第9話ジョゼットの怪我
「ここが母と私と妹の部屋です。お嬢様中に入って驚かないで下さいませ」
「うん?」
ドアの前に立つパティに言われて何を驚くんだろうと、内心首を傾げながら部屋の中へと入った。
「ジョゼット。え」
ジョゼットの部屋は、私の部屋の隣にあった。
幼児付きの使用人、しかもジョゼットは乳母だから通常の使用人とは違う場所に部屋があってもおかしくない。
子供、特に幼児は夜間に熱を出すこともあるし夜中に目を覚し泣く事もある。
そんな時に対応出来なければ問題になるのだから、他の使用人とは違い私の部屋の近くに部屋を持つのは当然だった。
ジョゼットの部屋は、私の予想よりもずっと狭かった。
ジョゼットとパティそしてパティの妹が一緒に暮らす部屋だと考えたら、狭いというより息苦しい部屋だと言っても良さそうなほどの狭い部屋でジョゼットは眠っていた。
「狭くて驚かれたでしょう」
「暗いの怖いよ」
以前の記憶がある私よりも、今の三歳の体の脅えが勝ったみたいだ。
薄暗い部屋、模様も何もない壁紙に安っぽい家具。数部屋隣は私の部屋だというのに、この部屋は装飾の類いが一切なく、質素の一言だった。
「お嬢様の部屋とは何もかも異なり、狭くてみすぼらしいのは使用人の部屋だからです。これが使用人とお嬢様の立場の違いというものです」
三歳児の子供の私が初めて見る質素すぎるほど質素な部屋に、パティはみすぼらしい使用人の部屋だと説明しながら私の背中をぐいと押し部屋へと押し込んだ。
パティの妹の姿は見えない、どこかに隠れられるほどこの部屋は広くないし隠れるところもない。
ベッドはジョゼットが眠っているものの他にもう一つあるだけだから、もしかするとパティとパティの妹は同じベッドで寝むっているのかもしれない。
「パティ、ジョゼットは」
脅えてもパティは慰めてくれないと悟り、涙が出そうになるのを必死に堪えながらパティに尋ねた。
私がこの部屋にきたのはジョゼットの怪我を治すため、ぐずぐずしていたら誰かに私がここにいると気がつかれるかもしれないから急ぐに越したことはない。
「母はそこです。苦しんで痛みに耐えている。それが母の、お嬢様を守れなかった母の償いだというのでしょうか」
ああ、泣いている。
パティは、私を責めずただ心の中で泣いている。
そう理解した私は、パティが指差すベッドに恐る恐る近付いた。
「ジョゼット」
苦しそうに浅い呼吸を繰り返すジョゼットの顔色は、悪かった。
痛みが激しいのだろう、ジョゼットは眠っているのに眉をしかめ浅い呼吸を繰り返し痛みに耐えていた。
「ジョゼット。ごめんなさい」
咄嗟に謝ったのは、衝動的な行動で心は伴っていない。
額に浮かぶ汗を、パティは泣きそうな顔でハンカチで拭いながら私の謝罪の声を聞いて私に振り返ると憎しみのこもった目で私を睨んだ。
「ジョゼット熱あるの? 顔が赤いよ」
「熱はあるのかもしれませんが、どうしようもありません」
「ミルフィの部屋に、氷あったよね。あれでジョゼットを冷やしてあげて」
今の季節、暑すぎるわけではないが氷は簡単には手に入らない。
氷は、氷販売を生業としている魔法使いから買うものだから、使用人の熱を下げるためになんか使えないけれど、夜に万が一私が熱を出してもいいように、氷が用意されていた。
氷が解けない魔道具に入れられた氷だ、パティはそれをどんな気持ちで見ていたのか分からない。
「お嬢様? ですが」
「お願い。氷で冷やして上げて、ジョゼット可哀相」
私がそう言うと、パティは弾かれた様に部屋を飛び出した。
驚いたけれど、これは私には都合が良かった。
「ジョゼットごめんね。以前の私も今の私も、ジョゼットにこんな辛い時間を強要している」
魔力循環し手のひらに魔力を集め始め、中級回復魔法を練る。
ジョゼットと私しかいない空間だけれど、ジョゼットが万が一私がいるのと理解しているかもしれないから無詠唱で中級回復魔法を練る。
まずは体力を回復、怪我を治すのはその後だ。
私は細心の注意を払って魔法を発動した。




