第四十八話 リンウェル・クロフォード
朝食を終えたばかりの迎賓館は、まだ静かな余韻をまとっていた。
磨き上げられた床には朝の柔らかな光が差し込み、窓辺のカーテンを淡く揺らしている。
その静寂を破るように、玄関ホールの扉が重々しく開かれた。
外から流れ込んできたのは、澄んだ朝の空気と――
「おはようございます」
落ち着いた声だった。
アンソニーが一歩踏み出し、軽く頭を下げる。
その隣に立つ人物へ、俺の視線は自然と引き寄せられた。
絵に描いたような金髪の縦ロール。
陽光を受けてきらりと輝くその髪は、風にわずかに揺れ、まるで作り物のような整い方をしている。
纏うドレスもまた気品に満ちているが動きやすそうで、ただ立っているだけで周囲の空気を一段引き締めていた。
ただ、その腰には細剣を携えていた。
「この者はリンウェル。本日、俺と共に陛下をご案内致します」
アンソニーの紹介を受け、彼女は一歩前へ出る。
「お初にお目にかかりますわ。陛下」
指先でふわりとドレスの裾をつまみ、
片足をすっと後ろへ引く。
そして、流れるように膝を折った。
その所作には一切の淀みがなく、長年身体に染み付いた礼法であることが一目で分かる。
ドレスの襟元から覗く柔らかな曲線が、危ういほどの存在感を主張した。
「リンウェル・クロフォードと申します。
本日はそこのアンソニーが口下手ということもあり、私が中心でご案内致しますわ」
アンソニーの顔が僅かに歪む。
言葉と同時に浮かべる笑みは柔らかく、どこか人懐こさすら感じさせる。
隣で無言を貫くアンソニーとは対照的に、彼女は場の空気を軽やかに動かしていた。
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リンウェル・クロフォード
クラス:騎士
サブクラス:フェンサー(タクティカルクラス)
武器:アミラル エストック STR+2 DEX+2(タクティカルグレード)
効果:攻撃を一定回数以上当てる毎にSTRが+1される
上鎧:ナイトヴェールライトアーマー VIT+1 STR+2(タクティカルグレード)
効果:日が落ちている時はSTRが+2される
下鎧:レギングオブナイトヴェール VIT+1 DEX+2(タクティカルグレード)
効果:日が落ちている時はDEXが+2される
腕 :ナイトヴェールグローブ VIT+1 INT+2(タクティカルグレード)
効果:日が落ちている時はINTが+2される
足 :ナイトヴェールブーツ VIT+1 AGI+2(タクティカルグレード)
効果:日が落ちている時はAGIが+2される
ステータス
STR 8 VIT 8 DEX 6 AGI 6 INT 3 EXP 3
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(相変わらず……この領地のサブクラス持ちはステータスが高いな……)
内心でそう呟きつつ、俺は口を開く。
「あぁ。今日は――」
だが、その言葉は最後まで続かなかった。
「リンウェル!?」
背後から、弾けるような声。
振り返ると、ミスラが目を見開いて立っていた。
驚き、困惑、そして――ほんのわずかな安堵。
その複雑な感情が、そのまま表情に浮かび上がっている。
「ご無沙汰しておりますわ。ミスラ殿下」
リンウェルは変わらぬ笑みで応じた。
「どうして……あなたが……ここに?」
ミスラの声は、わずかに揺れていた。
俺は思わず口を挟みそうになったが、その言葉を飲み込み、二人のやり取りを見守ることにする。
玄関の外では、風が石畳を撫で、庭木の葉がかすかに擦れ合う音を立てていた。
「どうして?……殿下……国王陛下から、聞いていらっしゃらないのですか?」
「え……あ……ごめんなさい。父とはここ数年あまり話していないの……」
ミスラは視線を落とし、気まずそうに言う。
一瞬、空気がわずかに沈む。
だが、リンウェルはそれを気にした様子もなく、穏やかに続けた。
「そうですの……実は、クロフォード家から、父と私の二人が“この島”に来ておりますの」
「クロフォード卿も!?」
ミスラの顔がぱっと上がる。
「ええ。あ! 心配はいりませんわ! 家督は兄に譲っておりますので」
軽やかな口調。
だが、その裏にある決断の重さは、決して軽いものではないはずだ。
家督を捨て、この島へ来る。
それは貴族にとって決して軽い決断ではない。
「じゃあ……クロフォード卿もこの島のどこかに……」
ミスラの声音は、どこか神妙さを帯びていた。
「あ、いえ。父は“この領地”におりますわ!」
(え?)
「え?」
俺とミスラの声が、ほぼ同時に重なる。
「幸いなことに、私達は同じこの地に飛ばされましたの」
(この広く分割された島で、それは……)
奇跡に近い。
俺は思わず、視線を横へ流す。
そこにいたカイは――
唇を強く噛みしめ、拳を握りしめていた。
その指先には、わずかに力が入りすぎて白くなっている。
(理不尽……か……)
誰もが同じ条件ではない。
それを突きつけられたような、そんな表情だった。
「父も、殿下にご挨拶したがっておりましたが……現在は別陣営。
自重しております故、どうかご理解頂けましたら幸いですわ」
リンウェルはそう言って、静かに頭を下げた。
「もちろん! この同盟が成った暁には、きっとご挨拶に伺うと思いますわ!」
ミスラも、すぐに明るさを取り戻す。
「え……ええ……それはもちろん」
だがその声には、わずかな戸惑いが残っていた。
やがて、ミスラは俺たちの視線に気づき、小さく肩をすくめる。
「あぁ……ごめんなさい」
そして、改めて俺たちに向き直った。
「彼女はシルフィード国、クロフォード侯爵家の長女よ」
「同郷というわけか……」
「ええ。お父上のクロフォード卿は高潔で品行方正なお方よ」
「なるほど」
短いやり取りの中で、その家の格と重みが伝わってくる。
「彼女とは夜会なんかで、少し話しただけだったけど」
(もしかすると……)
胸の奥に、かすかな可能性が芽生える。
だが――
俺は小さく首を横に振り、その考えを打ち消した。
「どうしたの?」
ミスラが不思議そうに覗き込む。
「いや、なんでもない」
そう答え、視線をリンウェルへと戻す。
迎賓館の扉の外では、朝の光が一層強くなっていた。
石畳の先へと続く道は、今日の行程を静かに示しているかのようだ。
「それじゃ、旧交を温めたいだろうが、とりあえず案内を頼めるか?」
「もちろんですわ!」
リンウェルは明るく応じると、くるりと踵を返す。
その動きに合わせて、縦ロールの髪がふわりと揺れた。
そして彼女は先頭に立ち、朝の光の中へと歩み出していく。
俺たちもその背を追い、迎賓館の敷地を後にした。




