サプライズ感
「ところで、魔導三種の方はどうです? フーカ先輩達を見てると忘れますけど、最難関の一つじゃないですか。……もし、邪魔してるって言うなら、来るの控えますけど……」
「邪魔になんてなってないよ。どれだけ準備しても不安のまんまって感じだけど、息抜きは必要でしょ。こうして部活でまったりする時間、とっても大切だから。誰かのためにお茶を淹れるのって、ここ以外じゃあんまり出来ないし」
「難易度は高いですね、お茶淹れるって。真面目に考えると、部室で淹れるのもアウトな気がしますけど……――ま、ライカ先輩の個室みたいなもんですから、ノーカンノーカン」
「個室というか、隔離施設かな……」
ヴォルケーノが暴走する危険が消えることはない。
だが、無視してもいいレベルにまで抑えることはできる。大卒クラスの知識と実力が必要な魔導三種に挑むのも、それ無視していいレベルに到達していると証明するため。
「ライカ先輩には悪いですけど、学校に個室があるってロマンありますよね。人間関係が面倒くさくなったら逃げ込める場所があるって言うか、外面気にしないで良い場所って言うか……そこしかないってのは、別問題なんですけど」
「隣の芝は青く見えるってことかな。私には、普通の学校生活が羨ましいけど……まあ、好き勝手に物置いてるから、何も言えないんだけど」
棚に並ぶのは、何種類もの茶器や茶葉。
それだけならまだしも、小型の冷蔵庫や冷凍庫、お菓子までもが常備されている。
物自体はライカの自腹であるし、お菓子類はライカ以外の部員が費用を出しているが、どれ一つとして学校に持ち込んで良いものではない。
ライカの存在がアンタッチャブルであるのを良いことに、好き勝手やった結果、と取れなくもない状況にあるのが、今の研究室だ。
「そういえば、このティーセットとか冷蔵庫とか、いつ持って帰るんですか? 持ち帰れないって言うなら、定価で買い取りますけど」
「少しずつ持ち帰るつもりだけど、欲しいのあるならあげるよ? マイセンとかの舶来物は困るけど、ノリタケなんかの国内メーカーなら、一つか二つくらいなら」
「少しずつって――もしかして、一人で持って帰ろうとしてます?」
「もちろん、そうだけど……」
成美は箸を机の上に落とした。
プラスチックの鈍い音と共にコロコロと転がり、床に落ちる。
いそいそと身体を折り曲げて箸を回収し、ティッシュで汚れを拭き取ってから、揃えて弁当箱と縁に立てかける。
「……あのですね、ライカ先輩。ちゃんと手伝ってって言ってください。ほぼ部室の備品みたいなものですし、ぶっちゃけお菓子代だけじゃ返しきれないくらい、もらいっぱなしなんですよ、あたし達。恩と借りを返す機会くらい与えてください」
「え、でも……変える方向も、駅の場所も全然違うし……」
「なら、後輩を家に呼んでホームパーティーでも開きましょう。何かイベントにしちゃえば、フーカ先輩だって巻き込めますよ。……パイセンは一応男なんで、どうするかは任せますけど、ともかく片付けは協力させてください!」
茶葉の値段はピンキリだ。
スーパーに並ぶ茶葉でも、一〇〇グラム数百円台や、千数百円台が同時に並ぶ。有名な紅茶であれば一〇〇グラム四〇〇〇円台などざらにあるし、特に高価な茶葉なら一万円以上も珍しくない。
ライカは美味しいからと、数千円台の茶葉を平気で振る舞うのだ。
皆には美味しい物を飲んで欲しいという気遣いからだが、振る舞われる方は当然、恐縮する。せめてお菓子くらいは自分たちでと説得し、補充するようになったが、それを理由に高い茶葉を出す頻度が上がったのだ。
成美が恩を返す機会を欲するのも無理はない。
「ホームパーティーって言われても…………あ。……じゃあ、提案なんだけど」
部室での日常がパーティーみたいな物、と言っても聞かないことは分かる。
うーん、うーん、と悩んだ末に、妙案が思い浮かんだ。
「皆でお菓子作りなんて、どう? バレンタインデー近いし、部室で食べれる物を作れば一石二鳥じゃないかな」
「おお、いいですね! 皆で作るとサプライズ感が薄れますけど……パイセンを抜かして女子会にすれば、驚き役は確保できますね。あの人にチョコ渡すのは癪に障りますけど、フーカ先輩を除け者にしたり、パイセンと一緒に作るよりはマシか……――ええ、やりましょう!」
成美に指摘され、サプライズ面が弱くなることに気付く。
驚かして、喜ぶ顔が見たいという欲は確かにあったが、皆と一緒にお菓子を作る時間の方が楽しそうだ。それに、悠太を驚かせることが出来るなら充分、と考えて少しだけ引っかかりを覚える。
(なんで私、悠太くんに驚いて欲しいのかな……?)
