第六話 陥落
本日分の更新です。
引き続きお楽しみいただければ幸いです。
本日は、このあと12時、19時にも投稿予定です。
「敵襲ぅぅ!!!!」
その叫びで叩き起こされた。
最悪の目覚めだった。
「……敵襲? なんだ……?」
状況を理解するより早く、自室のドアがノックもなく開かれる。
「敵襲です! どこかの領主が攻めてきました!」
ミリィが顔面蒼白のまま、息を切らして飛び込んできた。
領主……?
ということは――クラスメイトか?
一瞬、頭の中に淡い期待がよぎる。
――クラスメイトなら、話せば分かるんじゃないか?
「現在、館の正面でカイさんたちが対峙しています!」
「ッ……!!」
ベッドから跳ね起きる。
理由なんて分からない。
だが、体が勝手に動いていた。
バルコニーへと駆け出す。
目に飛び込んできた光景に、息が止まった。
点々と燃え上がる家々。
黒煙が空を覆い、悲鳴が遠くから響く。
そして館の正面。
血まみれで倒れている騎士。
それを取り囲む武装した二十人ほどの集団。
カイたちが、必死に対峙していた。
「……クソっ」
カイが、苦虫を噛み潰したように吐き捨てる。
「なんだよ、大層な鎧着てよぉ。こんな弱っちいのかよ」
「大人数で襲っておいて何をほざく!」
騎士の一人が怒鳴る。
「やめろっ!」
カイが、視線も向けずに制した。
「大人数? 笑わせるなよ」
嘲る声が、敵の後方から響く。
「こいつぁ“戦争ゲーム”なんだろ?
なら――人数も戦略の一つじゃねぇか!!」
その言葉とともに、人垣が割れる。
現れた男の顔を見た瞬間、俺の呼吸が止まった。
「……あれは……クドウ……か?」
見間違えるはずがない。
クドウ・マサヤ。
クラスの中心にいるやつらの後ろを、いつも金魚のフンみたいに付いて回っていた男。
見覚えのある輪郭。
知っているはずの顔。
なのに――どこかがおかしい。
血走った目。
歪んだ笑み。
人間のそれとは思えない表情。
クドウは、口元を歪めたまま――
倒れている騎士の体を、まるでゴミでも扱うかのように軽く蹴り飛ばした。
背筋に、ぞわりと嫌な感覚が走る。
声が、出なかった。
喉が張りついたように動かない。
それでも無理やり、絞り出すように――
「クドウーッ!! やめろ!!
なんでこんなことをするんだ!!」
気づけば、身を乗り出して叫んでいた。
「主様、危険です!」
ミリィが慌てて俺の腕を掴む。
その瞬間。
眼下の全員の視線が、一斉にこちらを向いた。
「……」
「……アサヒ……か?」
クドウの目が、ゆっくりと見開かれる。
「そうだ! 俺だよ!
やめてくれ! 何があったんだ!?」
必死に問いかける。
「そうか……そうかよ……」
呟きながら、クドウの視線が俺からミリィへと移る。
必死に俺を止めている、その姿へ。
「……ハハ……」
笑いが漏れる。
「ハハハ……ハハハハッ!!」
狂気じみた笑い声が、場を支配する。
「最高だ!
最高じゃねぇか!!
見せしめにはよぉ!!」
笑みが、すっと消える。
そして、冷たい声で一言。
「――やれ」
次の瞬間。
襲撃者たちが、一斉にカイたちへと襲いかかった。
「やめろぉぉッッ!!」
叫びは――届かなかった。
多勢に無勢。
一瞬だった。
四人の騎士が、あっけなく斬り伏せられる。
血が、飛ぶ。
人が――簡単に、壊れる。
そんな光景、見たことがなかった。
全身から力が抜ける。
視界が揺れる。
気づけば、ミリィに引き剥がされていた。
「主様……!」
華奢な腕とは思えない力で、俺を部屋へと引き戻す。
その時だった。
「待ってろよ、アサヒ!!」
クドウの声が、はっきりと耳に届く。
「恨みはねぇが――全部奪ってやる!!
この地も……“その女”もなァ!!」
――その言葉だけが、頭に焼き付いた。
それから三十分も経たないうちに。
第十五領地は、陥落した。
領主の間。
最初に俺が立った、あの玉座の間に――
襲撃者たちと、捕虜たちが集められていた。
男たちは床に押さえつけられ、
女たちは壁際へと追いやられている。
「なんだ……たったこれだけかよ」
クドウが、つまらなそうに吐き捨てながら入ってくる。
「なぜまだ生かしているのです?」
側近らしき男が問う。
「決まってんだろ」
クドウは、にやりと笑う。
「これから“面白いショー”をやるんだからよ」
「そんなことより、領主を――」
「うるせぇぞ、ポフバ」
「……っ」
睨まれた男は、黙り込んだ。
「さてさて……」
クドウは玉座に腰を下ろし、俺を見下ろす。
「二週間ぶりだな、アサヒ」
「……」
「元気……ではねぇよな。まぁ、それはこの“ゲーム”が悪い」
「ゲームが悪い……だと?」
「そうだろ?
ただの高校生の俺たちに、法律もクソもねぇ世界で――
殺し合いしろって言ってんだぜ?」
「殺し合いなんて……ルールは……ないはずだ!」
「言ってるようなもんだろ、こんなの」
「……」
「……だよなぁ……?」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「最高だよなぁッ!!」
クドウの顔が、狂気に歪む。
「何したっていい!
誰にも咎められねぇ!!
本能のまま生きていい世界だ!!」
「お前……何を……」
「ユウジもそうだ!
あいつ、俺を見下してた!
ミヤビもセイラも……あの女どももだ!!」
息が詰まる。
「そいつらを――いたぶって殺せるんだぜ!!
この世界はよぉッ!!」
瞳孔が、完全に開ききっていた。
壊れている。
完全に。
「……まぁ……その前に」
クドウが立ち上がる。
ゆっくりと、壁際へ歩いていく。
恐怖に慄く人々の前で足を止めた。
そして――
「戦利品は味わねぇとなぁ」
その言葉に、空気が凍りつく。
「や、やめて……」
誰かの震える声。
クドウは楽しそうに笑った。
「ははっ……その顔だよ」
その時だった。
一人の少女が、静かに前へ出る。
言葉はない。
だが、その瞳だけは揺らいでいなかった。
ミリィだった。
「や……やめ……」
「いいねぇ、その目」
クドウが口元を歪める。
「美味そうなのは最後に取っとく主義なんだがな」
にやり、と笑う。
「気に入った」
その一言で、周囲の男達が動いた。
「やめろぉぉ!!」
俺の叫びも虚しく、
ミリィは中央へと引きずり出される。
「アサヒ!! よぉく見とけ!!」
クドウが叫ぶ。
「勝った奴が正義だ!!」
「勝った奴が全てを手に入れる!!」
「弱ぇ奴は――見てるだけなんだよッ!!!」
ミリィの抵抗は、
圧倒的な力の差の前に押し潰されていく。
「やめろ……」
声が震える。
「やめろ……!」
誰も止められない。
俺も。
――そして。
クドウは、ミリィの体を貪り始めた。




