まだまだ上手くなるよ2
何故かとんとん拍子で話が進み、迎えた土曜日。
普段2人で話す事はあるが、学校の外で2人きりで会うのは初めてだな、なんて考えながら電車に揺られている恭子は妙に緊張した面持ちだった。
目的地の駅へ到着し、改札を出るとすぐ一弓の姿が目に入った。
「ゴメン、待たせちゃった?」
「いやいや、私もついさっき着いたばっかりだよ。それじゃあ行こうか」
なんて待ち合わせカップルのテンプレートのようなやり取りをして、2人は駅から一弓の家へ向かって歩き出す。
駅から一弓の家まではそこそこ距離があり、普段一弓は駅まで自転車で向かっている。
2人が野球の話しや他愛もない雑談をしながら20分程歩くと、一軒家が並ぶ住宅街へたどり着いた。
「あそこが我が家だよ」
一弓が指差した先に「前原」の表札がかかった2階建ての家があった。
恭子は一弓の後に続いて玄関をくぐり「お邪魔します」と声を掛けると、一弓の母が「あら~、いらっしゃい」とわざわざ出迎えに現れた。
「どうも初めまして、小山内です」
「小山内さんね、一弓から聞いてるわよ。いつもウチの子と仲良くしてくれてありがとうね。」
「いえいえこちらこそ、いつも色々と教えて貰ってます」
一弓の母の口ぶりからすると、どうやら普段から自分の事を家族に話てくれているようだと、恭子は少し安心した。
思えば今日少し緊張していたのは、仲良くしていると思っているのは自分だけだったらどうしよう、そもそもこの2人の関係性は友達と思っていいのだろうかという不安が心のどこかにあったからかもしれない。
「お母さん、小学校じゃないんだしそういうのいいから」
一弓は強引に2人の挨拶に割って入り、急いで恭子を2階の自室へと案内した。
再び「お邪魔します」と声をかけて恭子は一弓の部屋へ入室する。
「おお~、ここが前原さんの部屋か」
失礼だと理解しつつも恭子はついつい部屋中を見回してしまう。
机の上には恐らく大会で優勝した時の物であろうメダルや集合写真が飾られていて、改めて自分とは全然住む世界が違う選手なんだと思い知らされる。
「そんなに見ても珍しいモノなんて何もないよ」
と言いながら一弓はジャージに着替え始めた。
「いや、珍しいモノだらけだよ」
と、恭子も持参のバッグからジャージを取り出し着替える。
ジャージに着替えた2人は、一弓の家から歩いて10分程の距離にある公園へとやって来た。
少し大きめの広場があり、一弓は昔からここで自習練をしている。
「じゃあ早速キャッチボールから始めようか」
一弓は軽く肩を回しながら言った。
「はい、よろしくお願いします先生!」
恭子は敬礼のポーズをとりながら応え、一弓は照れくさそうに「先生はやめてよ」と笑った
「今日は私も小山内さんに教えて貰いたいことあるんだよ」
「え、何を?」
「ほら、前に私の肩が弱いみたいな会話したでしょ、小山内さんはピッチャーやってるって事もあって私より全然送球いいし教えて貰いたいなって思って」
「あ~...でも多分それって教えてどうにかなるものなのかな」
「と、言いますと?」
「前原さんの言う通り、私はずっとピッチャーやってて前原さんより沢山ボールを投げ込んでるから勝手に鍛えられただけかなって、あと私別に特別肩が滅茶苦茶強いって訳でもないし。普通だよ普通」
「それじゃあ私が普通以下みたいじゃん」
「え、ああ、いや、それは~」
一弓の肩が普通レベルを下回っているという事を否定したほうがいいのか分からず、恭子は困ったように笑って誤魔化そうとした。
しかし、きっとこの子は野球のセンスに恵まれているから送球をしっかり練習して鍛えればすぐに自分なんて追い越されるのだろうと想像し、恭子は少し悲しくもなった。
「何かコツみたいなのって無いの?」
「うーん、そうだなあ…とりあえず投げてみよっか」
2人は普段のキャッチボールより少し距離を離して、キャッチボールを始めた
お互い5球ほど投げ合ったところで恭子は「やっぱり…」と呟き、手を止めて一弓の方へ歩み寄った。
「前から思ってたんだけど、前原さんってボールを山なりになげるよね、キャッチボールだから?」
「いや、試合で送球するときとかも遠くに投げるイメージで高く投げてる」
「それが原因だよ多分」
「え、そうなの?」
「もう少し低く、ライナーを意識して投げないと。ほらピッチャーがど真ん中にストレートを投げるみたいに」
「所謂ストライク送球ってやつ?うーん、でもああいう送球って肩が強くないと成立しないでしょ?ライナーで投げても全然届かなくてボテボテになりそうで嫌なんだよね」
「大丈夫、前原さんならちょっと練習すればすぐ送球も強くなるって」
恭子は自分のライナー性の送球がギリギリノーバンで届くくらいの位置まで離れてキャッチボールを再開した。
低くライナーを意識した一弓の送球は最初こそ恭子へとツーバンで届くようなレベルだったが、球数が増すごとに少しずつコツを掴み始め、ワンバン、ごくたまにギリギリノーバンで届くようになった
(あぁ、これで私が前原さんに勝ってる部分が無くなっちゃうなあ)
一弓との距離が縮まったのではと思っていたが、それは友達としての距離が縮まっただけで、野球の実力においては追いつけないほど離されていく一方だと思うと、少しだけ劣等感を感じてしまう。
それでも、今日はちょっとでも上手くなる為にここに来たんだ、と恭子のボールを握る指に力が入る。




