第51話授業を終えて2(キム先生視点)
「それではセドリック様、私が指先に針を刺した後はご自分の指でこの様に指を摘み力を入れて、血をこの水晶が光るまで落とし続けて下さい」
しっかりしているけれどまだ五歳の子供だ、出来るだろうか。
不安になりながら説明すれば、セドリック様は怯えた様子も無く私に手を差し出してきた。
「少し、ちくっとした痛みがあります」
「はい」
侯爵と夫人の顔を見て二人が頷くのを確認してから、セドリック様の指先に針を刺す。
セドリック様は痛がる様子もなく、ぽたぽたと水晶に血の雫を落としていく。セドリック様を見つめる夫人の方が貧血を起こし倒れそうな顔色をしている。
「光り始めましたね。もう少し頑張って下さい」
「はい」
大体十滴程落ちただろうか、水晶から弱い光が放ち始めている。
この水晶を使った詳細検査の魔道具は、魔力を流しても血を垂らしてもどちらでも検査ができるが、血を使って検査した方が魔力よりも何故か詳しく検査が出来る。
詳細検査の魔道具は私が生まれる前からあるけれど、作り方は残されていても何故この魔道具で詳細検査が出来るか誰も解析出来ていない。
「はい、もういいですよ。セドリック様ポーションをお使い下さい」
「針で刺しただけですから、ポーションは必要ありません」
ポーションというのは、治癒魔法を使わないで傷の治療が出来る薬だ。
傷を治す物、魔力を回復するもの、解呪するもの、解毒するものと薬の種類は色々ある。
勿論それなりに値は張るものだから、普通は針で刺した傷程度には使わないが貴族の子息令嬢は針を刺しただけで大騒ぎするからポーションが必須になる。
「よろしいのですか、ではセドリック様の詳細検査の結果を申し上げますね」
予想していたよりも、セドリック様の詳細検査の結果は悪かった。
簡易検査では検査対象者の現在の能力を確認するが、詳細検査で分かるのは現在の能力だけでなく本人の限界が分かる。
例えば魔力量、どれだけ本人が努力したとしても魔力量の器と言われるものが小でしかなければ魔力量の限界値は小となる。
逆に簡易検査で魔力量小と出ても、詳細検査で本人の能力の限界値は大とだと分かることもある。
無料で出来る検査が簡易検査だけだと本人の能力の可能性を狭めることになりかねないけれど、そこまでの検査を国は認めてはいなかった。
だから簡易検査で実際には魔力量が分かっていても、それを本人にも親にも伝えない。
魔力量小以下の値が出た場合は、まだ魔法を勉強出来る程魔力量が増えていないとだけ伝えるのみだ。
大抵の人は魔法の勉強を始めると、魔力量が増えていく。
簡易検査する年齢では殆ど魔力量が育っていないのが普通だから、その後魔力量が増えるのは想定内だから簡易検査はそれで十分だと国は考えている。
そもそも宮廷魔法使いになれるほど魔力量が多い者は、簡易検査でも良い結果を残すものだから有能な者を見逃す心配はない。
それが国の考えで、費用が掛かる詳細検査を国民全体にしようとは考えてはいない。詳細検査をするのは宮廷魔法使いになり仕事をする者が殆どだ。そうでなければ詳細検査なんて必要に思う人は少ない。
「これからお伝えする詳細検査の結果は、一般の検査とは異なります。幼い子供がこの検査をすることはまずありません。それをご理解の上なるべく他言しないようにお願いします」
幼い子が検査したとなれば、どの家でもこれをしようとし始めるだろう。
それにより余計な争いを生むこともあるのだから、もめごとになりそうな種は最初から撒かない方が良い。
「ああ、分かっている」
嫡男のセドリック様よりも、ご息女のミルフィ様の方が問題で私はこの家に呼ばれた。
正直言えば面倒の一言だけれど、引き受けた限りは私は全力を尽くすつもりだ。
だが、セドリック様の結果をまだ五歳でしかない彼に告げるのは、私ですら躊躇してしまう。
「これは今のセドリック様のお体の能力、魔力量以外も含めて詳細検査したものです。今から努力することでこの値が変わる可能性があります。それはご承知置き下さい。これからお伝えするのは、セドリック様のお体の能力を現段階で詳細検査した結果です。セドリック様が成長されれば値が変化する可能性は十分にあります」
躊躇う、口の中が渇いて行く。
幼いセドリック様は、セドリック様のご両親である侯爵と侯爵夫人はどんな事を考えるだろう。
「セドリック様、年齢五歳、男性。魔力量最大、現在の魔力量は小。精神力大、現在の精神力は中……」
言いたくない、どんな反応をされるのか分からない。
でも、言わなくてはいけない。誤魔化すわけにはいかない。
「生命力最小、現在の生命力最弱」
懺悔する様に私は検査結果を告げた。
生命力が最弱、それは死にかけているのと同じ。
生命力が最小というのは、治癒師が常時近くに居てやっと生きていられるものだ。
貴族家の嫡男には希望がないと言っているのと同じ値だ。
「先生、僕は大人になるまで生きられないというこですか」
「セドリック様」
「教えて下さい。僕の生命力が最小というのはどの程度生きられるということですか」
たった五歳のセドリック様、だけどその目はとてもその年齢の子供の目だとは思えなかった。




