↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
257/265

…………先延ばし

 天魔付属の三年生は、一月末頃から自由登校となる。

 この時期になれば必要な授業が終わるのと、大学合格者を一人でも増やしたいことなどが噛み合ってのことだ。

 部活動に関しても、夏の大会を最後に三年生は引退となる。

 どの高校でも見られる日常風景は、牧野ライカには当てはまらない。


「アールグレイは、三種類残ってるな。カップとポットは、どれがいいかな? 特別感を出すならウェッジウッドやマイセンだけど、ノリタケの方が好きだからな。ピンクのバラ柄はあんまり出してないし、雰囲気に合うかも」


 別館の研究室に隔離されているライカは、三年間のほとんどを一人で過ごしている。

 クラスという概念から切り離され、基本全員参加の修学旅行も、ヴォルケーノの制御に不安があることなどから、一年遅れで参加となった。

 同級生の動向などを気にしようという発想もなければ、今更なのでしない。

 部活動もそうだ。魔導戦技自体がライカの技能向上に役立ち、ヴォルケーノの制御にも結びつくことから、引退などせず今も参加している。研究室が実質の部活になっている点も大きくはあるが、この点も同級生とは違う。


「問題は、放課後までどう保管するかだよね。要冷蔵は論外として――クーラーボックスに氷を詰め込めば、要冷蔵でもいけるかも? 小さめなら家にもあったし、帰るときにカップとポットを詰め込めば片付けにもなる。うん、一石二鳥……」


 思い浮かべていたバレンタインの楽しい光景が、急に色褪せる。

 一年前と比べて増えたカップやポット、茶葉の容器が片付いてしまった棚を想像すると、研究室にあと二ヶ月も居られないのだと自覚してしまう。


「…………先延ばしにしてたけど、少しずつ回収しないとな」


 カップとポットの素材である陶磁器は、固いが割れやすい。

 おカネを出せば買い直せるものばかりであるが、思い入れがあるので割りたくないし、傷付けたくもない。壊さないための包装をして、持ち運べるよう小分けにしなから家まで持ち帰る必要がある。


「赤い人の件で、香織ちゃんからおカネもらったから、業者に頼むことはできるけど」


 赤い人とは、世界の敵である赤い女のことだ。

 悠太の剣によって斬られた異界は、完全消失が確認され、その手助けをしたとしてライカにも少なくない報酬が入った。給料三ヶ月分の指輪が買えるくらいの高額だったが、悠太はもっと多いと聞いて、違う世界にクラクラとした。

 受験勉強と資格勉強に忙しい時期なので、報酬には手を付けていない。

 全部終わったら何に使うかを考えるのが、ここ最近の楽しみである。


「……無断で置いてるから、頼みづらいんだよな……絶対に怒られるし……」


 高い陶磁器を大量に置いたことではない。

 バレるような行動をしたことを、怒られるのだ。


「資格勉強の合間に、持ち帰り計画を作るか」


 仕事が増えたとゲンナリしながら、一番安いアールグレイを取る。

 ガラスのポットにお湯を入れ、あまりをカップとポットに注ぎ入れる。落ち込んでいたり、やる気が下がっても、紅茶の基本は外さない。

 一〇〇度近い高温で一気に抽出する紅茶におって、冷たい容器は天敵だ。

 冷え切った身体を温めるのにも向かないため、温度管理には気を遣う。


「紅茶、よし。タイマー、よし。テキスト、よし」


 タイマーはスマホの機能を活用。

 二五分と五分、二つの設定を用意し交互に押す。

 これはポモドーロ・テクニックという、時間管理術の一つ。

 二五分とは人間の集中力が持続する時間であり、それが切れる前に休憩を五分取る。これを四回繰り返した後に、三〇分ほどの長い休憩をする。受験テクニックの一つとして知られており、ライカは学校にいる間、この手法をずっと活用している。

 お昼の時間や、部活動の時間は別であるが、授業時間中はずっと、外に出ることなく研究室にこもっている。これは受験期間に突入する前からだ。保健室登校の亜種みたいなもので、自習で単位を取っている。


