まだまだ上手くなるよ1
お風呂あがりの嗣弓は、リビングでソファーに深く腰掛けてテレビを見ながら友達からのメッセージに返信している。
「嗣弓ー、お姉ちゃんあんまり遅くなりそうなら呼びに行ってあげてね」
お風呂へ向かおうとする母がリビングにいる嗣弓へ声をかけた
「んー、大丈夫でしょ、もうすぐ帰ってくるよ」
嗣弓はスマホを見ながら素っ気なく返事をした。
夏の大会が終わってから、一弓は毎日近所の公園へ素振りをしに出ている。
「大丈夫、まだまだ上手くなるよ。」
嗣弓はふと天井を見上げ、一心不乱にバットを振る姉の姿を思い浮かべて呟いた。
「あの2人、最近仲良さそうだよね。夏休みには遥が沢井さんの家に泊まって一緒に練習するみたいだし。」
「ね。沢井さんってそういうのお断りなイメージあったけど。」
いよいよ夏休みが近づいてきたとある日、部活が終わり先に着替えを済ませた一弓と恭子は他の2人を待ちつつ更衣室の外で会話をしていた。
「でしょ?沢井さんが断らなかったのも意外だけど合同練習を申し込んだ遥の度胸も凄いよ」
「確かに」
一弓は腕を組みながら頷いた。
「じゃあさ、やっぱり私達も一緒に練習しようよ」
「ええ!?」
一弓の唐突な提案に恭子は驚きの声をあげた。
「いや、普通逆じゃない?私の方から前原さんにお願いしないと」
「なんで?」
「なんでって、そりゃあどう考えても私が教えてもらう立場になるだろうし」
「うーん、でも1人じゃ出来ない練習もあるし一緒に練習するメリットは勿論私にもあるよ?」
「た、たしかに」
恭子は以前に遥が灯に泊まり込みで練習を申し込んだ時の様子が脳裏に思い浮かんだ。
遥は上手くなるために行動をしている。自分も遥に置いて行かれる訳にはいかない、恭子はグッと拳を握りしめた
「うん、そうだよね、じゃあ改めて私の方からもお願いするよ、一緒に練習してほしい」
恭子の言葉を聞いて一弓は微笑んだ。
「うん、いいね。それなら明日の土曜日が丁度休みだし明日でどう?」
「あ、明日?思ったよりとんとん拍子なんだね」
「別に一回きりって訳じゃないでしょ?」
「え?」
確かに、一弓の言う通り一回きりの一大イベントという訳では無い、ただ友達と一緒に練習をするだけなのに深く考えすぎていたのかもしれない。
恭子は無意識のうちに一弓や灯に対して気を遣ってしまっているという事を一弓に見透かされたように感じて少し動揺した。
「いや、うん、そうだね。前原さんがよければ明日でお願いしようかな」
「私は全然オッケーだよ」
「じゃあ明日で。あ、でも流石に泊まり込みっていうのは申し訳無いから半日だけで大丈夫だよ」
「そう?ウチは全然大丈夫なんだけどなー」
「そもそもその翌日の日曜日は部活があるし」
「あ、確かに。そうだ、折角だし春日さんと沢井さんも誘う?」
「いや、今回は前原さんと2人がいい」
恭子は咄嗟に2人がいいという言葉が何故か無意識に口から出てしまい、急に恥ずかしくなって目を逸らした。
「そっかじゃあ2人でいいか。集合は何時にする?」
一弓は何事もないように話しを続ける。
2人が予定をすり合わせていると帰りの支度を終えた灯と遥が更衣室から出て来た。
「おう、お待たせ」
「いつも思うのだけれど、何故一緒に帰るみたいな流れになってるの?」
「そりゃあアタシ達友達だからだろ?」
遥のその言葉をスルーするかのように灯は黙って早足で歩き出し、3人はそれを追いかける。
「沢井さん待って~、私もっともっと上手くなるよ~、だからおいていかないで」
恭子がそう言いながら灯を追い、遥は「なんだそれ」と笑う




