第17作品目:暖炉には抜け道がある、そしてパスワードと黒歴史は忘れがち
五年勤めた会社をハニトラにかかり自主退社した。ぼやき事務員のジーコは、縁あって出会ったマヤ社長の社長秘書となる。
辞めた会社は潰れてざまぁは済んだものの、この会社は国際問題に巻き込まれ、某国のエージェントに追われる羽目に。
新たな同僚の黒いコスモスこと、黒里桜子と共に、雪山の山荘からの脱出を試みる────。
企画投稿時はアクション〔文芸〕作品でした。
・作品についての思いやお話しなどは後書きに掲載します。
都市伝説級の定説で、暖炉や食器棚には隠し通路を置きがちだ。まああくまで自分調べの話し、細かい事はいいんだよ。
私はジーコ。とある会社の地味な事務員から、転職して社長秘書になった女だ。命名したのは私を拾ってくれた社長だ。サッカーの神様からあやかったように見えるが、私の名前は事務子ではない。
社長のマヤは金星人だと寒いギャグを連発する電波女だ。でもとても優しく人が良い。大企業の会長令嬢との縁をきっかけに、成り上がった女傑とも言える。
ただ仕事も趣味も、どんな分野だろうと急速に発展すると、妬む恨む輩は当然湧く。こんな地方の都市にまで、国際問題に発展しかねない事件を起こすなよな、そう言いたい。
「駄目ね。某国のエージェントに囲まれてる」
冷静な私の相棒────黒いコスモスこと黒里桜子は、こちらを伺う視線に勘づく。彼女も私と同じ目にあって会社を辞めた女だ。居酒屋で意気投合して、スカウトした。
桜子……何気にスペックが高い。なんでこの人、OLしていたんだろうか。無事に脱出出来たら聞いてみよう。
「会長令嬢はオカルトおたくで厨二病だから、抜け道があるはずだよ」
雪山の山荘の設計主は、そのためだけにこの山荘を作ったと言ってもいい。たとえ頭が湧いていても、こういう時は助かる。元凶も会長と社長なので、感謝はしない。
「脱出出来そう?」
某国の連中の数が少し増えた。私の不安を感じたのか、桜子はニコッと微笑む。
「日が暮れるまでが勝負だね」
それは日暮れと共に踏み込まれる、それが桜子の予測だ。私もそう思う。
「今度はどこにちょっかいかけたんだろうね、マヤ社長は」
「近海の取引きを断っただけだって言ってたよ」
商売上のトラブル。まったく某国は面子に煩いこった。
「ジーコ、暖炉にあったよ」
少しは捻れ。でも逃げられそうだ。わざわざどこからか運び入れた暖炉は、新築の山荘の中で浮いて見えた。そのせいか隠し通路の意味がなくなってる。
「隠し通路を作っただけで満足した感じだね」
そもそも当人は使うつもりがあったのか? 私達を囮にするために、社長を使って雇い入れた可能性が頭に浮かぶ。
某国の密偵は、私達を捉えて取引にマヤ社長を引きずりだすつもりだけど、価値があるのか微妙だ。
以前にも関係者の息子が狙われたから、なんとも言えない。
「ねぇ、パスワードあるんだけど」
暖炉の中の扉を開くには、パスワードが必要らしい。時間もなくて危機なのに。
「入力は何? 数字? ワード?」
「恥ずかしい思い出を語って下さい──って表示されてる」
あのアホ会長令嬢め、絶対嫌がらせをして楽しんでる。これリアルタイムで彼女に繋がっていて、聞こえているんじゃない?
「……よぅし、なら話してやる。会長令嬢はわんこのように懐く……」
ビンゴだ。全部ぶちまける前に開いた。せっかく新人の桜子に、会長の恋バナ聞かせるチャンスだったのに。
「犬がどうかしたの?」
「触れなくていい。拗ねると面倒だからさ。それより逃げるよ」
聞いていたって事は、マヤから情報届いているってことだ。
トラブルと変人ばかりだけど、面倒見の良い会社だよ。
────日はすっかり落ちて、あたりは暗闇に包まれていた。
私達が雪山の山荘を脱出する頃、某国の密偵が痺れを切らして踏み込む。
ドカン!!
お腹に響くくらいの爆発音で山荘が吹き飛ぶ。
「うん、あれだ。お約束通りなら爆発するよね」
それと自然界には掟がある事を、アホな会長令嬢とマヤ社長に叩き込む必要がある。
「逃げるよ、桜子!!」
爆発に反応し、雪崩が発生した。私達は生命からがら雪山の山荘から脱出出来たのだった。
────後日、会長が色々企んだ事を白状した。仁王立ちの桜子は恐ろしく美しく、流石の会長も大人しく反省していた。
お読みいただきありがとうございます。
短編投稿時にも書きましたが、バディものがあったのなら、作品を練り直して書きたいと思うキャラクター候補になりそうです。
実際その時に話しを書けるかどうかは別ですが。
加筆再掲載版では暖炉の魔人のために、この話しに暖炉の違和感を盛り込みました。