ささくれのように小さい、些細な疑問。
深掘りするほどの意義を感じない、泡沫のような段差。
続く成美の提案で簡単に弾けてしまう。
「フーカ先輩は忙しいですから、話は後日するとして。今日の放課後からさっそく作戦会議です。優先する物を持ち帰って、ライカ先輩の家で作戦会議しましょう!」
「え、会議。まあ、今日も別に大丈夫だけど……何を会議するの?」
「決まってるでしょう、具体的に何を作るのか、です。ライカ先輩家の設備とか道具の確認も必要ですし、買い出しリストも作らないと」
「そか、重要だね」
自分の中でレシピが決まっているので、抜けていた。
皆で作るなら予算も決め直す必要があり、作れる物も変わってくる。
「もしかして、作りたいお菓子がありました?」
「挑戦しようかなーってのは、いくつか。でも、難しいのがダメなら、チョコチップ入りのスコーンとか、比較的簡単なレシピもあるよ」
「いえいえ、挑戦しましょう。先輩が作りたいモノを作るのが一番に決まってます。細かい作業は正直苦手ですが、お手伝いに徹すればなんとか」
余計な気遣いだったかと反省。
でも、手伝いだけでは面白くない、と反発心が沸き起こる。
「お手伝いはしてもらうけど、それだけじゃダーメ。皆で食べる用のは皆で作って、その上で、別のに挑戦しない? そっちも手伝いっこしながらやれば、難しいのだって作れるよ」
「ぬぐぐ、そう言われると、楽しそうで困りますね。でも、難しいの作ってあげる相手がいないんですよね。下手なのに渡すとほら、勘違いされますし」
「勘違い? ああ、バレンタインデーって、そうだったね」
創作のなから別だが、現実では友チョコがメインになっている。
渡すとしても、友チョコや義理チョコの延長線上と捉えられるのが常だが、渡すチョコの出来が一段か二段上ならどうだろう。明らかに手間のかかった手作りなら、どうだろう。
費やした時間などを想像し、考慮し、本命だと思われてしまう。
現実ではありえないことが起こってしまえば、創作で定番の意味を見出してしまう。
「じゃあ、やめる? 勘違いされる方が大変だし」
「……いえ、……いえ、困りますけど、楽しそうなんでやめるのは、ちょっと…………癪に障りますが、パイセンに処分をお願いしましょう。こうした部分の察しはいい人ですし、余計な勘違いもしないんで、ちょうど良いです」
「言わんとすることは分かるけど、処分って言い方はちょっと可愛そうかな。ちゃんと説明してから渡そう、ね」
「えー、考えすぎですって、絶対。……まあ、世話にはなってるんで、ちゃんと渡しますか。恨み言の方が多いですが」
恩と恨みは、主に魔導戦技に関して。
地獄の様相になったのは悠太が原因であるが、だからこそ魔導の腕が上がった。
負けるのが悔しいから全身全霊で対策を立てるし、悠太が容赦ないダメ出しをするから磨かれた部分も大きい。
魔導師としての経験値が段違いに得られたのは、これ以上なく感謝している。
経験値に比例して苦労と難易度が上がっていく点も、これ以上なく怨んでいるのだが。
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次回は、10月14日(水)1:00 を予定しております。
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