第10話魔法を使った後は
魔法を使った後、体調確認の下級魔法を発動して安堵する。
体調確認の魔法は下級、中級、上級とありこれは術者の魔力のみで発動し、下級は健康なところが淡く光り悪い所が黒く霧がかかったように見えるだけ、中級は黒い部分に必要なのは治癒なのか回復なのか解毒なのかなどが漠然と分かる。上級は体内の状態が詳細に分かる。
以前の私が体調確認の魔法を上級まで覚えていてもあまり使っていなかったせいなのか、今の私では下級の者しか使えないみたいだ。
これは今後鍛えていかないといけないと思う。
とにかくジョゼットの体の話だ。
今のところ悪いのは足の付け根と太もものあたりが真っ黒に染まっていて、腰のあたりはぼんやりと黒いだけだ。
中級回復魔法の効果なのか、ジョゼットの呼吸は少し落ち着いて顔色も良くなっているように見える。
「次は治癒、これで治るわジョゼット。ずっと苦しいままにしていてごめんなさい」
間違いなく中級治癒魔法が掛けられるように、集中して魔力循環し魔力を集め魔力が無駄に放出しないように制御する。そして深呼吸を一度した後中級治癒魔法を無詠唱でジョゼットの体全体にかける。
それからもう一度中級回復魔法を掛け、さっき黒く見えた部分に集中して中級治癒魔法をかけてから、さらに中級回復魔法をかけジョゼットの体力を回復する。
治療費が嵩むから普通の患者の治療には使えないけれど、怪我を治すには体力が必要だから本当は回復魔法を治癒魔法の前後にかける方がいいのだ。
今の私が使える魔法を駆使してジョゼットを治療した後、私はただジョゼットを見下ろしていた。
「ジョゼット。治った?」
体調確認の魔法を使うと、ジョゼットの体全体が淡く光り黒い霧の部分は見えない。
それで治療が完了したと分かるのに、それでも私は不安だった。
「治ったのよね、大丈夫よね」
体調鑑定魔法の結果を見ても信じられないのは、自分の能力に自信が無いせいだ。
なにせ以前の私は治癒師として働いていたわけではない、治癒師の適性があり様々な魔法を覚えてはいたが殆ど自分のために使っていただけだ。
貴族夫人の最低限の務めとして、たまに治療院に慰問にいき治癒師の真似事をしたことはあるけれど、それは脇に治癒師がいてその指示の通り魔法をかけていただけなのだ。
私は人目に自分の姿を晒すのが苦手で、ろくに患者に視線を合わせることもせず言われるままに魔法を使って終わると逃げるように馬車に乗り込み屋敷に戻っていた。
例え私の魔法で健康を取り戻したとしても、相手には不快だっただろう。
それぐらいその頃の私にも嫌になるほど分かっていたけれど、私みたいなものに治療されるのは嫌だろうとしか思えなかったし、他人と関わるのが怖くてたまらなかったのだ。
「治ってるよね」
しつこいくらいに、何度も体調鑑定魔法を使い確認する。
何度も体調確認してから、もう一度中級回復魔法をかける。
治癒魔法で怪我は治っている、黒い霧がかかっている場所がどこにもないのだから、それは見て分かるのにそれでも不安で魔法を使っていた。
「私って、どうしようもない人間だったのね」
あの頃きちんと経験を積んでいたら、今こんなに不安になっていないだろう。
以前の私は子供の具合が悪いときも自分の魔法ではなく治癒師を頼っていたし、夫の配下が怪我をしても私の魔法を使おうとしなかった。
治癒師がいないところで彼らの指示なしに魔法を使うのが怖かったのと、私の治癒師の腕を信じていないどころか悪評がある私を内心馬鹿にしている人に自分から関わるのも怖かった。
子供や夫にも私は嫌われていたのだ、夫の配下が私をどう思っているかなんて考えなくても分かる。
慰問先で治癒師の指示と違う魔法が発動して治療失敗となったことはない、私は治癒師の適性は本当に会ったのだと思うし、私が子供を生めたのも私自身に魔法をかけ続けた結果なことは分かっていた。
それでも私は自分に自信が無かったのだ。
「誰かを治したいなんて、思ったのは初めてよ。ジョゼット、しかも自分の罪を理解してなんてね」
兄の時は力が足りなくて、治してあげたいと思う余裕すらなかった。
私は出来損ないだけど、それでも今回は間に合った私はジョゼットの怪我を治せたのだ。
それがたまらなく嬉しいけれど、緊張から解放された途端どっと疲れが押し寄せてくる。
以前なら何度も使えたはずの治療魔法は、今の幼い子供の体には重労働だったのだろう。
背もたれすらない椅子に腰を下ろし、深く息を吐く。
体がもの凄く怠い。もしかすると治したい気持ちが強すぎて必要以上に魔力を込め過ぎていたのかもしれない。魔法を使ってこんなに疲れたのは初めての経験だった。
まだこの体は魔法の訓練を何もしていないから、もっと練習して魔力を増やしていかないといけないだろう。
魔力は成長と共に増え、練習を繰り返す事でも増える。
今ジョゼットを治療出来たことを思うと、以前の私と同じく治療魔法の適性はあるのだ。以前の私とは違い今から努力していけば、ガスパール先生のような治癒師になれるかもしれない。
「氷です!」
乱暴にドアを開きパティが戻ってきた。
「パティ、多分ジョゼット治ったよ」
三歳の子供ならこう言うだろうか、疑問に思いながら私は疲れに抗えず意識を手放した。




