ゲーム?
◆
「君一人なんだ?」
椎谷先輩は、俺と話ができる位置にきて、開口一番、そんなことを口にした。
「はい。黒鳥さんたちにお前が適任だと言われまして……」
「ふ~ん?」
舐めまわすように、俺をじろじろと見てくる。
言いたいことは、分かる。
どうせ、黒鳥さんか、綾瀬さんが相手をするものだと思ってきたのだろう。なのに、実際は自分と同学年どころか、明らかに格下の、しかも下級生が相手なのだ。きっと、「負けるはずがない」「面白がってやろう」とか、そんな風に考えているのだろう。
「こんなとこで長話ってのも微妙だし、ちゃっちゃと初めて終わらせようよ」
椎谷先輩は、さも面倒くさそうに言う。
ここで長話をするのは嫌だと言いつつ、移動しようとは言わない。長くても十分もあれば済むとでも言いたそうだった。
俺は気を引き締めて――正確には、心を空虚に、気合いなどとは無縁の状態にするよう努めて、それから尋ねる。
「ですね。黒鳥さんからどういう話をするか聞いてます?」
「ん? えーっと、なんだっけ? 荒らしがどうこうってのは聞いていたけど」
先輩はサイドポニーの髪の毛をいじりつつ、気のない返事をする。
気にせず、俺はならばと喋る。
「今日来てもらったのは、俺たちMDKの活動内容と、荒らし行為、どちらが正しいのかを決めるためです。いえ、どちらかが間違っていると相手に認めさせた方が勝ちという、ゲームをしようということです」
「ゲーム?」
「はい。簡単なルールです。単純に話し合いで、相手に『自分のしていることは間違っている』もしくは、『相手のしていることは正しい』と認めさせる、というモノですよ。それで、勝った方は、相手になにか一つを要求できる。そういうゲームです」
「ふ~ん? 面白そうだけど、君、この間はなにもできずに脇で縮こまってただけだったじゃない? そんなことできるつもりでいるの?」
「さて、それはどうでしょう?」
「……」
椎谷先輩は綺麗な形をした眉を、ぴくりとさせる。
「どうですか?」
「……その要求っていうのは、なんでもいいんだよね? 例えば、MDKの活動を休止しろ、とかいうものでも」
「構いません」
「ならいいよ」
にやっと笑う先輩を見て、よし、と思う。
ここまでは、綾瀬さんに言われた通り、できた。
まず、こちらのやりたいことに乗せる必要がある。しかし、自分の土俵で戦いたいだろう相手を、乗らせるのはなかなか難しい。
そこで考えたのが、椎谷先輩のプライドを揺さぶること。明らかであろう格下の相手が、勝つことを前提にしたような条件を出してくれば、舐められていると思うのが人間だ。特に、椎谷先輩のような、プライドの高い人にとっては、鼻に付く行為だろう。だから、そこにつけこむ。そういう風に振舞えば、乗ってくる確率が高い。
結果は、成功。滑り出しはまずまずだ。
「それじゃ、始めましょうか」
ゆっくりと、いかにもやる気がないというような、そんな感じで、俺は言う。
椎谷先輩のようなタイプを相手取る場合、変にやる気を出すより、そういた方がいいのだ。
「始めましょうかって言われても、どう話していいか分からないけど?」
対する椎谷先輩も、気だるげな様子で、問うてくる。
「あ、それは考えてるので。まず――」
勝てるかどうかは分からないけれど、綾瀬さんや黒鳥さんに教わったことを生かして、できる限りやってみよう。
俺は、ふうと一度、胸に溜まっていた息を吐き出してから、椎谷先輩を見据えた。