「ん、んんー、お昼休みか」


 凝った肩を回しながら、紅茶の準備を始める。

 ポモドーロによるタイムテーブルも、お昼前に区切れるように調整済み。

 紅茶の準備が終わる頃、予想通りの時間にドアが元気よく開かれる。


「ライカせんぱーい! ご飯にしましょう!!」


 一年生の、紀ノ咲成美。

 ライカが登校する日は毎日、研究室で昼食を取るので、他の友人と一緒でなくて良いのかな? と少しだけ心配になる。


「お茶淹れたから、少し待ってね」


 昼食時に出す飲み物は、常に変えている。

 紅茶の銘柄という意味ではなく、緑茶やコーヒー、ハーブティーなど、飽きがこないように。個人の感覚だけだと好みが出てしまうので、密かに作ったローテーション表に従って。


「この香りは、セイロン……いえ、ニルギリですかね。それも高い方。安い方出してもいいんですよ」


「良いの。今日は高い方が飲みたくなったから」


 香りだけでよく判別できるな、と感心する。

 同じ銘柄でも、高いものと安いものでは明確に差が出る。渋みなど味に関連する部分よりも、香りの部分で。安いものは砕けてしまった質の悪い部位が混ざることもあるが、ブランドモノの高い紅茶は、そうしたクズを入れない。

 だから高くなるし、香りも良くなるのだ。


「最近、魔導戦技に参加してないけど、調子はどう? 地獄みたいな環境、続いてる?」


 人間関係の話題を出すのが一般的だが、共通の友人はいない。

 必然的に、部活の話になる。受験勉強を優先して一月から参加していないライカであるが、受験の方が一区切りついたので、聞いてみることにした。


「……ヒドくなってます。パイセンがいるからってのが一番の理由ですけど、六割が一種か奥伝だったときには……もう……」


 うわぁ、と引きつった声が漏れる。

 魔導戦技だと被害を気にしなくて良いから、現実では出来ない破壊力のある術式や、無差別な呪詛などが平気で飛び交う。

 奥伝達も殺し技や邪道なハメ技など嬉々として解禁する。

 全員が平等な条件で、よーいドンで始まる競技なら技量や勝負勘などが大きく働くが、一〇〇人が入り乱れてのバトルロワイヤルだ。中盤まで生き残れるかは、実力よりも運の方が大きくなってしまう。


「……そんな地獄でも悠太くん、いつも通り総合一位なの?」


「もちろんです。初っぱに刈り取るって行動変わんないのに、いっつも最後まで残って、徒党組まれてお陀仏。事情知らない初見さんには、レイドボス扱いされてますよ。呪力なしであそこまで出来るんですから、人間ってスゴいですよね」


 赤い破滅事件では、己の業を受け入れ一段上の位階に至ったが、本人に変化はない。

 魔導戦技でも変わらずのようで、自分との間にある隔たりに辟易とする。


「魔導一種も奥伝も数少ないのに、よく集まるね。剣聖と戦える機会が少ないってのも大きいけど……心折れた人も多そうだな」


 妖刀、スクラップ、朱い妖精、自我のない奥伝、赤い破滅。

 この一年で遭遇した敵対者達を思えば、自分はよく折れてないなと感心する。

 ヴォルケーノという特大の爆弾と共生していることが、一番の理由であるが。


「実際、多いと思いますね。意見書には、さっさと階級別を導入しろって書き続けてますけど……それするとパイセンに一泡吹かせるのが遅くなるんですよね。無差別級も……や、純度下がるし、あたしの方が上手くなるのが先か」


「無差別級は今の状況だよ。でも、階級別にするには、競技人口増えないといけないよね。悠太くんのおかげで参加できてるけど、もっと安くしないと参加できないし」


 入会費、設備費、整備費、その他諸々を含めて一人あたり年一〇〇万円。

 それが魔導戦技の参加にかかる費用だ。


「そんだけ払える魔導師の心折るって相当ですから、導入しないとマズいですよ、絶対」


 確かに、と頷く。

 神造兵器や古種、世界の破滅などという特級の厄ネタがうようよいる世界だ。

 対処できる魔導師はいくらいても足りない現状で、心を折るだけの競技など百害あって一利なし。来年以降に変わるのだろうかと、少し気になるライカだった。


お読みいただきありがとうございます。

次回は、10月10日(土)1:00 を予定しております。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。