48 森の女王の力
「だ……れ?」
声がした方を振り向くと、知らない女の人が立っている。
いや、どこかで会ったことがあるような……どこかで……
瞳は緑色だけど、月の光みたいな銀色の髪はマックスと同じ色だ。
戸惑っているあたしたち以上に、困惑している人がいた。王妃様だ。
「そんな、まさか……亡くなられたと聞いていたのに……」
「お久しぶりでございます、王妃様。私はこの通り生きております」
王妃様のお知り合い?
そんなあたしの疑問に、フレドホルム司令官が答えを教えてくれた。
「マクシミリアン様、お母上です」
「ええっ? でも、母は……城を追い出された後、亡くなったと聞いていて……」
驚いているマックスと、アルフヒルドさんをこっそり見比べる。
うん、やっぱりマックスはお母さん似だな。
マックス本人は信じられない、という顔をしているけど、これだけ似ているなら多分本当だろう。
どこかで会ったような気がしたのは、そのせいだ。
一方、王妃様はまだショックが抜けきらないみたい。
「確かにこの方は、アルフヒルド様。あなたのお母上に間違いありません。それにしても、ああ……あれから二十年近く経つのに、ほとんどお変わりになっていない」
確かに、マックスみたいな大きい子供がいるようには見えない。
あたしより、五つ六つ上くらいに見える。
皆が困惑している中、第一王子はアルフヒルドさんを見下すような態度を貫いた。
「確かマクシミリアンの母は下賤の者でしょう。母上が様なぞつけてお呼びする必要はありません!」
「いいえ、この方はいにしえの貴い血を引く方です」
王妃様が第一王子に反論すると、王様がそれを遮る。
「私は認めん。我が王家より古い血など!」
いにしえの貴い血?
ということは蛇から聞いた話に照らし合わせると、この人もあたしと同じ一族で、それを王様たちも知っているということか。
「父上も母上も、そんなどこの馬の骨ともわからぬ下賤な女の言うことを真に受けないでください!」
第二王子も、第一王子に負けず劣らず、なにかというと他人を蔑んでくる。
彼の言葉を聞いてムッとしちゃうあたしとは違い、マックスのお母さんという女性――アルムヒルドさん、だっけ?――は、余裕の笑みで答えた。
「ニクラス第二王子。頭のできがご自慢と聞いていましたが、さほどでもないようですね。陛下の申された意味もよく理解せず、ダーヴィド第一王子に賛同するとは」
「躾が行き届かず、申し訳ないことでございます」
アルフヒルドさんに対して恭しく頭を下げる王妃様に、さすがに唖然とする。
これじゃどっちが王妃様かわからない。
そんな王妃様の様子が気に食わないのか、第一王子が顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「母上、お止めください! 王家の一員としてのプライドはないのですか? あなたの無責任な行為で、私たち王族皆の立場が低くなるのですよ?」
「そうです! 我らが平民から舐められるようなマネは止めていただきましょう!」
この王子二人の言葉を聞いていると、王家の誇りうんぬんよりも、なんだか自分のプライドが大事みたい。
まったく、ちっせえ男たちだ。
あからさまに「ケッ」という顔をしていたあたしを指して、アルフヒルドさんがとんでもないことを言い出す。
「あなたがたこそ、真の女王の前で不遜であるぞ」
は? 真の女王って、誰?
あの蛇のこと?
「我ら一族に流れる血は、あなたがた王家より古き流れを持つ。我らが治めるものは、人どもが決めた『国』よりも大きく深い意味を持つ」
「『国』よりも?」
第一、第二王子だけでなく、マックスも呆然としながら呟いた。
王様と王妃様、それにフレドホルム司令官は静かに聞いているところをみると、その話を知っていたみたい。
あとムカつくことに、第三王子はニヤニヤと笑っていた。
まあ、ラタトスクなんていう、ラグナロク以前の生き物が取り憑いているわけだし、ここにいる誰より、詳しく知っているはずだ。
悔しいけど。
「我ら一族より『森の女王』は生まれる。多くの民は知らず、嘆かわしいことに我ら魔法の民からもその記憶は薄れつつあるが、確かに国と言う人の定めを超えた王国を統べるものだ」
「へ?」
そんな意味が「森の女王」にあったなんて!
あの蛇は教えてくれなかったぞ。
「王妃様。私は現在、その血の権利を返上しております。今の『森の女王』はそこの若き娘、ライラでございます」
「……なんと……!」
王様や王妃様の目が、あたしに向けられる。
なんかここで注目されるのって、いい感じしないんだけどなあ。
アルフヒルドさんの告白に王様が驚いている横で、あたしは話の内容を自分なりに解釈していた。
でも、待てよ?
今の言葉からすると、アルフヒルドさんて、あたしの前に『森の女王』だったってこと?
今は違うってことは、死ぬまで背負わなきゃいけない肩書じゃあないんだ!
ちょっと荷が軽くなったように感じているあたしと違い、マックスは緊張感が高まっているようで、あたしの肩に手を回して抱き寄せてきた。




