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第54話:最高幹部たちの「合同嘆願」と、愛の再定義

 魔王城「パンデモニウム」の平穏は、今や「停滞」に近いものへと変化していた。

 魔王ルナリスと執事アルベルトが「永劫主従誓約」を交わしてから数日。城内の機能はアルベルトの事前設定プリセット通りに完璧に稼働しているが、その「完璧さ」ゆえに、最高幹部たちは一人の執事と接する「正当な理由」を失いつつあった。


「……看過できん。バルバラ、貴殿もそう思うだろう?」

 緊急招集された会議室にて、筆頭カサンドラが手帳を震わせながら問いかけた。

「応よ。アルベルトの奴、新婚の公務と称して魔王様の寝所に籠りきりだ。俺の筋肉が……あいつの指先を求めて、夜も眠れんほどに疼いているというのに!」


 将軍バルバラの鎧が、欲求不満の魔力によって軋む。

「あはは……。僕もだよぉ。情報の整理が滞って、脳内に不潔なノイズが溜まり続けてる。……執事さんに『初期化』してもらわないと、僕、もうすぐ壊れちゃうかもしれないなぁ」

 メルヴィの瞳は虚ろで、依存という名の毒が全身に回っている。影の中ではゼノビアが、アルベルトの気配が薄れた世界に耐えかねて、実体カタチを保つことすら危うくなっていた。


「……皆様。……ならば、行動は一つです。……神に祈るよりも、彼に支配されることを選んだ私たちが、このまま指を咥えて待っている必要はありません」

 聖女セレレスが、神聖な法衣を翻して立ち上がった。彼女の碧眼には、信仰を超えた狂信的な「管理への渇望」が宿っている。


 その頃。

 魔王の私室では、アルベルトがルナリスの「新妻としての緩み」を徹底的に矯正メンテナンスしていた。

「……んんぅ、アルベルト。……もうよい、もう十分だ。……余は、骨まで貴殿の規律で溶かされてしまう……っ」

「ルナリス様。成婚したからこそ、貴女様の心身はより厳格な管理下に置かれるべきです。……一秒の弛緩も、執事としての私の名誉に関わります」


 アルベルトの指先が、ルナリスの魔力経絡を慈しむように、しかし有無を言わせぬ支配力でなぞる。

 だが、その至高の時間を、無骨な金属音と激しい魔力の衝突音が遮った。


「――そこまでだ、アルベルト! 主人の独占も、規律違反の度が過ぎるぞ!」


 扉を蹴破り(正確には空間ごと破壊し)、最高幹部五人が雪崩れ込んできた。

 彼女たちは、もはや「将軍」や「参謀」としての顔を捨て、ただ一人の男に「整えられる」ことを切望する、飢えた獲物の眼差しを向けていた。


「……おや。皆様。……主人の寝室という最もプライベートな空間に、これほどまでの不浄な殺気を持ち込むとは。……どうやら、新婚の祝祭に浮かれ、私が皆様に施した『教育』を忘れてしまったようですね」


 アルベルトは、ルナリスの肩を優雅に抱き寄せたまま、ゆっくりと立ち上がった。

 モノクルの奥で、管理者の瞳が氷点下の光を放つ。


「ルナリス様。……ご覧ください。これほどまでに乱れ、依存しきった資産(彼女たち)を放置するのは、経営責任を問われます。……今夜は、貴女様の監視の下、この五人をまとめて『再調律』し、魔王城の序列オーダーを再構築させていただきます」


