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第四十四話 ぶつかる想い

いつもお読みいただきありがとうございます。

初めて評価ポイントをいただくことができました。

読んでくださった方、評価してくださった方、本当にありがとうございます。

とても励みになりました。

今後もストックと相談しながら、二話投稿を継続していく予定ですので、お付き合いいただければ幸いです。

また、ブックマークや評価などで応援していただけると今後の励みになります。

昨晩から降り続いていた雨は、昼過ぎになってようやく止んだ。


だが地面はひどくぬかるみ、踏ん張りが効かない。


特に領主邸の中庭は、水はけがいいとは言えず、足を取られやすかった。



「あまい!」



その声と同時に、俺の手にあった木刀が宙を舞う。


そして――



「ぐっ……!」



土手っ腹に、重い一撃。


鈍い衝撃が内側まで響き、息が詰まる。


俺は腹を抱えたまま、両膝を地面についた。



「はい! バカ陛下の負け〜!」



リリィの、どこか楽しげで、どこか刺すような声が降ってくる。



「チッ……」



思わず舌打ちが漏れる。



「んー、悪くはねぇと思うぞ? 悪くはねぇ……が……」



カイは腕を組み、少し考え込むように視線を落とした。



「ステータスか……」



俺が呟くと、



「あぁ……」



短く返ってくる。



「まぁ、“俺たち”にはステータスそのものの概念がないからな……」



そう言って、俺は空を仰いだ。



「重いものが急に持てるようになったりしないの?」



リリィが不思議そうに首をかしげる。



「ないな」



「知識が勝手に入ってきたりは?」



「ない」



「じゃあ、手先が器用になったって感じたりは?」



「それもない」



「役立たず」



「泣くぞ」



意地悪く笑うリリィを、涙目で睨み返す。



「まぁなんだ、この前ミスラ様がやったみたいに、ステータス差は経験と技術で埋めるしかねぇな」



「あぁ……そうだな」



「時間はかかるだろうが」



「気長に……とは言ってられないが、やるしかないか」



カイの表情が、ふっと緩む。



「そうそう、七番領地の件だけどな……」



「ん?」



「俺も行くことにした」



「!?」



いつの間にか、カイの顔は真剣なものに変わっていた。



「いい……のか?」



「あぁ。俺も覚悟を決めた」



「……そうか」



「だから、よろしくな!」


差し出される手。



「……」



俺は、その手を見つめる。


ミスラのときと同じ感情が、胸の奥に流れ込んでくる。


だが――迷っている時間はない。



「こちらこそよろ――」



「あたしも行く!!」



手を取ろうとした、その瞬間だった。



「!?」



「あたしも行くって言ってんの!」



その声は、さっきまでの軽さとはまるで違っていた。


まっすぐで、強くて――どこか、追い詰められた響き。



「……ダメだ」



思わず、言葉が低くなる。



「え?」



「ダメだ!!」



自分でも驚くほどの声量だった。


中庭に、鋭く響く。


リリィの肩が、びくりと跳ねた。



「……なんでよ」



か細い声。


だが次の瞬間、それは弾ける。



「なんでよ!!」



一歩、踏み出してくる。


ぬかるんだ地面を踏みしめて、まっすぐに。



「私だって戦える! 私だってやれるよ!」



「違う……そうじゃ……」



言葉が、うまく出てこない。



「じゃあなんでよ!」



さらに一歩。


距離が詰まる。


その瞳が、揺れていた。



「――ッ」



うっすらと、涙が滲んでいる。



「なんでって……そんなの決まってるだろ……!」



喉の奥が焼けるように熱い。



「私にも戦わせてよ!!」



声が震える。



「一人にしないでよ!!」



――その言葉が、胸を抉った。



「……ッ!!」



思考が、止まる。


それでも――



「……とにかく! ダメなものはダメだ!!」



吐き出すように言い切る。


それ以上、ここにいれば――何かが壊れる気がした。


背を向ける。


ぬかるんだ地面を踏みしめながら、中庭を後にする。


握りしめた拳は、爪が食い込むほど強く、震えていた。



「……」



「……バカ陛下……」



リリィが俯いたまま、小さく呟く。



「なぁ、リリィ」



「……?」



「あいつの気持ち……少しは分かってやってくれねぇか」



「……」



「あいつはな……お前のことが大事なんだよ。守りてぇって思ってんだ」



「……私のほうが……強いよ」



「んー……まぁ、そういう話じゃねぇんだよな」



「じゃあどういう話なの?」



「リリィ……お前、アテーナでの襲撃戦で、ずいぶん無茶な戦い方したらしいな」



「……」



「やっぱり……“わざと”か……」



「……だって……」



カイは、小さくため息を吐く。


そして、そっとリリィの頭に手を置いた。



「あいつを今突き動かしてるのはな……ミリィさんへの誓いだ」



「!」



「お前の気持ちも分かる。けどな……」



少しだけ、声が柔らぐ。



「あいつの気持ちも、ほんの少しでいい。考えてやってくれねぇか」



「……」



「カイ様……私……どうしたらいいか……わかんないよ……」



「……そうか」



静かに頷く。



「じゃあよ――あいつのために、“生きて”みたらどうだ」



「……陛下の、ために?」



「あぁ。少なくとも、あいつはお節介なことに、お前のために生きてる」



カイが、にやりと笑う。



「……でも、それって……」



「ん? あぁ! いっそ結婚でもしちまえばいい!」



「!?」



リリィの顔が、一気に赤くなる。



「この島じゃ、王だの貴族だの平民だの関係ねぇしな!」



「……」



「まぁ、極論だけどよ」



少しだけ真面目な顔に戻る。



「お前に生きてほしいって思ってるやつが、すぐ近くにいるってことだ」



リリィは何も言わなかった。


言い返せなかった。



「……」



「いや、近くだけじゃねぇな」



「……?」



「遠い空からも、願ってるはずだぜ」



「……うん」



「ったくよ、この!」



そう言って、カイはリリィの頭をぐしゃぐしゃにする。



「ちょ、やめて……やめてよカイ様!」



必死に振り払おうとする。



「世話の焼けるやつだなぁ!」



「だからやめてって!」



「あぐッ!!」



リリィの一撃が、カイの腹に突き刺さる。



「ぐっ……! う……ッ……」



その場に崩れ落ちるカイ。



「まったく……女の子の髪をぐしゃぐしゃにするとか、どういう神経してんの!」



ぷんすかと怒りながら、リリィは背を向ける。



「……でも」



足を止めずに、小さく呟く。



「ありがとうね……カイ様」



「……ん?」



「少し、考えてみる」



「あぁ。急ぐ必要はねぇ。ゆっくりでいい」



カイは、優しく笑った。


どこか父親のような、穏やかな笑みだった。



「まったく……そんな格好で言われてもね……」



中庭に差し込む光が、ぬかるんだ地面をきらきらと照らしていた。


まるで、雨上がりの空のように。


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