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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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観光地として有名

 休日であっても人通りはある。

 曜日に関係なく仕事をする人はいるし、休日だからこそ忙しくなる業種もある。

 仕事だけでなく、休日だからこそ普段と違う遊びをしようと外に出る人もいるだろうが、さすがに朝早い時間なので少ない。

 営業時間外の施設ならなおさらだ。


「東京タワー……観光地として有名だが、わざわざ観光に来ない場所だな」


「ほら、さっさと降りて。着いたから」


 降りてすぐ、東京タワーを見上げる。

 三三三メートルの電波塔だ。地上からてっぺんを見上げようとすれば、首と腰が痛くなるほど曲げなければいけないの。柔軟性やバランス感覚、身体を支える筋肉など必要となる要素は揃っているが、ほどほどで首を戻した。


「思ったより、赤いな」


「ええ、赤いわね。でも感想がそれ? 他にあるでしょう。営業時間外に連れてきた理由とかその他諸々が」


「諸々というのは、見るからに厄ネタなことか?」


 呪力を感知する術を持たずとも、異変は随所に現れる。

 営業時間前という忙しい時間なのに、施設内で準備の動きが見られないなど。

 他にも数え切れないほど、通常ではあり得ない事態が起こっている。


「分かってるならツッコミなさいよ。もしくは質問しなさい」


「わざわざ連れてきたってことは、仕事だろう? そっちから詳細を説明するのが筋だろ」


 別に仲が悪いわけでも、思想的対立があるわけではない。

 契約に関する話で、どのように筋を通すかの話というだけの話。


「説明でしたら、僕からします」


 香織ではなく、真門が前に出た。


「無理に出てこないで良いのよ? 真門くんの仕事は終わってるんだから、あとは私に任せてゆっくりしてれば」


「今のうちにゆっくりするべきなのは、まだ仕事がある香織ちゃんの方でしょ。それに、ここで僕が出ないのはさすがに不義理が過ぎるよ」


「……分かったわ。真門くんの好きにすれば良いわ」


 香織はボックスカーの荷台を開けると、作業を始める。

 コーヒー豆をミルで砕く音を響かせるのは、とても気になる。だが、今は香織よりも真門の方が重要だ。


「まず、強引に連れ出してしまい申し訳ございません。事前にお伝えすべきことは多かったのですが、確実性や機密性を保つためにお伝えすることが出来ませんでした」


「そこはまあ、天乃宮家だからな。星詠みと言っても、ピンポイントに何が起こるかを断言は出来ないんだろう?」


「基本はそうですが……今日に限っては、年末の時点で決定していました。現時点までになりますが、誤差もほぼありません」


 予想以上の予測精度に驚きを見せた。

 未来予測は、予測する期間が長ければ長いほど精度を落とす。

 それは予測時には想定できなかった事態が増えていくからであり、年末から数えて半月先ともなれば数日ズレてもおかしくない。


「……誤差がないというが、数時間単位の話か?」


「数秒単位の話、です」


 それは予測でなく、未来確定ではないか?

 指摘しても意味がないのでしないが、そう言いたくなる。

 同時に、数秒単位での調整が可能なほどリソースを割いていることを意味する。


「…………天乃宮家の本気度がよく分かったが、それの説明をするのが分家の君で良いのか? 本家の人間がするべきではないか?」


 真門が何も知らないとは言わないが、本家と分家では情報量が違う。

 連れてこられた時点で仕事を受けるつもりであるし、情報が足りなくても構わないと思っている。だが、誠意があるかないか、自分をどう見積もっているかが変わるので、失望はさせないで欲しかった。


「ええ、香織ちゃんよりも、僕の方が適切です」


 改めて自己紹介を、と背筋をピンと伸ばす。


「天乃宮家現当主、隈護真門です。悠太先輩……いえ、悠太さんにはこれまで、色々と手をお貸しいただいたにも関わらず、お伝えできずに申し訳ありません」


 驚き、という言葉では表現できないほど、目を見開く。

 香織の態度などから、何かあるとは感じていた。ただ、星詠みに関する何かであったり、文化祭での行動であったりが、政治的な理由となり分家に置いておけなかったんだろう、という程度。

