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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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何すればを良いの?

「なるほど、こうなるのね」


 意識のない悠太に向かって頷く。

 抱きかかえられているので分かりづらいが、胸は上下している。生きていることに安堵はするが、楽観はできない。

 悠太を抱えるのは、神造兵器なのだから。


「異界に干渉する術は」


「同型機が呑まれてるんだからやめときなさい。私としちゃどっちでもいいけど」


 意識のない悠太を受け取ると、ボックスカーに押し込んだ。

 座席に座らせるのではなく、横になって寝かせているので看病するつもりはあるらしい。


「何、不満でもあるの?」


「巫女を使うと推測しますが、適任とは思えません」


 認識されるだけで、心臓が大きく跳ねる。

 敵意や不快などでなく、単純な疑問を向けられただけなのに、呼吸を忘れる。

 不意打ちであれば気を失ったかも知れないが、覚悟を決める時間はあった。指先に力を入れ、目をカッと見開く。要は気合いの問題なのだ。


「随分な意見ね。ライカはあんたらの異界を攻略した一人よ。妖精も勇士って認めたくらいだし、適正だけなら充分すぎるわ」


「攻略だけを基準とするなら、剣士も同様です。同じく呑まれる可能性があります」


「南雲くんを呑み込んで、腹を壊してなければの仮定ね」


 気合いを入れたところで、会話についていけるはずがない。

 断片から推測すると、天乃宮家の作戦は継続している。悠太の昏睡は予定通り。神造兵器と利害が一致している。その程度しか分からない。

 ライカを呼び出した理由がまるで分からないのだ。


「……香織ちゃん、そろそろ教えて。私を呼んだ理由とか、元凶がなんなのかとか、悠太くんになのがあったのかとか、……神造兵器さんが、いる理由とか」


 神造兵器が、ライカへと意識を割いた。

 敵意の類いを向けていないとはいえ、多くの生物は立つことさえ難しい。動けるのなら本能が逃げようとするし、悲鳴すら上げることさえ拒絶する。存在としての格が違うが故の重圧はそれほどに隔絶している。

 その中で問いを投げかける困難さを、神造兵器は評価した。

 その分、重圧が増してしまうが。


「世界の敵について、知ってることはある?」


 少し考えて、首を振る。

 語感から神造兵器や朱い妖精を連想したが、香織や悠太がそれらを世界の敵と称したことはない。自分では想像も付かない何かなのだろうと、粘ついたものがノドを通る。


「簡単に言うと、超厄介な存在。放置すると世界を滅亡させるから、絶対に殺さないといけない。でも殺すと滅亡要因も残っちゃうから殺しちゃいけない。そんな連中よ」


「……矛盾、してない? 殺せないと滅亡しちゃうのに、殺しちゃいけないって……」


「だから厄介なのよ。滅亡要因を解体した上で殺さないといけないから」


 少しだけ納得した。

 同時に、一般的には知られていないことも。


「説明したってことは、元凶が世界の敵なの?」


 肯定して欲しくないのに、肯定された。

 思わず空を見上げると、東京タワーと赤い雪が視界に入る。

 関東全域を襲った広範囲の魔導災害は、確かに恐ろしい。解決するには元凶を殺すのが手っ取り早いが、世界の敵であれば話は別。殺したところで、この規模の魔導災害が解決する保証がないということ。

 悠太や、天乃宮家、初空家が動くのも無理はない。


「じゃあ、神造兵器さんが協力する理由は? あの妖精さんを見る限り、人間が滅ぼうがどうでもいいって感じだけど」


「こいつらが大切にしてるものを、元凶に奪われちゃったのよ。取り返したいけど、関わったら絶対に負けるから手を出せない。私達としては、その大切なものが元凶の手にあると困るから協力してあげてる。つまりは利害の一致よ」


 分かりやすい理由に、ライカの頬が引きつる。

 今の話が意味することは一つだからだ。


「…………文化祭の異界、わざと放置したでしょ」


「世界の敵を殺すために必要なことよ。――先に言っとくと、修学旅行の件もこれ関連で動かしたから」


 ライカは被害者なので言う権利はあるが、責められない。

 現時点でも、被害規模が桁違いに大きいのだ。学校一つ、街一つを巻き込んだ魔導災害でさえ、大騒動になったのに。今は規模が大きすぎて、騒動さえ起こすことも許されていない。

