最古のファミレス
今回の話と関係ないですが、ロイヤルホストは美味しいですよね。
お値段が高いだけあるというか、デパートに入ってる下手な洋食店よりよっぽど美味しいです。
初空に誘われる食事。
どこぞの料亭に連れてかれるには日が高いが、天乙はまだ子供。悠太も未成年であることも考えれば、日が落ちる前に入るのが合理的かも知れない。
「好きなの頼んで良いわよ、初空家の懐からだから。メインにドリンクバーはもちろん、デザートも好きなの選びなさい」
そう考えていたが、予想は大外れ。
悠太達が入った店は、現存する最古のファミレスだった。
「好きに頼ませてもらうが、なんでファミレスにしたんだ?」
「ハンバーグが食べたかったからよ。実家だとジャンキーなのが食べれないし、お小遣いじゃここ高くてこれないから。閣下を出汁に使わせてもらったわ」
初空家は、いわゆる金持ちに分類される。
魔導師自体が高所得であるが、一族が蓄えてきた財産が多いのだ。
だが、一族のカネと個人のカネは別物だ。未来視といえど子供に大金を渡すのは教育によくと、個人の稼ぎにも制限をかけるのは自然なこと。
高くてこれないのも、違和感がない。
今でこそ学生でも入れる価格帯というイメージがあるが、古いコンセプトを維持するこの店は一人前二〇〇〇円など軽く越えるし、メニューによっては単品で四〇〇〇円近いメニューも存在する。
だから違和感を覚えたのは、ジャンキーの部分だ。
「この店をジャンクフードに分類するのは、どうかと思うぞ。ジャンクなハンバーグが食べたいなら」
「分かってないわね、閣下は。ビーフ一〇〇%のパティなんてのはね、肉と油の味しかしないじゃないの。そこにチーズとケチャップ加えたからって、薄っぺらいだけだし、肉の味が欲しいなら素直に焼肉とかステーキ食べれば良いのよ。食べたいのは、タマネギとかパン粉とか色々混ぜたやつよ」
「合挽系が好きなら、ここのはそうだな。普通の方か?」
「ええ、黒豚と黒毛和牛の合挽も美味しかったけど、上品すぎるわね。あれならウチでも出してくれるから、わざわざ頼まないわ」
初空家の未来視だけあって、高度な食育がされているのだろう。
剣聖であっても、悠太は高校生。その基準で見れば、充分にご褒美になるレベルで、なおかつ普段行けない高価格帯のファミレスを選んだのは、バランス感覚がある。
実際に、行く店の選択肢に入らない。
来ない店のメニュー表なのに、味が想像できたり、馴染みあるメニューがならぶのはさすがファミレス、といった具合だろう。
(……洋食、和食、ステーキ、アジアンカレー、本当になんでもあるな)
値段はどれも高めである。
カレーも単品、税込みで一五〇〇円弱。
だが、驚くのはそこではない。
(料理単品より高いセット……いや、妥当か。単品のスープも含まれてる)
むしろ、お得なのではと思えてしまうし、写真だけでワクワクする。
遠慮するのも違うので、セットを前提にメインを選び始める。
「俺は決まったがそっちはどうだ?」
「あー、ちょっと待って。ポテトフライの他に何頼むか考えてて――閣下はさ、エビとキャベツ、どっちがいい? というか、四分の一くらいしか食べれないから、残ったの食べてくれる?」
「食い切れないなら頼むな。……まあ、ジャンキーとか言ってたし、ポテトフライだけなら手伝ってもいい」
「……ケチくさいわね。でも、いいわ。デザートのパフェの分は開けないといけないから」
頭をひっぱたいてやろうかと、口と手が動きかけた。
ファミレスの中ではマナー違反だし、そもそも他家の人間なので自重するが。
「パフェ……パフェか。中々見ないな」
一昔前は、ファミレスでもパフェを置いている店は多かった。
現在もデザート欄は消えていないし、華やかなデザートも残っているが、パフェでなくサンデーが置かれている。時代の流れに取り残されたから、もしくは抗うように残るパフェの言葉に、手が動く。
「閣下も食べるなら頼んで良いわよ。どうせウチから出るし、ちょうどバレンタインフェアの時期だからチョコ尽くしよ」
