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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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三度目で対処できる

 ほんの一瞬、ノイズが走る。

 視界か、思考か、判別が着かないほど短く、世界が乱れた。


(何かの干渉……?)


 空を見上げると、赤い色が降っていた。

 雪のように淡い赤色に指で触れる。指先がピリリと痺れるが、やはり一瞬。

 この感覚に、悠太は覚えがあった。


(呪詛、やけに強力だな。色といい、これも赤い破滅の仕業か)


 空に変化はないが、降り続けば赤く染まるだろうか。

 範囲が広がれば、赤い空になるだろうか。

 初空の未来視、天乙が観測した未来に近付いているのだろうか。

 疑問を突き詰める前に、悠太は絶招を纏う。


(祓魔剣、旋空。呪詛は基本効かないが、対策しないのは別の話だな)


 呪詛の基本は共振性と同化性。

 精神への影響が強いが、悠太の理は色即是空。

 万物万象に意味などなく、故に平等に無価値であるという境地。呪詛によって新しい価値観を流されようとも、現状を変えるほどの意義を見いだせなければ染まることはない。

 ただ、まったくの無意味でもない。

 街頭演説を真面目に聞く気がなくとも、大声で叫ばれればうるさいと感じるように。

 ノイズという形で影響がある以上、対策しないわけがない。


「……問答無用、か」


 東京タワー内部に足を踏み入れると同時に、左右から太刀が振り下ろされた。

 二の太刀など考えない、一刀必殺の剛剣。鋼鉄だろうが魔導障壁だろうが撫で切りにする必殺も、当たらなければ意味はない。

 床材を斬り裂いた太刀を捨てるよりも早く、悠太は剣士二人を気絶させた。


「数によるゴリ押しは俺に対する有効打だが、中伝一〇人ばかりでは足りないぞ」


 特筆すべき点などなく、剣士を制圧した。

 触れるだけで気絶させられる祓魔剣がある以上、半端な数を揃えても意味はない。精神と体力をすり潰せるほどの物量と飽和攻撃ができなければ、悠太を止めることは出来ないし、止められないから剣聖なのだ。


「展望エリアに行けばいいんだったな。……エレベーターでいいか」


 乗っていけないなら、乗るなと指示があったはずだと論理武装する。

 密室で襲撃されるデメリットは確かにあるが、階段を使用しても変わらない。むしろ、体力を温存できるのだから、エレベーターの方がメリットが多いとさえ言える。

 稼働中に停止させられたり、一〇〇メートルか二〇〇メートルの地点でカゴごと落とされたら即死する危険性は確かにある。無視できないほどに高いが、実行される危険性があるなら禁止したはずだ、と再度論理武装する。

 その程度には、天乃宮の星詠みを信じていた。


(襲撃があるとすれば、出てすぐ。効果的にするなら、包囲状態)


 エレベータは、目的階に到着すれば自動で開く。

 悠太の意思は介在しないので、タイミングを合わせれば簡単だ。それこそ、一〇人前後を並べて小銃を斉射すれば、魔導の使えない悠太など簡単に制圧できる。

 だからこそ死角になる位置に潜んだのだが、何もない。

 人員は配置してるが、三人――否、三体だけだ。


「……勇士だの何だのと言っていたし、正々堂々でこいと?」


 朱い妖精が連れていた、神造兵器三体。

 歯車を展開し、近接用の武装まで用意し、半包囲までしている。

 文化祭でのリベンジを果たす気なのかは分からないが、悠太は失望したように嘆息を吐き出した。


「同型のスクラップを含めれば、すでに三回斬っている。五体以上揃えるならともかく、その数では意味がないぞ」


 神造兵器達は動かない。

 悠太に先手を譲るから――ではなく、動けないのだ。

 神代から積み重ねた戦闘経験の数々が、先に動けば負けると告げる。唯一残された勝機は、悠太の動きに合わせてのカウンター。エレベータの開閉と同時に攻撃しなかったのも、攻撃した時点で詰みになったから。


