて、フレドホルム司令官に「よい」と告げた。
「殿下を、ご自分の部屋にお戻ししろ。ただし外から鍵をかけるのを忘れないように」
つまりマックスの代わりに彼が軟禁されることになったのか。
いや、マックスはマックスで、もしかしたらまた閉じ込められちゃうのかな。
吸血樹の問題は、また別だもんね。
王様たちの方でも、マックスについては悩みどころのようだ。
「さて、マクシミリアン。そなたをどう扱うべきか」
王妃様の言葉に、第一王子が意見する。
「それはもちろん、塔の部屋に監禁でしょう。エスビョルンがそこの女にちょっかいかけただけで軟禁されるなら、もっと重い処罰にするべきかと」
「いい加減、口を閉じよ、ダーヴィド。お前もだ、ニクラス」
深い溜め息をつきながら、王様が第一王子と第二王子を窘めた。
それを受けて発した王妃様の言葉は、一層の重みを増してあたしたちに落とされる。
「お前たち、先ほどまでの話を理解していなかったのですか? ライラ殿は古い血の契約により、この国の王を選定する資格を持つのですよ」
……え?
待って、どういうこと?
「つまりその女を娶れば、王になれる確率が高くなるということか?」
途端に第一王子のあたしを見る目の色が変わる。
第二王子もまた、その眼つきや声色に獰猛さが加わった。
あたしは二人から後退り、走り逃げたくなるのを我慢する。
「待ちなさい! ライラ殿に狼藉を働くなら、お前たちにも第三王子と同じ処罰が待っていますよ!」
今にも二人の王子から飛び掛かられるのではないかと、身を竦ませていたあたしに、王妃様がそっと声をかけてくれた。
「わたくしの部屋にお越しください。アルフヒルド様も、こちらへ」




