第九十話 新たな騎士。そして宵闇の烏
「ということで、今日より騎士として働いてもらうゾーイだ。みんな、よろしく頼む」
俺は玉座の間に集まった皆へ向けて、新たな仲間を紹介した。
「ゾーイ・アレクサだ! 前のクラスは鍛冶師で、今は騎士になったぞ! よろしくな!」
ゾーイは太陽のような笑顔を浮かべ、ぱっと両手を上げる。
その明るさに、居並ぶメイド達や兵士達から自然と笑みがこぼれた。
「まさか、気分転換に外へ放り出したら、サブクラス持ちを拾ってくるなんてね」
俺の隣で、呆れ半分、感心半分といった顔をしたミスラが肩をすくめる。
俺は苦笑しながら応じた。
「俺も予想してなかったよ」
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ゾーイ・アレクサ
領地:エリュシオン(インペリアルガード)
クラス:騎士
サブクラス:パラディン(タクティカルクラス)
武器:アストラルソード STR+2 VIT+4(タクティカルグレード)
盾 :アストラルシールド VIT+4(タクティカルグレード)
上鎧:エリアルアーマー VIT+2 STR+2(タクティカルグレード)
下鎧:エリアルゲートル VIT+2 DEX+2(タクティカルグレード)
腕 :エリアルグローブ VIT+2 INT+2(タクティカルグレード)
足 :エリアルブーツ VIT+2 AGI+2(タクティカルグレード)
ステータス
STR 8 VIT 21 DEX 4 AGI 4 INT 6 EXP 3
(領地ステータス:STR 4 VIT 5 DEX 2 AGI 2 INT 4 EXP 3)
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薬草を採りに森へ出たあの日。
エリュシオンへ戻った俺は、真っ先に大鍛冶へ向かった。
目的は当然、ゾーイを勧誘する件について、ガンツへ話を通すためだ。
王とはいえ、他所の職場で働いている人材を引き抜こうとしているのだ。
筋を通すべきだと思った。
……正直、殴られるくらいは覚悟していた。
だが、ガンツから返ってきた言葉は予想外だった。
『そんなもん、本人に聞け! 本人がいいって言うなら、ワシは何も言わん!』
むしろ怒鳴られた。
そして、その直後。
『おう! いいぞ!』
当の本人は、二つ返事だった。
そこから先は驚くほど早かった。
翌日にはステータスの更新を済ませ、新しい住居へ案内。
……もっとも、ゾーイ本人が「広すぎて落ち着かねぇ!」と嫌がったため、結局はリリィやアリアと同じく、城内の一室で暮らすことになったのだが。
装備に関しても問題はない。
ガンツが「餞別だ!」と鼻息荒く用意してくれた一式がある。
その後は城内を案内したり、インペリアルガードの面々へ紹介したりと慌ただしく時間が過ぎ――そして今日、こうして正式なお披露目を迎えていた。
「元気な子ですわね。城の空気が明るくなって、良いことですわ」
近くで様子を見ていたリンウェルが、柔らかく微笑みながら言う。
「ああ。しっかりしてるし、期待してるよ」
俺はそう返しながら、メイド達に囲まれて楽しそうに笑っているゾーイへ視線を向けた。
玉座の間には、これまでになく穏やかな空気が流れていた。
高い天窓から差し込む柔らかな陽光が、まるで新たな仲間の門出を祝福しているかのように床を照らしている。
――だが、得てしてこういう穏やかな時間は長く続かない。
「陛下」
不意に、背後から静かな声が響いた。
「シェリーか」
「はい」
その存在に気づいていたのは、玉座に座る俺と、隣にいたミスラ、リンウェルくらいのものだった。
周囲の者達は、彼女がいつそこに現れたのかすら理解できていない。
「イマリ殿が目を覚まされました」
「もうか?」
思わず聞き返す。
リリィの話では、あの薬なら最低でも一週間は眠ったままのはずだった。
「はい。それで、陛下とお話がしたいとのことです」