「絶招――空虚」


 敗因は、悠太の言うように数を揃えられなかったことだろう。

 意識の盲点に潜り込む空虚に反応できず、一体が。

 意識から消えた悠太を探す間に、一体が。

 最後の一体は、正面から切り結んで。わざわざ、文化祭で悠太が斬り捨てた一体を残したのも、万が一の逆転を許さないため。

 術理が同じなら三度目で対処できる。四度目は通じない。

 そう豪語するだけあり、基本設計、根底にある運用思想が同じ神造兵器では、数を揃える以外に有効打が存在しなかった。


「バグかウイルスかは知らないが、文化祭の時よりチグハグだぞ。こう、戦闘なんて考えないプログラムでも組み込まれたような?」


 斬る前から変質しているのは気付いていた。

 赤い破滅の拠点にいるのだから、当然の思考だ。正面から切り結ぶしかなった三体目を選んだのも、変質による万が一を警戒したからなのだが、拍子抜けも甚だしい。

 疑問と落胆、戦場で抱くべきでない感情を抱くのも仕方なく、その空白を突く者がいるのも当然のことだった。


「……っっっ?」


「剣聖だぞ。同じことを三度もされたら、対処できるのは当然だ。まして、空虚と似た原理ならばなおさらに」


 返す刀で気絶させる。

 奥伝自体は意識の盲点にいるが、手放したナイフは認識できる。

 手に取って刃を眺めれば、じっとりと液体が塗られていた。


「呪毒でなく普通の毒……祓魔剛剣で防げてなければ危なかった。醜態を晒しても慣らしておいて正解だったな」


 不可知の奥伝。彼の者の技は、夏休みに二度受けている。

 使われたのが呪毒だったため事なきを得たが、二度受けても知覚できなかったことに変わりない。鬼面と鏑木響也に同行していたので、近畿支部に所属していた可能性は高く、支部全体が呪詛によって汚染されていたので、警戒はしていた。悠太の想定できる範囲では、最も対処が困難で、敗因になる確率が最も高い相手。

 事実、祓魔剛剣を纏っていなければ、今の一刺しで終わっていた。

 隙を突く、盲点に入る、この二点において、悠太では足下にも入れない達人であった。


(…………残る気配は、あそこか)


 展望フロアを半周した地点。

 エレベーターから最も遠い場所に、その女はいた。


「やはり、来てしまいましたか。ワタクシ達では止められないのは分かっていましたが、いざ証明されると困惑しますね」


 赤い――としか形容できない女だ。

 赤みがかった黒髪と黒目。

 頬や唇も常人よりも赤みが強く、長袖から除く指や手も赤みが強い。

 服や帽子も赤を基調としており、カバンまでもが赤い。

 なにより、悠太には見覚えがあった。


「文化祭で見かけた覚えがあります」


「そうですね。当時は、お若い奥伝の方かと思いましたが、まさか剣聖とは……他にも天乃宮家の方など。……おそらく、あの日から決まっていたのでしょう。今日という日に、今という時間に、こうなることが」


 呪力を直接見ることの出来ない悠太でさえ、赤い女から漏れ出る呪力を視認できる。

 不吉なほどに赤い霧。外を見れば、赤い雪が全域に降り注いでいる。祓魔剣を纏わなければ影響を感じるほどの濃い呪詛が、視界いっぱいに撒き散らされている。


「斬るのでしょう、ワタクシを。覚悟は出来ています」


「……ただ殺してはいけない、か。詳細を聞かずに正解だな。他の情報が少しでもあれば、あなただけを斬って満足した」


「斬らないのですが、ワタクシを?」


「最終的には斬るが、そのために理解する必要がある」


 剣士としては未熟。初伝どころか、エクササイズやダイエットレベルの練度。

 魔導師としては論外。溢れ出る赤い呪詛以外に特筆すべき点はない。

 それでも赤い女は脅威だ。悠太が斬るべき、斬らねばならない世界の敵だ。


「あなたの理を、理解する必要がある」


「まあ……では、招待しなければいけませんね。ワタクシ達の世界へと」


 悠太の頬に、浅い爪痕が刻まれる。

 妖刀《綿霧》を通して、赤い呪詛が流し込まれる。

 かくして、悠太は赤い女の異界へと招かれた。

 意識を失った肉体を回収すべく、神造兵器が展望エリアに突入するが、妨害もなく成功するので割愛する。


お読みいただきありがとうございます。

次回は、8月22日(土)1:00 を予定しております。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。

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