「フルーツ系とケーキ系、定番のチョコパフェでよく二種類出せるな。どちらも捨てがたいが――どうだろう、初空の。半分こで手を打たないか?」
「閣下にしては良い提案じゃない。もちろんいいわよ」
カロリー過多であるが、成長期かつ剣士で男子高校生だ。
量が多い程度なら食べきれるし、他人の奢りなら楽しまなければ損。綿密に計算された栄養管理は崩れるも、一回や二回、予定から外れても問題ないことを知っている。
剣聖であれど人間だ。
空を斬るために人生を捧げているし、世捨て人の仙人になっても剣を振り続けられる確信もあるが、楽しい時間を否定しないし、楽しいと思える感性も死んでいない。
なにより、空に届かせるために、余分なことをすると決めているの。
まずは食事からというのは、理にかなっていた。
「オムライスって、子供っぽいもの頼んだわね」
「料理をしないお前には分からないかも知れないが、オムライスは作るのが面倒なんだ。だからこういう機会でもないと食べない」
「バカにしないでよ。オムライスが大変ってのは分かるわ。オムレツを上にのっけて、ナイフ入れたらパカーッって開くやつはプロの仕事だもの。でも、薄焼き卵に包むのは出来るでしょう。ウチの料理人もそっちなら出してくれるし」
オムレツを開くのは、タンポポ式と呼ばれるタイプのオムライスだ。
まずオムレツの時点で難易度が高い。開いてトロトロなど、それ単品でメニューに載せるレベルのオムレツだ。それだけでも大変なのに、タンポポ式はナイフを入れれば開くように固さを調整しなければいけない。
プロでも練習必死な難易度を家庭料理に求めるのが酷なことは、天乙にも理解できる。
「やっぱり分かってない。いいか。ケチャップライスってのは重いんだ。それを卵に乗っけて破らないように動かす時点で面倒くさい。重いから動かないし、それをくるんと巻くなんて、正直ヤダ。ただのオムレツでも面倒なのに」
簡単オムライスのレシピに、スクランブルエッグを載せるだけ、というのがある。
アレは手抜きだからやるのではない。ケチャップライスを卵で上手く包めないから、載せるだけのレシピがあるのだ。
「重い、重い、って言うけど、そんなに重さが重要なの?」
「当たり前だ。刻んだベーコンとかチーズなら、ヘラでも動かせる。でも重いとヘラで動かせないから、フランパンの縁を利用して、ちょっとずつちょっとずつ、フライパンを振った衝撃を利用しないと動かないんだ。ライスの量を間違えるとそもそも包むのが不可能だし、時間かけると卵に火が入りすぎるしで、本当に面倒くさい」
難しさの証明として、メニューに載せない店が多いことが上げられる。
ファミレスは子供連れの家族がターゲット。子供に人気のオムライスがあれば来店理由になるが、載せている店がどれだけあるだろう? 載せない理由はいくつもあるが、やはり調理工程が複雑で、属人的な部分が多くなってしまう点にある。
どの店にもポテトフライや唐揚げがあるのは、オムライスとは逆に簡単だから。
過程では揚げる料理は大変だが、飲食店では常に熱した油を用意する。あとは冷凍のタネを仕入れておけば、それを油に入れて一定時間待つだけ。
属人的要素の少ないレシピほど、提供する店が増えるのだ。
「……もしかして、ハンバーグも同じだったりする? ウチだと、ステーキはよく出てくるけど、ハンバーグはあんまり出なくて」
「タネ作りと成形が面倒くさいな。そこさえ突破すれば焼くだけだ。興味があるなら、ハンバーグ食べたいから作り方教えて、と言えば一緒にやってくれるんじゃないか? 料理人を雇ってるなら仕事だから、事前に予約する必要はあるだろうが」
「そうしてみるわ」
悠太は省いたが、ソース作りも面倒なポイントである。
デミグラスソースのような焼いたときの油を使うソースは、特に大変だ。
だが、初空家の食卓を知らないので、あえて省くのだった。
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次回は、10月21日(水)1:00 を予定しております。
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