「……そうか」
俺は短く答えると、玉座から腰を上げた。
「リンウェル、この場を頼む。ミスラ、ついてきてくれ」
「わかりましたわ」
リンウェルは優雅に頷く。
だが、その直後。
「いえ。イマリ殿は、まず陛下と二人でお話がしたいとのことです」
「?」
俺とミスラは顔を見合わせた。
しばらくして、ミスラは諦めたように肩をすくめる。
「……話が終わったら呼んで」
そう言い残し、彼女は階段を下り、ゾーイ達の輪へと向かっていった。
その背中を見送ったあと、俺はシェリーへ視線を戻す。
「じゃあ、案内してくれ」
「承知しました」
シェリーは静かに一礼すると、音もなく歩き出した。
俺は、その後ろ姿を追いながら、胸の奥に広がる妙な重さを感じていた。
迎賓館の一室。
そこは、落ち着いた色合いの家具と調度品で整えられた、静かな部屋だった。
窓から差し込む夕方の光が、薄いカーテン越しに柔らかく室内を照らしている。
「わがままを聞いてもらって、すまなかったのう」
イマリは浴衣のような寝間着姿で、ベッドのヘッドボードに背を預けていた。
顔色こそまだ少し青白いが、思ったより元気そうだ。
「なんだ。もっと寝込んでるのかと思った」
「ふふん」
イマリはどこか得意げに鼻を鳴らす。
「その薬、本当なら一週間は目を覚まさないらしいぞ」
「鍛え方が、有象無象とは違うのでな」
胸を張るその姿に、思わず苦笑が漏れる。
「まあ、それはいいとして。話ってなんだ?」
「……うむ。まずは、そこに隠れておるメイド殿に退場願おうかのう」
イマリは笑みを浮かべたまま、部屋の片隅へ視線を向けた。
だが、そこには誰もいない。
あるのは、夕陽に染まる壁と、静かに揺れるカーテンだけ。
――いや。
「ほう。見抜きますか」
何もないはずの空間から、声だけが響いた。
空気が揺らぎ、シェリーの姿が浮かび上がる。
「なんとなく気配がな。瑞穂国出身のワシも、お主と“同じ世界の住人”じゃからのう」
イマリはニヤリと笑う。
「なるほど。瑞穂国……あなたの服装を見た時から、もしやとは思っていました」
シェリーの瞳が細められる。
「?」
話についていけず、俺は二人を交互に見た。
そんな俺へ、イマリは軽く手を振る。
「安心せい。あとでちゃんと説明してやる」
だが、シェリーは一歩も引かなかった。
「そういうことでしたら、なおさらこの部屋を離れるわけにはまいりません。
瑞穂が誇る“宵闇の烏”と陛下を二人きりにするなど、危険すぎます」
その瞬間、シェリーの目に鋭い光が宿る。
「ほう……」
イマリもまた、その視線を真正面から受け止めた。
静寂。
空気がぴんと張り詰める。
互いに笑みを浮かべているはずなのに、肌を刺すような緊張感が部屋を満たしていた。
その空気を破ったのは俺だった。
「シェリー。頼む。イマリと二人にしてくれ」
「……しかし」
「頼む」
「ただの世間話じゃよ。うちの姫に関する話じゃ。だから安心せい」
イマリも穏やかな声で続ける。
シェリーはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……承知しました。部屋のすぐ外におります。何かありましたら、すぐお呼びください」
どこか不満げにそう言い残し、彼女は部屋を後にする。
扉が閉まる音が静かに響いた。
「良い部下を持ったものじゃのう」
イマリは、その扉を見つめながら優しく笑う。
「ああ。自慢の部下の一人だよ」
俺はそう返し、改めて彼女を見る。
「それで……カワナミさんの話って?」
「ん……ああ……それなんじゃが……」
イマリの表情が変わった。
先ほどまでの軽口混じりの空気が消え、代わりに重たい影が差す。
彼女は一度視線を伏せ、言葉を探すように沈黙した。
俺は急かさず、その続きを待つ。
やがて。
イマリは静かに口を開いた。
「姫は……いや、あの娘は……もう、駄目かもしれん」
その言葉は、夕暮れの薄い光よりもなお冷たく、静かに部屋の中へ落ちた。




