不可欠だ
「そっか……………………は?」
あまりにも自然に、しれっと言われたせいで、反応が遅れた。
「へ? あの、さっき、自分で自分の話は参考にならないって言ってなかった?」
「ん? いや、だから、あたし個人の話は参考にならないって言ったんだ。それとは全く無関係だよ」
にやっと笑ってみせる。
「……」
わざとじゃないだろうな。
「おら、いつまでへばってんだアホ会長。ちゃんと話す。全員しっかり座れ」
壁に背を預けて話を聞いていた黒鳥さんに、命令口調で言う。
黒鳥さんは渋々といった様子でイスに座る。
それを横目に見つつ、もう一つ、気になっていたことを尋ねる。
「あの、さっきから黒鳥さんに容赦がないような気がするけど、それは?」
「言ったろ? そっちのアホとは会った時からずっと言い合いばっかしてきたからな。互いに遠慮がなくなってるんだよ。……さっきのことに限れば、明らかにそっちの馬鹿が悪いからな。あたしにしてみれば、一方的にいじれるチャンスってわけだ」
「……」
ホント、キャラ変わりすぎだろう。
「よし、じゃあ、作戦会議を始めるぞ。MDKはこれから一週間、あのAMIRUとかいうふざけたやつを倒すためだけに動く。いいな!」
黒鳥さんと綾瀬さん。
どっちが会長なのか、この時ばかりは分からなかった。
◆
「同じ土俵に立って話すこと?」
「そうだ。ああいう手合いを相手にする際には、それが不可欠だ」
「いや、不可欠だ、とか言われてもよく分からないんだけど……」
綾瀬さんが一通り、自分たちがやるべきことを再確認した後、話し合いで決着をつけるにはまず「同じ土俵に立つこと」から始めなければならないと言った。
「芽依君、我々がどうして普通に話せているか、考えたことはあるかい?」
黒鳥さんもいくらか回復して、話し合いに参加していた。
「どうして普通に話せるか?」
「ああ。我々はこうして、日常会話にしろ、真剣な会話にしろ、特になにを意識することもなく普通に話すことができる。それがどうしてか、分かるか?」
「……」
そんなことは考えたこともない。
真と顔を見合わせ、二人で首を横に振る。
「さっき、葉月とあいつの会話を聞いていただろう? もしも、あの椎谷あみるという人間と対等に会話をしたいなら、ああいう風にならなくちゃいけないってことだよ」
「えと、じゃあ、あんな風に、上辺だけの会話ができなくちゃいけないと?」
「そうなる。こちらがいくら分かってもらおうとしたところで、向こうに受け取ろうという気がないのだから、いくら語りかけても意味はない。だから、同じ土俵に立つ、つまりは同じ目線で話せるようにならなければならないんだよ」
そうかもしれない。
先ほどの会話を思い出すと、そんな節があった。あの人と対等に会話をしたいのならば、少なくとも同じ目線で話さなければなにも聞いてもらえない。ただ馬鹿にされるだけだろう。だから俺たち三人があしらわれたのに対して、綾瀬さんだけはまがりなりにも会話を成立させることができていたのだ。
「それだけ分かっているなら、いきなり殴りにかかるな馬鹿」
「うっさい」
ちなみに、さっきからちょくちょく綾瀬さんは黒鳥さんを攻撃している。
「そういうわけだ。そこの阿呆が言ったように、ああいう手合いを相手にする場合、同じ土俵に立たないと、まともに会話が成立しない。そこからだな。……ああ、それから、間違っても、あいつをこちらの土俵に持ってこようとか考えるなよ? そんなことはするだけ無駄だ」
「でしょうね」
それについては、全力で同意した。
不本意ではあるが、こちらが相手の土俵に立つ以外に方法はない。
向こうがこちらの土俵に立ってくれるのなら、とっくの昔に解決している。