 感情的に非難したところで、代案を出せと言われたら黙るしかない。

 感情にまかせて騒ぎ立てることはできるが、強制的に黙らされる。

 天乃宮の星詠みが作る道筋は、常に正しいのだ。世界滅亡を回避するという一点において、人の感情や倫理を考慮しなければ、もっとも被害が少ない方法なのだ。


「最後の最後には、香織ちゃんが動くって言ったよね?」


「ええ、どうしようもなくなったら、呪い殺す予定よ。間接的に関わっただけで腐って死ぬような呪毒に変えて、関係者全員を呪い殺すわ。誰も再利用できないようにね」


「残った呪毒はどうするの? それだけ呪い殺したら、呪詛が強くなるはずだよね?」


「私が引き受けるわ。五年ももたないだろうけど、可能な限り浄化して次に渡す。私から三代くらいは一〇年もしないで死ぬだろうけど、そこからなら二〇年くらいはもつはずね。あとは二〇人くらいが人生を捧げて鎮めれば、今くらいにはなるでしょうね」


 大江鬼の呪詛が滅亡要因として残るが、殺し方としてはスマートな部類だ。

 裏技的解決であるが、天乃宮家で管理できるので穏当と言ってもいい。というか、確実性だけを見ればこれが正解である。

 天乃宮家が滅亡要因を大量に抱え続けるのは、他の滅亡への対抗策になるから。

 一〇〇〇年以上、滅亡回避を探求し続けたからこそできることだ。


「もし、だけど……私が関係ないって投げ出したら、香織ちゃんが動くの?」


「それはないわ。南雲くんが完全に負けるか、日が沈むまでは待つもの」


「悠太くんが負ける可能性は、増えるの?」


「さあ? 星詠みの指示通りに動いてるだけだし。完全勝利には必要だとは思ってるけど、どの程度を完全勝利に設定してるか知らないし。というか、理解できないし」


 指示待ち人間と揶揄したくなるが、星詠みに対しては別だ。

 星詠みが予測する未来は遠く、数も膨大だ。何百、何千、何万という可能性を全て見るなど人の所業ではなく、故に星詠みが最善と判断した未来を信じるしかない。

 また、最善以外の方策も同時に動かしている。

 最後の手段として、香織の呪詛が効く状況にしているように。


「そっか……うん、分かった。何すればを良いの?」


「イヤならいいのよ、やらなくても。どうにでもなるし」


 優しさではない。

 ゼロとは言わないが、主な理由ではない。

 世界の敵と相対するのに、中途半端な覚悟では意味がない。

 義務感であれ、憐憫であれ、興味本位であれ、種類は問わない。星詠みに指示されたからではない、己だけの理由。それがなければ呑まれて終わる。犠牲者を増やすだけと分かっているから、覚悟を問うているのだ。


「ここまで来て、覚悟がないって本当に思ってるの? 逃げる理由はいっぱいあったし、言い訳もできた。でも、やれることがあるならって来たから――何もしないのはイヤ」


 神造兵器の重圧は気にならない。

 だが、震えは止まらない。悠太を意識不明にまで追い込んだ相手で、天乃宮家が時間をかけて対策を練った相手なのだ。

 震えない方がおかしいと言える。


「じゃあ、エレベーター使っていいから、展望フロアまで行って。後は好きにすれば良いわ」


「好きにって……指示とかはないの?」


「ええ、特にないわ。可能ならライカを展望フロアに送れって、指示があるだけだもの」


 拍子抜けするほど簡単な指示に、自分の助力は本当に必要なのか、と疑問に思ってしまう。

 星詠みの指示を鵜呑みにせざるを得ないのは、このような指示が多いからなのだが、ライカは知るよしもなかった。


お読みいただきありがとうございます。

次回は、8月5日(水)1:00 を予定しております。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。

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