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正五角館の日常  作者: 青空森
嬉野と歩田の画策

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9/11

嬉野と歩田の画策2.3

「くり抜いたドアはそのままいいんですか?」

 推名さんの質問に、真っ先に開けられた穴をくぐろうとしていた藤堂さんが振り返った。

「ん、これは、ロボットが勝手に回収するだろ」

 館の人たちとは共有していなかったものの、自分も同じ認識だった。

 館の管理はすべてロボットが行っている。例えば、食べ終わった食器をレストランのテーブルに放置していても、場所を変えて休憩室に食器などを持ち込んだとしても、タイミングを見計らいロボットが現れて、食器を片付けてくれる。

 物が壊れた場合も同じだった。

 不必要な物は回収され、必要な物は修繕される。

 返却口や、ごみ箱の設置はされていた。

「……回収されるタイミングによっては」

 そう僕は途中で話を切ると、「タイミングがどうしたんだ?」と藤堂さんに目を細められた。

「回収されたときに扉の修理がされると、タイミングによっては閉じ込められると思いました」

 回収されることをひとまずの対応とするのか、回収と修繕を同時に行うのか、人だと完了の時間で順序がつけられても、ロボットには時間と行動に制限がない。

 最短でロボットが向かい、最短でドアの破片を回収し、修理していく。

「とりあえず中に入って、閉じ込められたときは通話で猫飼さんに助けを求めれば大丈夫だと思います」

 そう至った結論を話す。

「事前に説明しておいたほうがよくないか?」

 嬉野は言った。

「そっか」

 そう僕は納得したので、猫飼さんへ腕の電子時計から通話をかけた。

 状況の説明を終えると、藤堂さんと椎名さんはすでに向こうへくぐり終えていた。くり抜かれた穴の向こうから「早く来いよ」と藤堂さんが催促する。

 嬉野が動かなかったので先に自分から扉の向こう側へくぐった。後から嬉野がついてくる。

 周囲を見回した。ダークブラウンの絨毯と白と錯覚するぐらいの赤みがかった壁紙は、自室と同じ配色と構造だった。

「同じですね」

 離れたところから椎名さんの声が聞こえてくる。

 入口のすぐ右手にあるモニターをタップした。外で操作したときと同じ、利用者登録の設定が促される。

「なにか変わったことでもあったのか?」

 嬉野に質問された。

「変わったことではないんだけど、外でモニターを操作したときとこれが同じ状況だったから、理由だけ考えてた」

「誰の部屋でもないモニターの権限は、誰のものでもない。一貫すると思うが」

「そういうことだと思う。ただ、外側と内側では、シチュエーションが違うと思って。部屋の内側にいることが、権限者が決定されていることを示しているから。結果は一貫なんだろうけど、違うルールでシステムが組まれていなかった」

「理解した。脱出ゲーム的には面白くないってことだよな」

「うん、面白くない」

 その他にも靴箱を開けた。ルーム用のサンダルが一セットだけ用意されていた。これも自室と同じだった。部屋へ上がっていき、生活スタイルの決定をした記憶がある。

「だから早く来いよ」

 すでに藤堂さんはエレベーターへ乗り込んでおり、手でドアを押さえていた。

「お前らは何階にするんだ?」

 嬉野は「藤堂のほうこそ、どっち行くんだよ」と声を出す。

「決まってたら質問しねえよ」

「一たす一は」

「二!」

「じゃ、俺たちはあと三階に行くから」

 藤堂さんは「分かった、あたしたちは二階にいくからな」と確認した。エレベーターのドアが閉まる。僕と嬉野だけになった。

「まだ調べるのか」

「調べておきたいところは済んだかな」

「何もなかったんだな」

「自室と違ったところはあった?」

「まったく。あっても多分、気づかないぜ」

「まだまだエンジョイ勢ってことかな」

「本気でやるなら写真を撮りそうだよな」

 そう言って嬉野は「撮っておくか」とこの場所の写真を記録した。

 エレベーターが二階から一階へ下りてくる間に、壁のどこかに縦に線が入っていないかだけ調べた。調べても、壁と壁につなぎ目はなく、一枚の壁紙になっていた。

 エレベーターの到着したチャイムが鳴る。僕たちは三階へ上がっていた。

 降りた先も、見たことのあるレイアウトだった。一階と同じ配色の通路があり、扉が左右に一つずつ、正面に一つあった。

 僕は左側のドアを確認して、右側は嬉野が確認した。

 ドアを開けると、直角三角形を思い浮かばせる部屋が現れた。目の前に洗面台があり、右側に棚を置くスペースがある。自室との違いは、家具が配置されていない分、広々としていることだった。

