頼んだぞ
◆
黒鳥さんの動きは早かった。
全員で最終確認をした次の日には椎谷先輩にアポを取り、日程を決めた。
「で、もうその日がやってきました――って、早すぎだろ……」
俺はぼやく。
帰宅時間と重なっているためか、周囲には高校生集団や、スーツを着たサラリーマンなどの姿がある。まだまだ元気が有り余っていそうな高校生たちと違って、大人の皆様はお疲れのようだ。猫背っぽくなっている人が多い。
「……はあ」
そして、そんな大人たちと同じように俺も背を丸めている。
ため息しか出てこない。
そりゃ、必要以上に日を伸ばされると、モチベーションが下がるだろう。普段の生活だって、緊張してしまって、気があまり休まらないかもしれない。黒鳥さんや真の作業も、その分、長引くわけだから、早くなるに越したことはない。
が、しかしだ。
「いくらなんでも、アポ取った次の日ってどうよ……?」
本日は金曜日。
水曜日に最終確認をして、木曜日にアポを取って、金曜日が本番。最速な流れだった。
せめて、来週の月曜とかにして欲しかった。
「……」
特にやることもないので、スマホを取り出し、一応、時間や場所に間違いがないか確認する。
六時に駅前。
黒鳥さんから送られてきたメールには、確かにそう記載されていた。
時刻を確認すると、あと八分ほどある。
「……はあ」
本日何度目になるか、俺はもう一度、ため息をついた。
◆
そんな芽依を、物陰から伺う人影が三つ。
「あの、ホントにいいんですか?」
「説明しただろ」
「あ、や、それはそうなんですけど……」
あたしと、伶と、真。三人で芽依を観察中なう、だ。
「伶、あいつはちゃんと来るんだろうな?」
「昨日は、そう言ってたな。私たちを敵視していたのもあったのだろうが、勝負を挑まれたのだと分かったら、すぐにオーケーした」
「了解だ。とりあえず、このまま待機か」
あたしと伶は比較的、落ち着いている。真だけはさっきからそわそわしてるが、気にするだけ無駄だ。真はそういうやつだ。
「……」
芽依には見つかったら椎谷あみるにどんな反応をされるか分からんと言ったが、あんなものは口実だ。見つからなければいいだけだ。芽依には論戦に集中してもらいたい。あたしらが見ていることを知ったら気になって集中どころじゃないだろう。
あたしらがこうしている一番の目的は、一口に言えば『事後処理』だ。
論戦に勝ち、芽依が上手く椎谷あみるが何故荒らしをしているのか聞き出せたとしても、その後の対応ができるか不安が残るのだ。単純に「やりたいだけ」とか、「なんとなく」とか、そういう理由なら、論戦に勝った後だ。芽依にも対応できるだろう。だが、ないと思いたいが、なにかしら重要な事柄、それも芽依には対応できそうにないことが飛び出した場合、あたしらが話し合いに参加し、どうにかした方が良い。
あたしたちが望むのは、この場での完全決着だ。
論戦に負けたというショックから椎谷あみるが立ち直ってしまったら、腹いせになにをされるか分かったもんじゃない。どうしても、ここで決着をつけなくてはならないのだ。
「あ、来たぞ」
伶の声に、視線をあげる。
まだ、芽依との距離は遠いが、確かにやつだ。
「……」
気づかれないよう、息を殺しつつ、祈る。
事後処理で助けることはできても、現時点ではあたしたちにできることはない。あたしらにできるのは、論戦に勝った後のことのみだ。
――頼んだぞ、芽依。