 ルナリスは、嫉妬と独占欲で顔を歪めながらも、アルベルトの腕の中で「特別な場所」を確認するように微笑んだ。

「……よかろう。アルベルト、見せてやれ。……余が手に入れた『夫』が、いかに冷徹で、いかに無慈悲な管理者であるかを!」


 魔王の寝室に展開された、アルベルト独自の「広域管理結界」。

 そこは、外界の音を一切遮断し、空気の成分から魔力の振動数までが、執事の意志一つで完全に制御される絶対領域であった。

 ルナリスは玉座を思わせる長椅子に深く腰掛け、アルベルトから与えられた「正妻の特権(観覧席)」に酔いしれながら、目の前で跪く五人の女性たちを見下ろしていた。


「……さあ、皆様。これほどまでに乱れた魂を放置しては、我が魔王城の資産価値が暴落してしまいます。……順に、私の『規律』をその身に刻み直しなさい」


 アルベルトは燕尾服の上着を脱ぎ捨て、ワイシャツの袖を、その逞しい前腕が剥き出しになるまで無造作に捲り上げた。

 最初に標的となったのは、最も殺気を滾らせていた将軍バルバラであった。


「……バルバラ様。武人としての自律を忘れ、嫉妬に駆られて主人の寝室を破壊するとは。……その強すぎる自負、一度完全に『解体』する必要がありますね」

「く……っ、あ、アルベルト……。やってみろ、貴様の指先で、俺のすべてを……っ!!」

 アルベルトの大きな掌が、バルバラの首筋を掴み、そのまま強引に彼女の身体を押し倒した。

 指先から放たれるのは、高周波の魔力振動。それがバルバラの強靭な筋肉の奥底に潜む「支配されたいという本能」を直接抉り出した。

「あ、あああああッ!? 熱い……アルベルト、魔力が……俺のナカを……掻き回して……ッ!!」

 最強の将軍が、主君の前で一人の震える乙女へと堕とされる。ルナリスはその様子を、優越感に満ちた瞳で眺めていた。


「次はメルヴィ様、ゼノビア様。……思考の混濁と影の歪み。まとめて整えましょう」

 アルベルトは片手でメルヴィの脳波をジャックし、もう一方の手で影の中に沈もうとしていたゼノビアを「光の鎖」で繋ぎ止めた。

「あはは……。アルベルトさんに……脳を書き換えられる感覚……。これがないと、僕はもう……駄目なんだぁ……」

「……あたいも。……光の下で、アンタに暴かれるの、嫌いじゃないよ……っ」

 知性と隠密の象徴である二人が、同時に絶頂にも似た安らぎの深淵へと叩き落とされる。


 そして、規律の化身であるカサンドラと、神の代行者であったセレレス。

「カサンドラ閣下。貴女の規律は、私がいなければ維持できぬほどに脆くなった。……そしてセレレス。貴女の信仰は、私の指先という名の偶像に、すでに塗り替えられている」

 アルベルトは二人の「魔力の核」を同時に、かつ正確無比な角度で突いた。

「ひ……、あぁ…………ッ!!」

「……神様、ごめんなさい……。私、この方の……この方のしもべとして……飼われたい……っ!」


 五人の最高幹部が、一つの空間で、同時にアルベルトの「管理」という名の慈悲に溺れていく。

 ルナリスは、その光景に激しい嫉妬を覚えながらも、彼女たちのすべてを支配し、同時に自分一人を「唯一の主人(妻)」として特別扱いするアルベルトの圧倒的な手腕に、抗いがたい誇りを感じていた。


「……満足か、者共。……これこそが、余のアルベルトだ。……貴殿らの代わりはいても、この男の代わりは、この世に一人として存在せぬのだ」

 ルナリスが立ち上がり、すべてのメンテナンスを終えて静かに立ち上がったアルベルトの背中に、背後から抱きついた。


 アルベルトは、汗一つかかぬ涼しげな顔で、モノクルを光らせた。

「……さて。皆様の『乱れ』はすべて一掃クリアされました。……明日からは、再び至高の職務に励みなさい。……もし、また不潔な嫉妬を募らせるようであれば……今度は、より長く、より過酷な『個別教育』を施して差し上げますよ」


 最高幹部たちは、荒い呼吸を整えながら、アルベルトの冷徹な言葉に、魂の底からの悦びを込めて跪いた。

「「「「「……御意に、ございます……っ!!」」」」」


 魔王城に、再び完璧な、そして歪なまでの「平和」が戻った。

 夫婦となった主従と、彼らに魂を預けた幹部たち。

 彼女たちの物語は、この終わらない調律のループの中で、より深く、より甘美に、永遠に繰り返されていくのである。


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