第21作品目:失ったはずの彼女を探すため、僕はパスワードを入力するのだった
これは十数年前の大学生時代の話しだ。騒ぐのが苦手な僕は大人しめなサークルを見つけて、入会する。
そこで出会った彼女とは気が合い、お互い好きなゲームで遊ぶようになった。
企画投稿時はヒューマンドラマ〔文芸〕作品でした。
・作品についての思いやお話しなどは後書きに掲載します。
十数年前の話しになる。当時の僕は大学生で「和三盆とは何かを考える会」というサークルに参加していた。
落ち着いた古風なものを愛する集まりに見えるけれどぶっちゃけ、和菓子を食べてお茶を飲むだけの集まりだ。
陽気にウェ〜ィって出来ない人達でも、静かに交流を楽しむためにっていうのがサークル設立当時のコンセプトだったそうだ。
……言いたい事はわかる。高尚な文言をかざしただけのお茶会ってだけだもんな。要は和風チックな合コンだよね、ってだけ。
でも、サークルのおかげで趣味の合う彼女と出会えた。彼女は郷土料理における砂糖の使われ方を真面目に研究していた。
僕と違い、サークルには真面目な動機で入会していた。たまにいるガチな人、それが彼女だった。
「お待たせ、さあやっつけるよ」
「遅い。挽回しないと他の奴らに持ってかれるぞ」
「悪かったってば。気合い入れていくよ」
お互いゲーム好きで、気がつくと夜遅くまで一緒にボスと戦っていた。彼女も今時の大学生だから、サークルに真剣さかない事に熱く怒るような事はしない。
むしろ研究の息抜きがしたくて入ったようだった。和三盆の和菓子の研究よりも、ゲームのボス攻略を一緒に考える時間の方が長かったよ。
「なんか卒業まであっという間だったねぇ」
しみじみと言う彼女。レンタルの着物姿でも、綺麗だった。
卒業式の後、彼女は実家への帰路を急いだ。
「二人で暮らすのは構わないけど、顔を見せに帰ってこいってさ」
両親とは公認の仲だ。新年度から同じ職場で働く事も決まっている。
「手続きは僕がやっておくよ」
────僕はこの時に強く引き止めるか、一緒に帰るべきだったと後悔する。
未曾有の事態が発生した。震災による被害は甚大で、彼女との連絡も絶えた。
頻発する大きな揺れに、僕は不安で祈るしか出来なかった。
────運命は時に残酷だ。五年経った今も、彼女と遊んだゲームはあの頃のまま止まっている。
あの瞬間に送られてきたゲーム内のメッセージを、僕は未だに開けられないままだった。
その直後に起きる事など知らない彼女からの、他愛もない事が書かれているだけのはずなのに……それが最期と認めたくなかった。
「じゃあ向こうについたら────開けてみてね」
心に刻まれた────明日に何かが起きるなんて、想像すらしていない二人の最後の会話。
……期限が迫って来た。二人の思い出のゲームがサービス終了してしまう。怖くて開けられなかったメッセージ。
僕は躊躇いながら、彼女の最後のメッセージを開く。
メッセージには何事も起きる前の電車の車窓で、穏やかな景色と笑顔の彼女の写真と謎の数字があった。
「……どういう事だ?」
急いで僕は写真を保存する。
このゲームには、写真を掲載する機能なんてなかっはたはずだ。
そして見知らぬメッセージが届き『クエストに挑戦しますか?』 の文字が出る。
「パスワードを入力して下さい」
何かが起きようとしている。五年経った今も、彼女への思いは変わらない。
奇跡か、詐欺か。僕は一縷の望みをかけてパスワードを入力したのだった。
「待たせてごめん────今行くから」
お読みいただきありがとうございます。
この話しは、自身が体験した実話が少し含まれています。投稿時はともかく加筆再掲載版を載せる今現在も大きな災害が起きてしまっています。
心苦しいのですが企画投稿時のあとがきと同じ文面が作品の中に込められています。
異世界でもいい、生き延びていてくれたなら……そんな願いが。