 スライドドアで仕切られた先はバスルームになっていた。ここも同じく鋭角が壁で隠されていて、台形になっていた。

 隅々まで違和感がないか、間違っていそうな箇所を探す。

 無さそうだった。

 直角三角形の部屋を出ると、嬉野が廊下で待っていた。

「そっちはどうだった?」

「何もなかった」

「こっちも」

 僕は奥の部屋へ視線を向ける。

「望みは薄そうだな」

「扉を開けるまでは不確定だけど」

 僕たちはエレベーター正面の最後のドアを開けた。


 結局、最後の部屋も特別、気になるような違いはなかった。自室は配色を白、材質を石材に変えているので、変更前の部屋の地肌に何かあった可能性も考えていた。

 隅々まで調べても、不自然な箇所はなく、脱出の糸口に繋がりそうな手がかりはなかった。

 パネルの操作も利用者登録が促され、その他のパネルと同じ状況になっている。

「何もなかったかあ」

 僕たちは同じ気持ちでエレベーターに乗り、一階まで降りてきた。

 到着のチャイムが鳴る。ドアが開かれると、そこにはすでに藤堂さんと椎名さんの姿があった。

 真っ先に質問してきたのは藤堂さんだった。

「外に出るための手がかりを探しに来たって認識であってるよな?」

 嬉野が「そうだけど」と答える。

 椎名さんが「だから言いましたよね」とすぐさま追及していた。

「あ、いや、ちゃんと調べたぜ?」藤堂さんは訂正した。

「藤堂さん、二階に着くと、ここに来た理由を尋ねてきたんです」

「バカ。目的がしっかり果たせたなら、結果オーライで不問が情けだろ」

 そう言って、藤堂さんは背を向けた。一言も話すことなく、開いたままの扉の穴から、正五角の広間へ出ていった。

 嬉野が「収穫なしってことだよな」と椎名さんに聞いた。

「そうですね。何もなかったです」

 僕たちも正五角の広間へと出た。

 しばらく四人で談笑をした。そして解散の空気が流れたとき、嬉野が「それならもう一つの扉の可能性が高くなるのか」とポツリとつぶやいた。

 意外にもそれに反応を示したのは藤堂さんだった。

「もう一つの扉ってなんのことだ?」

「ゲームエリアの、もう一つの開かない扉のことだが」

 藤堂さんは沈黙する。以前に会議で嬉野から話を聞いているはずなので、知ってはいるはずだった。

「祐介」

 藤堂さんの声に怒気が含まれていることに僕は気がついた。心当たりを探しても、不機嫌になった原因が分からなかった。

「悪いことは言わない。あれは忘れろ」

「なんでだよ」

「あたしは何も知らない」

 何か知っていそうだった。

「知ってるってことだよな」

「だから忘れろって言ってんだろ」

 脱出ゲームだとしたら、僕としても聞き逃せない情報だった。

「すみません、藤堂さん、もし知っていたら話せる範囲で……」

「うっさいな! 都合の悪いことは即刻デリートさせるって言ってんだろ。んで、何の話だっけか? 蜜柑は木になるのかどうかの話か? そういや、蜜柑が木から落ちる瞬間って見たことがないよな。興味ない? あ、そう。椎名、行こうぜ。ここにいると虫歯になる」

 そう言って椎名さんの手を引っ張り、エンタメエリアの方へと去っていった。

 残された僕たちは顔を見合わせた。

「なんだったんだろうな」

「地雷を踏みぬいたみたいだけど」

「とりあえずあの扉はやばいってことは分かったが」

「どうする。調べる?」

「殺されたいのか」

 それから嬉野は「温泉でも行こうぜ」と言った。

「汗、不快だわあ」

 僕は腕時計で時刻を確認する。まだ昼過ぎだったけれど、温泉へ行くことにした。

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