 まさか、天乃宮家のトップであることとは、完全な不意打ちであった。


「当主なのに天乃宮を名乗らないのは、表に出るとマズいからか?」


「本家の頭魔導師連中と一緒にして欲しくないという、ただのワガママです。……が、最初の疑問がそれですか? もっと言われると思いましたが」


「驚きはしたが、責めることではない。俺は部外者で、表に出ない当主の情報は機密そのもの。名字を変えないことを許されてるのも、ワガママ以外に理由があると思う方が自然だ。その上で俺に当主だと名乗ったのなら、信頼の証と受けるべきだと思っている」


 安堵か、呆れか、両方か。

 伸ばした背筋を曲げながら、盛大に息を吐きだした。


「悠太さんが普通でなくて助かりました」


「素直に受け入れられないことが多かったのか?」


「敵対関係であったり、利害が衝突する相手が主なので、フラットな反応は珍しいです。――時間がないので、仕事の説明をさせていただきます」


 再び背筋を伸ばし、唇を引き締めた。


「これは最弱の剣聖、南雲悠太さんへの正式な依頼です。天乃宮家のみならず、初空家や十二天将、中央政府からの承認も得たものなので、半ば強制にはなりますが、形式的にお聞きします。――お受けいただけますね?」


「無論、受けよう。初空の名前が出た以上、天乙から打診されていた件だろうからな」


 悠太の振るう絶刀は、全てを斬る剣。

 放たれたら最後、防ぐという選択肢を放棄せねばならない必殺の脅威。

 真っ当な神経の持ち主であれば、これを扱う者を排除するか、首輪を付けようとする。悠太の持つ剣聖とは、制御のために付けられた首輪であり、従う限りは殺されないという保証。

 悠太も人間なので、嫌悪感を抱く仕事はある。

 だが、今回に限っては願ったり叶ったり。不謹慎ながら、待ちわびた仕事であった。


「そんなに目を輝かされると調子が狂いますが、まず簡単に説明します。――東京タワーの展望台に行って、世界の敵を無効化してください――ここまでで質問は?」


「無効化の定義と詳細は? 世界の敵は殺してはいけないと聞いているが、具体的には?」


「事務的な質問になったなぁ。でも、続きを話す中で説明します」


 簡単に言うなとか、もっと詳しくなどの反応を期待していた。

 世界の敵について聞いているので興味がありそうだが、殺してはいけない、に抵触する条件を聞いているに過ぎない。


「展望台には世界の敵、赤い破滅がいます。これから初空の未来視が観測した破滅を起こしますが、その現象を無効化して欲しいです。方法は問いませんが、世界の敵なので殺してはいけません。現象が起こる理屈、法則、原因を突き止めて無力化した上で、殺してください。殺して初めて無力化と定義します」


 物騒なことを言うが、剣聖に任される仕事は基本物騒だ。

 原因究明や無力化の部分は剣聖らしからぬ仕事内容であるが、最終的にはいつも通り。


「天乃宮の星詠みなら、原因や法則に検討が付いている気がするが、情報共有は?」


「…………誠実に答えるなら、全て把握しています。ただ、一切をお伝えすることはできません。重要なのは、悠太さんが自身の手で突き止め、その上で無力化、無効化を行うこと。この過程なくして世界の敵の克服はありえない、とのことです」


「それが星詠みの判断なら、仕方ないな」


 仕事を失敗して良いのか? と問い詰めたい対応だが、相手は天乃宮の星詠み。

 過程が重要だと言うのなら、本当に重要なのだろうと納得する。


「最後になりますが、武器について」


 真門が香織に声をかけると、荷台から何かを持ってきた。

 淹れ立てのホットコーヒーと一緒に真門に渡すと、また荷台方向へと戻っていく。


「覚えていますか、ゴールデンウィークに落札された、冬内の習作です。警察に無理を言って借りてきました」


 鞘に納めたまま、悠太に差し出す。


「…………これで、斬ろと?」


「いいえ、ただ持ってきていると知らせただけです。予備の刀はこの通り準備しているので、デバイスを惜しんで判断を誤るなんてしないでくださいね」


「………………わかった。肝に銘じよう」


 星詠みの指示だったのだろうと推測し、刀は受け取らない。

 剣型のデバイスを手にしたまま、東京タワーへ入るために歩き出した。


お読みいただきありがとうございます。

次回は、8月19日(水)1:00 を予定しております。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。

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